10.そして名前は決まらない。
取り敢えず正直に言えば、名前を、付けたくない。
理由は簡単で簡潔だ。
"めんどくさい"
この一言に尽きる。
名付けなど面倒なことになるに決まっている。
この青年がなんの意図で提案してきたのかは知らないが、実験室と称された現代的空間にしろなんにしろ不確定な不安要素が多すぎる。
だが、自分が現時点でこの世界の情報を全く知らないのは確かだ。
確実にかつ安全に情報を得るために、誰かの協力は不可欠。その点でいえば彼は"誰か"に非常に最適だと言える。
「少年?」
青年がこちらを案じるようにひらひらと手を振っているが、距離が空いているせいで手首の体操にしか見えない。
「あー....」
答えはひとつしかないのだ。それこそ、聞かれたその時から。
「無理を言ってしまったなら申し訳ありません....適当に呼んで頂ければ」
青年の眉尻が僅かに下がっている。
これが人間じゃないとは到底信じられなかった。やはり世界は進歩しているのかしていないのかいまいちよく分からない。
「.....名前付けてって、ここにきた全員にいってんの?」
肯定の言葉を期待して問い掛けた。
まあ、期待は期待であって希望ではないけれど。
「いいえ、少年に頼んだのが初めてです」
はっきりと彼は言い切る。真っ直ぐに向けられる視線はやけに真剣で居心地が悪い。
「なんでかきいても?」
「そう、ですね.....小さいのにこんなにもはっきり話せるという事に、驚いたんです」
どうやらそれだけのようで、青年は自分で言った事に納得か満足かしたのだろう。軽く頷いている。
こちらはまったく満足も納得もしていないというのに!
なぜそれが理由になるのかは特に分からないが、自分自身が2歳児にも関わらずこんなに喋れる理由及び原因も謎なのだからどうしようもない。
厄介なことになりそうな気しかしないが、もはや渡りに舟だとでも思うべきか。
なにより私はまだ死にたくはない。手段は選んでいられないのが現状だろう。
極論、名付けるだけで万能で声のいいAIが手に入ると同義だ。
「....わかった」
ごねていても仕方がない。諦めて首を縦に振った。




