7.あ、(察し)
まあ気にしてても仕方がないだろう。
例え、あの美少女が先程までの事を喋ったとしても何かがバレる事はないだろう。というかあれだけでわた...俺の存在が分かったら笑ってしまう。チートじゃねぇか。
耳を澄ますと、遠くで聞こえていた集団の声が徐々に大きくなってきた。
「__え、私は_____に___」
「____が、俺にはまだ________が」
シスターらしきおばさんの声と兄っぽい声が少し言い争うようにして喋っているのが聞こえた。
途切れ途切れ過ぎて何言ってるのかは全く分からないが。
「どうでも______す。____は_________から」
少年の声も途切れ途切れだ。難しめの穴埋め問題レベルで途切れている。
(聞こえねぇよ!)
もっとこっち速く歩いて来てくれ!
「まあ 、少年もシスターも落ち着いてくれ。別に私は孫達を探しに来ただけだ。他意は無い」
じれったさで段々イライラしてきた時、老紳士の低い声がはっきりと聞こえた。
「!?」
その声に随分と大きな衝撃を受けた。電流が走るとはこのことかもしれない。
(老紳士の声、良っ)
急に、綺麗に響く低音が聞こえてきた時の衝撃は本当に計り知れない。聞き取りやすいだけでなく聞きやすい。最早ずっと聴いていられるとすら思う。
この老紳士、侮れない。老け専とか関係なく誰もを虜にしてそうだ。
(強い...)
こういう時自分のカスみたいな語彙力が悔やまれる。
「ヒーズ、お前もあまり捻くれた事を言ってはいけない」
諭すような優しい声音だ。一人物陰で頭を抱えて悶え死ぬ。声が良すぎる。もう喋らないで欲しい。
「.....べつにオレは事実しか言ってない」
距離が近くなったのか比較的聞き取れるようになってきた。
今更だが、当然の如く言語ナントカ的能力は備わっているので、会話を理解するのに苦労する事はない。
だが言葉がわかるようにして欲しいと言ったのみで、書くことに関しては何も要望していなかったからどうなるのかは未知数だ。
「おじいさま、ヒーズも一緒に帰れるの?」
「そうだよピアセ、二人共おじいさまと一緒に邸へ帰ろうか」
不安気な美少女の声に優しく答える老紳士も最高だった。老紳士が自分のことを"おじいさま"と言っている破壊力を舐めないで頂きたい。
(この人達重要キャラあたりかもな)
基本的に異世界系の話に出てくる美形は重要な位置にいるキャラかつ利用できると習った。義務教育で。
ここにはそんな人物が1人どころか3人も集まっている。有益な人間かどうかくらいは判断したいところだ。
(さて、どうするかな)
後を付けるのはリスクが高過ぎる。帰れなくなる可能性も大きい。しかも後を付けてしまうと兄よりも先に元居た場所に戻れない。
ここはやはりアレだろうか。
(魔力痕...とやらを)
索敵を応用すればできそうだ。索敵だって空間魔法の応用なのだから。
美少女の魔力思い出しながら、魔力を練る。
魔力っていうと物凄いファンタジー感がすごいが、実際は雰囲気みたいなものだ。頑張って魔力を捉えれば、ちょっとその人の周囲の空気に色がつく。漏れ出す魔力を粘土のようにまとめれば魔力を練れる。
この身体は魔力量が多いからか、色で何となくその人の得意な魔法とかが分かったりする。チートわろた。
(今美少女の魔力覚えとけば多分いつでもいける気がする)
物凄い勘と漫画で見た魔法に頼っている現状だが、知識もなにも得られていないこの状況ではそれに頼るしかない。スマホで情報を得られたら楽なのだが、そう簡単に物事はいかないものだ。
(もうスマホ触りたい。この現状を今すぐ拡散したい。色々グ〇りたい)
スマホは渇望しているが、きっと事故でぶっ壊れてることだろう。
ひっそりと溜息を吐き、練った魔力を少女の魔力と混ぜる。これで後からでも彼女達を見つけられるはずだ。
「______じゃあ、俺は帰ります。弟が待ってるんで」
(待ってないんだよな。ここにいるし)
面倒だが、これ以上迷惑をかけるわけにもいかない。兄より先に帰らなくては。
「あなた達の住処はここよりも治安が悪いでしょう?本当に大丈夫?」
「お気遣いありがとうございますシスター。そうですね....いつかお世話になるかもしれません」
「いつでも待っているわ」
兄は苦笑気味に心配するシスターに答えたが、わた...俺は思わず叫びそうになるの堪えるのに必死だった。
兄、笑ってる場合か!?
いつかじゃないよ。今だよ。
治安が悪いって聞いていたのだろうか。今まさにシスターが口にしていたはずだが、聞いてなかったとでも?早くお世話になっとけよ!
あれか、人殺しても何とも思う事が無くなってしまった的な設定持ちなのか?......なんて物騒なんだ。私を巻き込まないでくれ。
もしかして、幼少期から死体見まくってたわた...俺は生死観論とち狂ってるとかですか?だから死体見てもなんとも感じないとでも…?
おっっっっっっっっっっっっっっっっっっっも
どんなだよ。やだよ俺。治安のいい場所に住みたいよ。せめて屋根が欲しい、頼む。それか兄から自立させてくれ。自立したい。
勝手に性別変えただけでは飽き足らずまだやらかしてくるなんて、あの死神は一体どこまで全力で裏切ってくれば気が済むんだ。
(別の神様がよかった.....)
感謝しかできない感じの神っぽい神様が良かった。
死神なんて顔と声と役職とったら神とスタイルしか残らな....色々残ってるな。
何をどう考えても死神が憎い結論に辿り着く。どうしても思考が偏ってしまうので、ひとまず落ち着くために深く考えるのを止めた。
今はもう取り敢えず帰るべきだろう。
目的はほぼ達成出来てないが、あの貴族っぽいのに会えた事で十分なはずだ。
そっと立ち上がる。振り返って見ると逃げ込んだ脇道は続いていた。
(こっち行って遠回りに教会を周れば帰れるな)
ざっと合ってるか定かではない推測を立て、死体の転がっていない綺麗な道を歩く。
どう頑張っても2歳児の足は遅い。




