ストーk……、じゃなくて、尾行!
「ちょっとかおり! なんで今日に限って自転車じゃないのよっ」
「仕方ないじゃない、……パンクしちゃったんだから」
放課後、かおりと和葉はいつものように下校していた。互いの家の場所は知らないが、なんとなく帰る方向が一緒なので二人で帰っている。
ぼやく和葉に、かおりはめんどくさそうに答えた。
「ぷーくすくす。重いからじゃない? ぷー」
「どつきまわしたろか、このツンデレ」
べしっと和葉の額を叩く。和葉は涙目になりながら、
「いちゃいじゃない! このデカチチ!」
「貧乳よりマシよ……。はあ、別に私が歩きのなにが不満なのよ」
「だってあたしまでもが歩きになるじゃない!」
いつもなら自転車の和葉だが今日は歩きだ。どうやら歩きのかおりに合わせて、自転車を学校に置いてきたらしい。
「なら乗って帰ればいいでしょう……」
かおりがこめかみに手を当てて答えると、和葉は人差し指同士を当てながら、
「だって一緒に帰りたい……じゃなくてっ。あ、あたしが一緒に帰らないとかおりが寂しいでしょ? あたしってばやさしー!」
と和葉。
かおりは心の中で苦笑。
「私、一人が好きだからいいわ」
「え。(ぴえん)」
子犬のようなつぶらな瞳を向ける和葉。
「冗談よ」
「……ぐすん。べ、べちゅに、悲しくなんてないんだし」
「……仕方ないから今度遊んであげるわ」
「ほんと! 何して遊ぶ♪」
(ちょろいわww)
かおりは笑いそうになるのを堪えて和葉を手懐けた。そんなこともつゆほども知らない和葉は嬉し気に体を揺らす。
「ねー、話は変わるんだけどさ」
和葉がそう切り出す。かおりは続きを待つように黙った。
「最近浩太の様子が変よね」
「そうね、柊さんがどうたらって、今日も悩んでた」
「ヤンキーみたいな顔してるのに、そう言うところは女々しいのよね。あたしがいるから気にしなくていいのに!」
と何故か自信満々な和葉に、
「あなたに彼女の代わりが務まるかは置いといて……。でも柊さんどうしたのかしらね。あの二人、結構仲良かった気がするけれど」
「しらなーい。どーせ浩太がヘンタイなこと言って愛想尽かされたんじゃないの?」
口を尖らせてジト目になる和葉。本当にそうならいいけれど。
そう思いながら歩いていると、ふと、視界にうつる光景に気を取られた。
「あれって」
和葉も気が付いたのか、小さなつぶやきを漏らす。
「柊さん……よね?」
そこには柊木乃葉の姿があった。それだけでなく、男子高校生と一緒に歩いている。もちろん、伊東浩太ではない。
あれは他校の制服だ。
「ももも、もしかして、ちゅ、ちゅきあってるのかしら!?」
「ちょ、ちょっと落ち着きなさい。そうだとしても、そんなに大きな声出すのは人道に反するわ」
と、和葉をなだめるかおりも、心中穏やかではなかった。
「つ、付き合ってるのかな」
と和葉。
「あの感じだとそんなところでしょうね」
「浩太に報告する?」
「そうね……、まあ原因がわかったら浩太も納得するかもしれない……わね?」
にしても、と、かおりは訝しんだ。柊木乃葉は誰とも付き合わない、というのは割と有名な話である。ある所では浩太と、なんて噂されているが。まさか他校の生徒と?
相手は……、なんだか木乃葉の雰囲気と比べてギャップを感じる。制服は気崩し、高校生らしからぬピアスに、髪型。
「なーんか趣味悪いわね……。浩太の方が一億倍いいわ」
「とやかく言う事じゃないけれど、最後は同感ね」
「ねえ、かおり」
と、和葉が眉根にしわを寄せて言う。
「尾行してみましょ」
……はい?
かおりは一拍置いて、
「聞き間違いかしら」
「いいえ、聞き間違いじゃないわっ」
「なんでその思考になるのよ……。趣味が悪いのはあなたの方じゃ」
「だって、あたしの直感が告げてるもの」
「直感?」
とかおりは訊ねた。興味本位で和葉が言っている事じゃないということが分かったからだ。
「なんか怪しいのよね、あの男! 絶対やばいやつよ、柊さんが危ないわ」
「それ見た目で判断してるでしょ」
やれやれと肩をすくめるかおり。めんどくさそうだから帰ろう、そう思って踵を返そうとするが、和葉に袖をつかまれる。
「やだやだ帰りたくないっ。ねーえ、かおり! いいでしょ?」
「あなたは子ども!? 小学生みたいなこと……」
「それに、本当に付き合ってるか、浩太に報告しなきゃ、でしょ?」
和葉のキラキラした視線に耐えられずかおりは、
「……ちょっとだけよ」
渋々折れた。
ちょっと気になるのも確かだった。浩太がずっと他の女のことで悩んでるのが気に食わなかったし、もし解決に近づくなら越したことはない。
浩太にその気があるのかは分からないが、これで木乃葉が浩太に……なんてことになったらどうしようと思わなくもないが、危険を無視するのもまた、かおりの信条にそぐわない。
「やった」
と小さなガッツポーズを作る和葉。
「浩太に報告するかは後で考えるとして、まずくなったらすぐ帰るんだからね」
「うんうん! さあ、デュオ探偵、いきましょー!」
「それはなし」
そんなこんなで変態と変人コンビは人生初のストーカーを執り行うのだった。




