5.勘は何も告げてくれない
目を開けたら見知らぬ白い天井が..........なかった。
あれよ。
目を開けたら見知らぬ天井シチュはテンプレじゃないのか。
というか見知らぬ天井どころではない。天井がない。見えるのは青い空である。これでは見知らぬもクソもへったくれもない。
ひとまず回復している気がしたので体を起こす。下に薄い布が敷かれていた。これがなかったらきっと凍死ルートを辿っていただろう。本当にここは危険な所だ。
どれくらい寝ていたんだろうか。目を閉じる前も空が青かったから一日くらい.....下手したら三日くらいかもしれない。
真横に目をやると、ここまで運んでくれたと思われる兄が寝ていた。
探し回るのは大変だっただろうしここまで運ぶのも大変だっただろう。随分優しい兄である。
(さて、どうするかな...)
まさか転生したらストリートキッズとは思わなかった。ありえない話ではないが、考えてはいなかった。チッ...あの神実践しやがったな
これはあれか、物凄い才能見せて周囲に認められストリートキッズから偉くなり兄弟もとい自分が幸せになる為に頑張る的なパターンのヤツか。
くそだるいな。どうせ 偉い=自由無い なんだろ分かってます。
2歳児のぼっやぼやでぐっじゃぐじゃの記憶では満足にこの世界の予備知識も得られない。ステータスボードにはこの体個人とその周囲の事は詳細が書かれているがそれ以外は書かれていない。要望しておけば良かった。
(.....クソゲーかよ)
いや、最初からそうだったな。寧ろ要望のおかげで私はまだ全然いい方だ。
考えてもどうしようも無い事が判明した。
私の知識はテンプレを否定すると驚く程役に立たないのである。因みに否定しなくても思いの外役に立たない。
つまり使えない。
「最悪だ」
もういいや、兄を騎士団かなんかに入れるのがいいだろう。そうしよう。それがいい。
ボードには書いてなかったがあるだろう。騎士団とかそういう感じのやつ。
別に全く恨みはないが、きっとこの兄、私が何か行動を起こす度に気にかけてくるタイプだ。とても人間が出来てる素晴らしい人物だが、正直邪魔なだけである。
(暫くの目標が決まったな)
名付けて兄を騎士団へ計画。
目標があれば人間何とかしようと思うものだ。きっとこれで暫く大丈夫だろう。
「リーノ?」
兄が起きた。
丁度いい感じに計画の詳細を考えていたので声をかけられて物凄く驚いた。
声かけられなかったら何か重要な内容の独り言でも言っていたかもしれない。.............言ってないよな?
返事でもしようと口を開き、止まる。
「.............」
待て、これ私にどうしろというのか。王道で兄さんって呼ぶべきか?お兄ちゃん、兄ちゃん、兄貴、兄上、兄様、例え呼んだとして、それから何を言うべきかも分からない。無難にありがとう?とか?....いや何にありがとう?運んでくれて?
「起きて平気か?」
目の前の少年は何も言わなかったのを気に止める事なく話しかけてきた。
よく分からないが、ひとまず頷いておく。
「目を覚まさないからどうしようかと思った。ここには診てくれるような施設も人もいないからな」
ほっとしたように笑いながら言われる。私の兄の株が1ミクロン程上がった。上がったと同時に早めの目標達成が望まれる事を悟った。
この少年確実にブラコンである。
私の勘が告げている......とかではなく。てかそんなモノあてにできない。
ほっとしたように笑いながらというのが気にかかる。姉だった経験から言わせてもらうと、弟にほっとしたように笑いかけでもしたら鳥肌が立つ。吐き気さえするだろう。
これは、これ以上悪化する前に計画を実行に移さなければならない。私の素晴らしきフリーダムライフの為にも。...........私が自由な生活を求めてたんだったかはこの際置いておいて、
「俺は今から教会に行ってくるけど.....どうする?体動くなら一緒に行くか?」
私の内心を知らない兄は話を続ける。
教会、パワーワードだ。ここで行ったら確実に何か起こりそうなほどに。
こちらを伺う兄に黙って首を振る。勿論、横に。
「そうか、じゃあちゃんと待っとけよ?この前みたいに勝手に動き回ったら駄目だからな」
不安げな少年に頷く。それに満足したのか立ち際に頭を撫でてくるとニコッと笑った。
花が咲くような満面の笑みという奴だ。少しゾッとした。私は弟にそういう丁寧な笑みを浮かべた覚えがない。
支度を整えた兄を黙って見送る。
(まあ、付いてくんだけど)
あたりまえだろう。
のこのこ正面から行くのはただの馬鹿だが、行けば素晴らしい情報収集になる。要は見つからなければいいのだ。
兄を見失わない程度に見送ってから後を付ける。地面にこびり付いた肉片や血などが時折足を取ってくる為慎重に進んだ。2歳児は大変なのだ。
暫く歩いた所で少し明るい通りに出た。
死体も殆ど転がっていない。まあ行き倒れはちょこちょこいるが、生きているだけマシだろう。
兄が四つ角を右へ曲がっていくのを認識する。
歩幅の差がえげつないので、小走りで後を追い四つ角を曲がると、教会が見えた。
外観はよくアニメとかで見る教会だった。だがこっちの方が大きいし広そうだ。
こんな規模の教会がスラム街にあるんだったら相当な政治的権力がありそうだ。場所を鑑みるにもしかしたら蓄えているのかもしれない、それか隠れているか。どちらにせよ良い印象はない。
孤児院も兼ねているのか、近づくにつれて子供達が走り回っているのが見えた。
教会へは四つ角を曲がって一本道だが、幸い身を隠す場所は腐るほどある。多少明るくなったとは言え所詮はスラム街な事に変わりはない。
子供達に絡まれながら教会に入っていく兄を確認してから裏手に回った。
(裏口はっけーん)
流石に警備などいなかったし鍵はかかっていない。将来はきっと生活困難な人が勝手に出入りして食料やら何やら色々取って行くだろうと思われる。もう手遅れかもしれないが。
有難く侵入させてもらう。
ジャンプして扉を開け足を踏み入れると、僅かに床が軋んだ。
(暗いな)
ゆっくりと床が軋まないよう歩く。周囲は当然の如く薄暗くて見えない。
掃除が行き届いていないのだろう。歩く度に埃が舞った。
誰か、大司教辺りがいてくれれば話が早いのだが。そう簡単にはいかないだろう。
まあ大司教は流石にいないとして、シスターの噂話でも聞けたら万々歳だ。
突き当たりまで進むと明るい廊下があった。ここは使われているのか埃が舞わない。
(誰も居なさそう、だけど)
壁に張り付いて廊下を盗み見るが人気はない。
(テンプレ的にここで油断したら終わる)
安心した主人公が出ていって捕まるパターンのアレだ。私は主人公では無いだろうが、これは誰でも該当するだろう。主人公じゃないしぃとか言って油断するのはただの主人公だと私は知っている。
(引き返したら直ぐ後ろにいるパターンも考えられるが....)
確率は低いので無視。そのまま気を緩めずにゆっくり足を進めた。
綺麗に掃除された廊下を進む。時折外から子供の声が聞こえてきた。多分外に近いのだろう。
(てことは、もうそろそろ正面辺りか?)
想像より簡素な造りなんだろうか。ただ廊下を曲がったりしながら進んだだけな気がする。
「_____はい。___で、」
とある扉を通った時不意に兄らしき人の声が聞こえた。そっと耳を寄せ、聞き耳を立てる。
「___い__有難いですけど、弟がまだ___で」
(ビンゴ)
途切れ途切れだが兄の声だ。
話してるのはシスターだろうか。渋みを持った女性の声がする。聞き取りにくい。
集中して聞き入りそうになってはっとする。捕まったら終わりだ。
(間取りは覚えた)
多分。
これで外からでも聞けるだろう。というより外からの方がリスクが少ない。
そっとその場を離れる。走らないように注意しながら下がると、足音を立てない様に廊下を最大限の速さで歩いた。
(多分裏から回れば直ぐに着く筈)
裏口の扉を背伸びして開ける。
まあ、有り体にいえば私は油断していたのだ。




