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59.迫り来る祓魔師たち ⑥

前回のあらすじ:この世に神はいるのか。

 ある種の敵意を募らせながら建物に辿り着く。門番に「相談したい事がある」と伝えるとあっさり中へ通された。部屋の場所まで教えられる。サムは言われた通りその部屋の前にくると、深呼吸して中に入った。


 そこには二人の男がいた。どちらも初めて見る顔だ。アシュリーはこの中にいないらしい。立っているキノコみたいな頭の男が、気取った発音でマルクと名乗った。(酒場に来ていたもう一人の聖職者というのは、こいつのことだろう。肝心なのは居ないが、同行者がいるなら話は早い)


 この街の住人にしてはかなり身なりが整っている。警戒心は滲み出ているが、居丈高な雰囲気は意外と感じられなかった。


 椅子に座っている赤髪の男が「ライリー」と言う。こちらは髪の毛がボサボサで、ボタンもいくつか空いているままだ。マルクが直したそうに横目で見ている。サムも軽く名乗っておいた。


「何かお困りで?」


 ライリーが頬杖をつきながら聞く。向こうが単刀直入に来たので、サムの方も本題に入ることにした。


「ええ、とっても困っているんですよ。お宅の職員が家の周りをうろうろするせいでね」


 嫌味たっぷりに言い放つと、ドアに打ち付けられていた紙を、机に叩きつけた。二人は禍々しい文字に目を通し、顔を見合わせる。


「朝見つけたんだよ。どこの誰がこんなことしたか知らないけど、お宅の職員がうろついてるのがそもそもの原因ですよね? お陰でドアに穴空いたんですよ。もうすぐ冬なのに、外の風が入ったら、凍え死ぬじゃないですか、日々食べていくだけで精一杯なのにドアの修理とかとても無理ですよ。弁償してくれたって良いと思いますけど? まさか、貧者に施しをして徳を積みなさいとか言ってるあんたらが、モノを壊された哀れな貧者を見捨てるとか有り得ないですよねえ」


 喧嘩は先に相手をひるませた方が勝ち。特にお役所や聖職者といった連中に対して下手に出すぎるとのらりくらりと躱されてしまう。サムは緊張を見せないように早口でまくし立てた。


 ライリーの方は呆気にとられている。一方でマルクの方は明らかに腹を立てていた。彼が敵意をむき出しにしながら口を開く。だが、その言葉は意外な方向からサムを突き刺した。


「ちょっと、サム、さん? 確かに私どもがご迷惑をおかけしましたが、仮にも同居人なのに、モモさんの心配はなさらないんですか?」


「自分から首突っ込んでるんだから自業自得だろ。ま、あれが見る前に回収しちゃったから、今でも呑気にしてるだろうけどさ。むしろ、関係ないのに家壊されて、来たくもない場所に行く羽目になっている俺はとんだ災難だと思いますけど?」


 サムは言葉を被せるように応戦する。


(一回会っただけのあんたに、何が分かる)


 怒りが言葉に籠もってしまう。


 そんな事にはいちいち応じていられないとか、聖職者を何だと思っている、というのが来ることは覚悟していたが、まさか同居人の心配をしろと真っ直ぐに言われるとは思わなかった。


(俺がモモの心配をしていない? そんなことはないだろう。むしろ、せずに済むならどれだけ良かったことか。こいつは何を言いたい? つまりモモが可哀想だからアシュリーに来ないよう伝えてくれって言えと? 無理だろ。ああ、考えるだけで気分が悪くなってきた)


「どうしよう兄弟、俺何も分かんない」


 ライリーが泣きそうな顔でもう一人の方を向く。マルクもその様子に少々困っているようだ。サムも心にさざ波が立っており、表情を崩さないようにすることで精一杯だった。


(臆面もなく心配しているんですなんて言う奴がいるか、ああ、いたな。グレアムとか、それこそモモとか、ああいうお人好しを絵に描いたような性格ならできるかもしれない。もしかして、あのキノコ頭、そっち側の人間なのか? いや、まさかな)


「ひとまず自分達には権限がないので、弁償については上に報告した上で前向きに検討します。予算が下り次第、支払いに伺いますので、その時はよろしくお願いします。また、アシュリーにはできるだけ早く謝罪に向かわせますので」


 サムは、マルクの言葉が中々頭に入らなかった。分かった事は、確定ではないものの概ねサムの希望に添った回答だということ、そして、そんな結論を出したマルクが完全にそっち側(お人好し)だということだ。


(ああ、こいつはマジのお坊ちゃまなんだろうな。これ以上話しても気分が悪くなるだけだ)


「うん、今後、できるだけ来ないように言っといてくれる?」


「承知いたしました」


「じゃあ、よろしく」


 サムは足早に礼拝所を去る。急いで持ち場に戻らないといけない。マルクのお高く止まった口調がまだ耳に残っている。



 

 彼女を気にかけることができないのは、まだ受け入れることができていないから。


 受け入れられないのは、自分が小さくて弱いあの頃と変わらないと分かっているからだ。



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