30.甘いお店を探しに ①
前回のあらすじ:クレア人には希ノ国の人が幼く見える。
竈から漏れてくる火を頼りに桃が繕い物をしていると、今日のお給金を数えていたサムがこんなことを言い出しました。
「甘くて、綺麗なお菓子を売っている店があるんだと」
お菓子? 店? 貧乏暮らしの二人がお菓子なんてとても手が出ないのに、一体どうしてそんな話をするのかと、桃は不思議に思いました。
「どんなのですか?」
「固いけど柔らかくて、透き通っているけど花びらが中に入っているらしい」
桃はお花の入ったお菓子なんて聞いたことがありません。ですが、きっと可憐でめったにないものなのでしょう。
(何色かな、どんな味なんやろ?)
とあれこれ考えを巡らせます。そんな珍しいお菓子を売っているお店は一体どこにあるのでしょうか? 気になって聞いてみると、「知らない」という素っ気ない返事が返ってきました。
「は、はあ。そうですか」
お店の場所も分からないなんて。それに固いけれど柔らかいって結局どちらなのでしょう? 白黒つけたがりな彼にしては随分曖昧なことしか話してくれません。
「どこにお店があるか説明できないって、パン屋の娘が」
「あそこのお嬢さん、食べたのですか?」
「らしい」
近所に住んでいるパン屋のお嬢さんには何度もお世話になっています。桃達よりは遙かに余裕のある暮らしをしていますが、所詮生活に困っている人の多い場所に住んでいるのですから、贅沢はできないはずです。
(生活費を切り詰めれば、食べられるかもしれへん)
桃は甘い物を生まれてこの方、数えるほどしか口にしたことがありません。お嬢さんが食べたのはどんなお菓子だったのか、そしてお店の場所が教えられない理由は何か、ますます気になってきます。
(分かりにくい所にあるんやろか)
段々お店を探してみたくなりました。そのことをサムに話します。
「行く、じゃなくて……」
桃はこの街に来てから一年を迎えようとしていますが、まだ思っていることを上手く言葉にできません。本当は、行きたいと言いたかったのです。
「だったら行けば?」
どうにか伝わったみたいです。しかし桃の顔を見ることはなく、乗り気ではなさそうな声をしています。
「貴方、行かないのですか?」
「わざわざ店を探すなんて労力の無駄。いくら菓子が美味しかろうと釣り合いがとれないだろ」
頬杖をついていないほうの手で、机の上に置かれた銅貨を動かしながら言い放ちました。話が長くて何を言っているのかは分かりませんが、嫌そうにしていることだけは明らかでした。
(自分から話してきたのに、どうしたんやろ)
サムの考えていることはいつもよく分からないのです。
「えーっと。他の、と行きますよ。一緒に」
(他の人ってどう言えば良かったんやっけ?)
言葉の順番を間違えたような気もします。言い直したくても頭が真っ白で何も言えなくなってしまいました。
「他に行ける人がいるとでも?」
(あ、そうやって言えば良いんやね。でもちょっと違うような?)
話し方を思い出せそうだったのに、かえって混乱してきます。
ところで、一緒に行ってくれそうな人はいたでしょうか? パン屋のお嬢さんは既に行っています。すぐにまた行きたいと言ってくれるのかは疑問です。それにパン屋のお嬢さんは休日に、街の外れまでお祈りに出かけるそうです。桃はまだ、お祈りに行ったことがないので詳しくは分かりません。しかし、忙しそうにしているのに誘うのは気が引けます。
フランなら、喜んで行ってくれそうです。ですが彼女は街の偉い人のお嬢さん。親御さんと時折喧嘩をしては、家を飛び出して酒場や、桃が家政婦として働いているグレアムのお家へやってきます。
考えてみればこちらから会いに行ったことはありません。酒場に行けばいるかもしれませんが、独りで酒場に行ったのは数えるほど。まだ気後れします。他に、他に……。
「サムさんは休み、明日……」
独りで出歩くのは流石に危ないので、なんだかんだ一番誘いやすいのは同居人の彼ということになります。
「仕方ねえなあ」
彼は数えていたお金を袋にしまって立ち上がりました。少しだけ行く気になった様子です。
「行きます?」
「走るついでだ」
「明日ですよ」
「はいはい」
せっかくパン屋のお嬢さんが教えてくれたのですから、もっと楽しそうにして欲しいな、と桃は思いました。
ともかく、明日出かけると決まれば、今日のうちに継ぎあてを全部終えなくてはいけません。お菓子のお店がいつ開くのかは不明ですが、きっと朝早く起きて探しても、見つかる頃にはお昼になっているでしょう。お買い物はお菓子の店を探した後の方が良さそうです。明日は休日なので、特に朝早くからやっている所が少ないからです。
桃は久しぶりのお出かけに胸が高鳴ってきました。




