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■第八話■ アサシンの頂点に立つ逸材



 翌日。



「………」



 天見蓮太郎は、現在、校長室の前にいる。

 理由は単純明快――獅子原校長から呼び出されたのだ。

『話がある』……と。



「もしかして……今回の一件について怒られるのかな」



 昨日、校舎裏で行われた私闘騒ぎ。

 気絶した山王咢人が、取り巻き達によって学園内にある救急医療センターへと運ばれて行った――という話から、何者かが山王を叩きのめしたという噂に発展し、学園中が朝からその話題で持ちきりになっていた。

 無論、山王が何者にやられたのか、取り巻き達も皆、口を閉ざしている。

 当然だろう。

 そしてその当人というのが、この薄血頭領、天見蓮太郎だと思う者は一人もいないはずだ。

 しかし当然、事実を解明し、真実に到達する者もその内現れる。

 獅子原校長なら、何らかの方法を用いその真実を明らかにしたと考えても不思議ではない。



「……ふぅ」



 一体、自分はどうなるのだろう。

 高鳴る鼓動を押さえながら、蓮太郎はドアをノックする。

 そして扉を開け、校長室の中へと入った。



「失礼しま……時雨?」

「蓮太郎!」



 校長室に入って最初に目に入ったのは、時雨の姿だった。

 時雨もまた、驚いたように入室した蓮太郎を振り返る。



「来たわね」



 そしてその前には、椅子に腰掛け、獅子原季子校長がいた。



「何の話で呼び出されたかは、大体わかっているわね」

「………」

「………」



 昨日の件の当事者が二人、呼び出されている。

 やはり、私闘に関することだろうか。

 獅子原校長も、二人が察しているのを理解しているのだろう――早速、本題を話し始めた。



「決闘自体は、同意の上での事。【アサシン】としての矜持をかけた戦いである以上、その上で負った傷に関しては自己責任であると納得できるわね」



 時雨と蓮太郎は頷く。

 命を懸け戦う異能暗殺者(アサシン)である以上、それは当然の覚悟だ。



「但し、山王君に関しての処分はあるわ。任務中に拾得した【魔道具】の無断使用は許されることではないからね」



 昨日、戦いの中で【魔道具】は蓮太郎によって破壊されてしまったが……まぁ、当然の処断だろう。



「……さて」



 そこで、校長は間を挟むと。



「今日、貴方達を呼んだのは……大切な事を伝えるためよ」



 ここからが本題と言うように、そう口を開いた。



「まず、最初に言っておくわ。私は昨日、貴方と山王君の決闘を見ていたの」

「え?」



 あの戦いを見ていた。

 生徒同士の乱闘を、何故教師が止めないのか……という疑問は無い。

 先刻の発言通り、ここは異能暗殺者(アサシン)を育成する学園。

 闇の世界に携わる者として、戦闘は日常だ。

 それよりも、あの戦いを観戦していたのだというなら、彼女の言う〝大切な事〟も、大体察しが付く。



「その大切な事っていうのは……もしかして、ですが」



 蓮太郎は、おずおずと言葉を紡ぐ。



「昨日目覚めた、俺の《刃》に関してですか?」



 獅子原校長は頷いた。



「あの、その話には私も関わっているのでしょうか?」



 時雨が疑問を呟く。



「ええ、空蝉さん。決して関係無い、というわけではないわ」



 校長は時雨に返答すると、改めて蓮太郎へと視線を向けた。



「天見君、我々獅子原家をはじめとして【アサシン】最上層部――通称〝十二家〟は、貴方の父の裏切り以降、天見家の身辺について調べていたわ。その中に、貴方の血筋に関する調査内容で、少し気に掛かる点が見付かったの」

「………」



 十二家――というのは、異能暗殺者(アサシン)の世界の中で、最高位に君臨する権力を持つ家の事だ。

 この東郷学園の運営統括を務める獅子原家をはじめ、他の分家に対し、正真正銘の本家を名乗る血族の者達である。

 実力、財力――あらゆる面で、他の家々とは一線を画している。



「それは、既に亡くなっている貴方の母親の血筋を辿って行ったところ、判明したの」

「母親……」

「天見君、貴方はお母様の事は、どこまで知っているかしら?」

「……いえ、まったく、わかりません」



 それが、率直な回答だった。



「物心ついた時には、既に母は他界した後で、父からもあまり詳しく教えてもらった事はありませんでしたから……自分としても、あまり探求しなかったと言うか」



 そう、判然としていなかった。

 幼心に、母の話題を出した時、父がどこか遠くを見るような……悲し気な顔をするのに気付いたのだ。

 それからは、父に気を使い、あまり母の事を口にしないようにしていた。



「率直に言うわ」



 そんな、長年、謎のまま流されてしまっていた事実を。

 獅子原季子は、真っ直ぐに述べた。



「調査の結果……貴方の母親は、十二家の一つ、己義家(みよし)|の遠い親戚筋にあたる事が判明したわ」

「己義家……」



 時雨が呟く。

 己義家は空蝉家の本家に当たる、十二家の一つであり、十二家の中でも最上位……つまり、【アサシン】の世界でトップに君臨する、大本家の一つである。


 ――遥か昔、全ての異能暗殺者(アサシン)の歴史は、二人の【アサシン】から始まった。


 強大な異能力……《刃》の力を保有した、二人の【アサシン】。

 言わば、全ての【アサシン】の始祖と呼ばれる二人がいた。

 その内の一人から始まった直系の血族――それが、己義家だ。



「どのような経緯で、その女性と貴方の父親が結ばれたのかはわからない。でも、重要なのは貴方の父親もまた――」

「……そうか」



 驚きの表情のまま、蓮太郎は呟いた。

 そう、蓮太郎の父親……もとい、天見家は、龍堂家の分家。

 龍堂家。

 先程述べた、〝二人の【アサシン】〟のもう一人から始まった、もう一方の大本家である。



「ええ、天見君、つまり貴方は、血の薄い分家同士とは言え、龍堂家と己義家から血を引く存在だということがわかったの」

「………」



【アサシン】の家出身の者同士が、婚姻を結ぶ。

 それ自体は珍しい事ではない。

 過去、同じ血筋同士を結び……また、異なる血筋同士を結んで、力を高めようとする文化も、あったと聞く。

 今でもあるだろう。

 龍堂家と己義家は大本家だ、この二家から血を引く分家は多く存在する。

 その血がどこかで混ざる事も、別に天文学的な確率というわけでもない。

 しかし、今回の件……天見蓮太郎の件は、別なのだ。

〝異例〟なのだ。



「つ、つまり……」



 蓮太郎と同じく、校長の説明を動揺混じりに聞いていた時雨が、そこで口を開いた。



「龍堂家と己義家と言えば、【アサシン】の二大本家。かつて、全ての【アサシン】の始祖と呼ばれ、【アサシン】の流れはこの二家から生まれた……蓮太郎は、この二家の血を引いているという事」

「ええ」

「では、やはり……昨日、彼が見せた、あの《刃》は……」



 時雨は、唾を飲み込む。

 そう、昨日彼女は、蓮太郎の白い刃……〝白い眼〟に、何かを感じ取っていたのだ。

 その正体を理解し、思わず絶句する。



「私は、独自に調査を行い、その件を知っていた。故に、秘かに貴方を見守っていたの」

「え……」



 そこでまた、獅子原校長は隠されていた真実を告げた。



「貴方の《刃》は、単純な刀を顕現させるというもの。その点にも引っ掛かっていたの。刀を生み出すという力は、かつての昔、原初の頃の【アサシン】達が持っていた、そもそも《刃》の語源になった力。だから私は、貴方の力を見定めるため、この学園に入れるよう手引きし、見守る事にした」



 ありえない事かもしれない、だが、万が一、億が一……天見蓮太郎は、【アサシン】として異質の才能を持っているかもしれない。

 薄血頭領と呼ばれる天見の出身で、親は【魔】に手を貸した裏切り者。

 汚名に塗れた彼が道から堕ちぬよう、保護するという名目もあった。



「この学園に入学させて知ったのは、貴方が、そんな逆境にもへこたれる事無く努力を積み重ねる、立派な心の持ち主だったという事」



 ふっ――と、校長の顔が柔らかく破顔した。

 その優し気な、慈母のような眼差しに、蓮太郎は思わずドキリとする。



「空蝉さんを貴方の師範に抜擢したのも、貴方の成長を促進するためだった……そして昨日、遂にその才能が開花した」

「開花……」



 鍛錬を積み重ねてはいるが、一向に芽が出ない。

 素質はあるのに、何かが足りない。

 それが昨日、時雨の危機を救いたい、悪を処断するという、その心が――最後のトリガーとなった。

 積み上げて来た努力は一気に花開き――跳躍的な成長が発揮された。

 あたかも、レベル0からレベル100へと一気に昇華するかの如く。

 文字通り、〝覚醒〟した。



「おそらくこれは、先祖返りと呼ばれる現象よ」

「先祖返り……」

「帰先遺伝とも言えるわ。貴方の瞳が白く変色した……あれは、己義家の祖先、二人の始祖の内の一人が持っていた《刃》――《天道眼》の力。他者の神波を打ち消し、《刃》や《遁術》を抹消するという力よ。その能力が、召喚した刀に宿っていたのは、貴方のオリジナルの特性だけど」

「………」



 蓮太郎は、己の右手を見る。

 見慣れた自身の刀が、白く染まった瞬間――右目に迸った、電撃のような痺れを思い出す。

《天道眼》……見詰めるだけで、相手の《刃》を打ち消すという能力。

 自分の場合は、見た相手ではなく、切り付けた相手、刃で触れた相手……が効果の対象なのかもしれない。



「今回発覚したのは一方の先祖返りだけど、もう一方の血も目覚める可能性が高いわ。そこは、経過観察が必要ね」

「俺は……天見は、薄血ではなかったんですか?」

「いいえ、薄血よ。けれど、貴方は違う」



 校長は言う。



「元々、才能はあったけれど、その力が目覚めたのは貴方自身の資質によるものよ。貴方の鍛錬と探求……そして、信念と感情が、眠っていた才能を蘇らせた。そう解釈しているわ」



 これは覚醒と呼ばれる現象よ――と、校長は言う。



「………」



 薄血と蔑まれてきた父の血。

 顔も見た事の無かった母の血。

 二人の血が混ざり合い、そして天見蓮太郎の中に宿した才能。

 判然としない感覚。

 理解しきれない現実。

 けれど蓮太郎は……自身の中に、二人の存在が生きている感覚を覚え、不意に目頭が熱くなった。

 そんな蓮太郎に、獅子原校長は宣言する。

 彼の未来を、行き先を示唆する言葉を。



「天見蓮太郎、貴方には、これから異能暗殺者(アサシン)を統べる……いえ、この闇の世界に君臨する、そんな器があると私は見ているわ」




ここまでお読みいただき、ありがとうございます!


もしも、ちょっと面白いかも、続きが読みたい、と思っていただけたなら……。


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