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57.迫り来る祓魔師たち ④

前回のあらすじ:私が魔女だ!!!

 サムの部屋に戻ると、彼はまだ起きていました。


「彼らに何を言われた?」


「リンちゃんに会いたいって」


 桃は上着を脱いでサムの隣に座ります。


「意外だな、そっちが狙いだったか」


「会ったら駄目だと思って、私が魔女ですって言いました。あの人達は帰りました」


「馬鹿じゃねえの」


 一際大きな声で言い放ちます。


「ごめんなさい」


 桃は上着を畳む手を止めました。鼻の奥がつんとしてきます。


「まだ知らない、とか人違いだとか言った方がましだ。自分から捕まりに言ってどうするんだよ。帰ったって言うけど、明日兵士を連れて捕まえに来るかもしれないだろうが」


「あ、確かに」


 てっきり二人組は諦めて帰ったものとばかり思っていたのです。一旦引き下がり準備を整えて後日来るかもしれないなんて、自分の浅はかさが嫌になりそうです。サムは呆れるあまり力が抜けてしまったようです。机に肘をついてもたれかかりました。


「あのなあ。とりあえずミックは見ていたんだろ」


「はい」


「今から状況を聞いてくるから。大丈夫だろうとは思うけど、ヤバそうだったら今夜逃げる。いいな」


(に、逃げる……なんか大事になってまった)


「で、でも。サムさん、関係ないです」


「ああ、そうだよ。でもあんた一人が逃げて、俺がここにいたところで逃がしたことはバレるだろうが。そもそも一人で街を出たことなんかないだろ」


「はい」


 サムは立ち上がって上着を羽織り、脱いでいた靴を履きます。扉を開けると宵闇が顔を覗かせ、冷たい風が吹き込んで来ました。


「ごめんなさい」


「全くだ。あと、リンにも伝えておいた方が良いかもな」


「そうだ、言わないと」


「俺が帰ってからにしろ。火、見ていてくれないと困る」


「あ、本当ですね」


 ご飯を食べ終えたらもう使わない竈ですが、暖炉のないこの家ではこの火が唯一の暖房でもあります。薪がもったいないと分かっていても、寝床に入らずに待っている間、火を消すことができなかったのでしょう。


「大体、なんでリンを探すのにそんな回りくどい方法を取るんだ? ミックは地元育ちなんだから面識くらいあるだろ……あるよな? ……まさか、無かったのか? 無かったって言われてもあの性格だからなあ。……勘弁してくれよ」


 サムはブツブツと呟きながら階段を駆け下りていきました。桃はすぐにリンの部屋へ行けるよう、畳んでいる途中だった上着をもう一度羽織って帰りを待ちます。


 暫くすると、サムが頭を抱えながら戻ってきました。彼は上着を脱ぎ捨てて真っ直ぐに寝床へ向かっていきます。本当に逃げなければいけないのかと身構える桃。


「あの、私達、逃げるんですか?」


 恐る恐る尋ねます。サムは大きなため息をつきました。


「うん、なんかごめん。想像以上に馬鹿しかいなかった。リンにはいつも書いている石板あるだろ、あれで伝えておこう。一応」


「は、はい」


 彼が何を聞いてきたのか見当もつきませんが、おそらくここに居たままでいいのだろうということを察し、桃は上着を畳んで籠に仕舞いました。



 サムの不安はある意味的中してしまいました。


 数日後、桃が仕事場へ向かっていた時のことです。いつもの様に酒場の前にある道に入ると、遠くに人影がありました。不思議に思いながら進んで行くと、背格好が明らかになってきました。丈の長い灰色の服、一つに束ねた髪。


 立って居たのです。礼拝所の人が。


 明らかに桃に向けて手を振っています。どうやら背の高い方であるアシュリーしかいないようです。


(サムさんは逃げなくて大丈夫って感じやったけど、やっぱり日を改めてうちを捕まえに来たんやろうか)


 桃はすぐさま来た道を引き返し、走って別の道を探します。慣れない道を行ったり来たりしていたため、グレアムの家へたどり着くのに随分と時間が掛かってしまいました。



 それから桃は酒場の前の道を避けるようになりました。しかし、いつの間にか家の場所が知られてしまったようです。その日はアシュリーが直接訪ねてきました。扉を叩く音が響き渡る中、サムが背中で扉を押さえ、桃は窓から入って来ないように木の板で窓を塞いでいました。


「絶対、中に入れるなよ」


 とサムに念押しされ、桃は大きく頷きます。辺りが暗くなるまでその状態が続き、彼が帰った頃には腕が痛くなっていました。


 ところが、桃がサムより先に帰って来た日のこと。いつも通りのんびり夕飯の支度をしていると、急に扉を叩く音がしました。サムならすぐ入ってくるはずなのに、来ません。繰り返し叩かれるのみ。不安を胸に窓を一瞥すると、またあの男の人が来ていました。桃は息を殺しながら扉を背中で押さえます。今は一人。鼓動が段々と早くなっていきます。


「ねえ、モモさん、居るんでしょ。ちょっとお話しません? あ、嫌なら開けなくて良いんだよ、ドア越しでも構わないからさ」


(開けちゃ駄目、話したら駄目)


 彼は本当にお話がしたいだけかもしれません。桃やリンを捕まえて火あぶりにしようなどとは思ってもいないのかもしれません。しかし、男の人が家に入ってくるかもしれない、そのことだけで桃を怖がらせるのには十分でした。


 体格の差でしょうか。桃が体全体を使っても、扉が押されていく感覚があります。手先が冷たくなって、冷や汗が背中から吹き出してきました。桃は懐を探り、まだ返していなかった羽根飾りがあるのを確かめます。


 扉の隙間から指が出てきます。桃は思わず力を緩めてしまいました。その隙を突くように礼拝所の人が体を滑り混ませて部屋に入ってきます。桃はもうどうして良いのか分かりませんでした。恐怖で押しつぶされそうになりながら、震える手で羽根飾りを握りしめます。


「てんにおわすかみがみよ、わ、われらがつみをゆるしたまえ

え、えいゆうよ、えーっと、えーっと何やったっけ……」


 涙を浮かべながら必死でお祈りの言葉を唱えることしかできません。気が動転している姿を見たアシュリーは返って面食らってしまいます。


「え、なんかごめんね。ほら、涙を拭いて」


 手巾を差し出します。咄嗟に桃は首を振りました。


「怖がらせてごめんね。私のことは、エキゾチックなアゲハ蝶に惹かれて彷徨ってきた蛾だとでも思ってくれればいい」


「あの、お兄さん」


 桃は彼の言っていることの意味を考えている場合ではありませんでした。アシュリーの首に銀色の刃が突き立てられています。いつの間にか腕も抑えつけられていました。


「不法侵入ですか? 聖職者が聞いて呆れますね」


 殆ど姿は見えませんが、声はサムのものでした。物騒な登場に桃は肝を潰すような心地です。


「聖典には禁止と書かれていないからセーフでしょ。それに比べて流石にナイフを向けるのはアウトだと思うけど?」


 余裕の表れなのか、はたまた強がっているだけなのか、ナイフを突きつけられてもなお言葉を紡ぎます。


「生憎目撃者は他にいない。死人に口なしだ」


「うわあ、怖―い。あ、痛い痛い辞めて」


 抑えられていた腕を捻られ、苦しみの声が漏れました。


「さ、サムさん、やめて下さい」


 桃が訴えるとようやくサムがナイフを持つ手を下ろしました。しかし、すかさずアシュリーを部屋の外に引きずり出し、扉を閉めてしまいます。為す術のない桃は色々な意味で神様に祈るしかありませんでした。


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