山腹の洞窟を抜けて4
ローブがふわりと舞い、五体目のスケルトンも自らが既に死んでいることを急に思い出したかのように崩れ落ちていく。
「終わったか……」
「リヒト!そっちは無事?」
操っていたのだろうスケルトンを倒した張本人がこちらにやってくる。
「ああ。こっちは大丈夫だ。よくやってくれたな」
迎えた彼女は、しかしどこか腑に落ちないといった表情を浮かべている。
「……どうしたんだ?」
「うん……ひとつ気になることがあって」
「気になること?」
オウム返しにする俺に、リンは辺りに転がっているスケルトンを構成していた骨に目線を走らせる。
「あのスケルトンがこいつらを操っていたとして……あのスケルトンはどうやって動き出したんだろう?」
彼女のその疑問を俺の頭が理解し、同じ疑問を抱いた瞬間、倒された場所に落ちたと思われた例のボロボロのローブが、自らに意思があるかのようにこちらに飛んできた。
「「ッ!!?」」
そしてそれを目にした時には、転がっているスケルトンのうちの一体にもう一度巻き付いている――紫色の霧のように纏わりつく光を放ちながら。
「なっ――」
起き上がるスケルトン。
そいつだけでなく、俺たちを囲んで倒れている全てが同時に。
最初の一体がどうやって起き上がったのか――その答えが目の前に示される。
スケルトンを操っていたのは、別のスケルトンではなくあのボロボロのローブそのものだ。
「くぅっ!」
起き上がろうとする一番近くのスケルトンを蹴り飛ばし、ローブを纏ったスケルトンに殺到する。
「ッ!!」
その行く手を阻むように一瞬で起き上がる別のスケルトン。その動きに合わせるようにして、地面に対して垂直に放たれた切り上げが俺の足を止め、その一瞬の隙にもう一体のスケルトンが、クラウチングスタートのようにこちらに飛び込んできた――剣を体の前に突き出す形で。
「ッ!!!」
足を止めたことで、回避動作が僅かに遅れる。
一度止めた足を再度動かして地面を蹴る必要。或いは横から飛び込んでくるそいつに向き直って迎撃する必要。
そのどちらをするにも、この僅かな遅れが致命的であるということは、剣の加護を受けた体が直感的に理解した。
「光よ、我が敵を射抜け!ファイアボルト!」
その直後に放たれた一発が、飛びこんでくるそいつを反対方向に吹き飛ばして窮地を救ってくれたということも、また。
「そのまま行って!今度こそ奴を!!」
同時にリンの叫び声。
それを合図に再度走り出す。足を止めたスケルトンが再度斬りかかってくるのを体ごと懐に飛び込んで突き飛ばし、たたらを踏むそいつを躱した一番向こう。そうすることを即座に指示していたと思われるローブへ。
「……ッ!!」
「おおおっ!!」
奴が再び剣をこちらに向ける。
だが、遅すぎる。
「ッ!」
一撃を脳天に叩き込む。
頭蓋骨が砕けていくのが手応えだけでも分かった。
崩れ落ちるローブのスケルトン。それに合わせて再度バラバラになる他のスケルトンたち。
「っと!」
そこから逃れようとするローブの端を、なんとかぎりぎりのところで掴むことが出来た。
「逃がすか!」
ばさばさと全身――と言っていいのか分からないが――を暴風に吹かれたように何度も翻して暴れるそいつを無理矢理地面に引きずり下ろす。
「うおっ!!」
地面についた瞬間、奴は抵抗の方法を変えた――逃げるから迎撃へ。
ばさりと大きな音を立てて土煙を巻き上げると、その勢いのまま俺に巻き付こうとする。
意思を持った布。その初めて対峙する存在は、骨だけだろうがそうでなかろうが関係ないとばかりに俺の体を包み込もうとする――その長辺を首に食い込ませるように。
「リヒト!そいつを放して!!」
リンが叫び、体が同時に動く。
奴は絞め殺すつもりだったのだろうが、剣を持ったままの相手を絞めにかかったのは失敗だった。
「言われなくても……っ!!!」
自分の顔の前に突き上げるようにして剣を立てる。
一瞬だけできたローブと体の隙間に差し込んだそれが、巻き付こうとするその布を貫通して切っ先を顔の前に現した。
「ッ!」
と、同時に奴が逃げる。
きつく締めあげようとする拘束を解き、即座にふわりと体から離れる。
――だが、今度はそう簡単にはいかない。
「光よ、我が敵を射抜け!ファイアボルト!」
再びの詠唱と共に俺のすぐ横を飛び去った火球。
その一発が距離を取るためにだろう、大きく翻るべく波打ったその瞬間に叩き込まれた。
「よし!!」
リンが声を上げる。
火球が爆散するように炎がローブの表面に広がるのは、ほんの一瞬の出来事。
そしてその広がった炎は、ボロボロの古びたローブを、それ自身にとっては全身火傷と言えるほどに包み込んだ。
今度こそ終わり。そう直感できる、焼け焦げたぼろ布。
それまでの自由に空中を舞っていた姿はなく、ごく普通のぼろ布のように地面に落ちて、ごく普通のぼろ布としてさえ使えないぐらいの燃えカスとなった姿を晒していた。
そして、その燃えカスが灰となって散っていく。
スケルトンたちは動かない。真っ黒に焼け焦げたかつてのローブは、無数の細かな灰となって、どこからか吹き込んでくる僅かな風の中に舞い上がり、そして消えていく。
残されたのは、ローブと同じぐらいボロボロの、とても今まで立ち上がり戦っていたとは思えない、化石のような骨と、それが散乱する中に立っている俺たち二人。
静かさを取り戻した岩のドームの中で、俺たちはひとまず安心できることを悟った。
(つづく)
投稿遅くなりまして申し訳ございません。
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