山腹の洞窟を抜けて5
「助かったよ」
再び周囲の脅威がなくなったことを確かめてから、リンの方へと向き直る。
「……まさかローブの方が本体とはね」
この展開は彼女には予想外だったのだろう。
今しがた灰になって散っていったその黒幕のいた辺りに目をやりながら、しみじみといった感じで呟いた。
「こいつらもヴェトルが?」
「どうだろうね。スケルトン自体は普通に存在するモンスターだけど、死霊術師以外にそれを操る者というのは聞いたことがない。それに私の知る限り、死霊術師にしたってスケルトンを使役するには他の何かに頼るという手はなかったはずだ」
つまり、本来ならあのローブは存在しえないものということだ。
「……ヴェトルか、或いは奴の背後にいるフィンブルスファートの与えた力か……」
そのどちらにせよ、大神官の懸念は決して考えすぎという訳ではなさそうだ。
「とにかく先を急ごう」
「ああ。分かった」
既に連中の力が及ぶようになっている――その実感が俺たちの足を洞窟の更に先へと向かわせた。
こちらを迎え撃つようにその戦力を配置している――その事実から極力目を背けているのは、俺だけだったのだろうか。
とにかく、最初にローブが操っていたスケルトンのいた場所の真下、更に先へと続くトンネルを進む。
先程よりも少し広いその道は一直線の緩やかな下り坂になっていて、今回は松明の明かりが必要になる暗さだ。
灯した火を頼りにその暗い道を進んでいく。先程通過したトンネルの倍以上の長さを感じるのは、暗闇の中故の錯覚ではないだろう。
しばらく進んだ先、ようやくその暗がりのゴールが見えてきたのと同時に、俺たちは声を上げた。
「おぉ……」
「あれが……」
進行方向に現れた光。その中に足を踏み入れた時に目にした光景は、思わず立ち止まり、自然と声を上げさせる。
洞窟を抜けた先にあった、ちょっとした高台。
そしてその高台の眼下に広がっている、先程までとは比べ物にならないぐらい巨大な岩のドーム。
いや、もはや盆地というべきだろうそれは、その周囲をぐるりと囲んでいる高い岩壁がなければ、ここが山の中腹に位置するという事など忘れてしまうような広さだ。
そしてその広大な盆地の中、差し込む日差しによって薄暗い中に浮かび上がっているようにさえ思える都市。
周囲を囲む石壁の上から、様々な形の屋根が飛び出しているそこの奥には、その背後にある岩壁までの高さのある塔が一つそびえ立ち、差し込む日差しを受けて日時計のようにその長い影を足元の都市に落としている。
「これが……」
「ああ……」
俺たちはその光景に魅入られたように足を止め、じっとその神秘的なかつての都市の姿を見つめながら、ただそれだけ呟いた。
どちらもその先は出てこない。だが、頭の中にある言葉はどちらも同じだと確信できる。
あれこそ話に聞いていたシュクシュ。かつてエルフの里の入口となっていたという都市の、その廃墟だ。
何故こんな場所に都市を築いたのか、そしてなぜそれが滅んでしまったのかは分からない。だが、少なくとも往時には極めて繫栄した都市だったのだということは、こうして残された遺跡を遠くから眺めるだけで分かるほどに、その姿は威容と呼ぶのに相応しかった。
しばし、そのまま佇んでいた。
あまりの姿に圧倒されていた。
だが当然、そのまま眺めている訳にもいかない。
「……あそこに入っていくんだな」
「……ああ」
気持ちを引き締め、俺たちは遠くの都市から目の前の高台へと改めて意識を向ける。高台の端には先程までよりも急な下り坂が、目指すべきシュクシュの遺跡に伸びている。
そして見下ろすその道の先。いくつもの岩盤がめくれ上がって波のようになっている中に伸びているその先に、ここからでもその大きさのわかるゲートが一つ。
恐らくそれが周囲の荒れ地とシュクシュの領域を隔てているのだろうというのは、荒涼とした岩だけの世界と、かつては人の手が入っていたのだろうと思われる背の高い草の生い茂った草原とを、そのゲートを境にくっきりと分かれていることで何となくわかった。
まずはあのゲートを越える必要がある。侵入者を拒むようにぴたりと閉じられたそのゲートを。
下り坂を下りていけばいくほど大きく見えてくるそこを目指して、俺たちは差し込む日差しを求めるようにシュクシュの町へと歩を進めていった。
(つづく)
投稿遅くなりまして申し訳ございません
今日は短め
続きは明日に




