■第九話■ 特別実働部隊編成権限
「器……」
「ええ、偉大にして強大な器よ」
東郷学園校長――獅子原季子は、臆面も無くそう言った。
ふざけて嘘や冗談を言うような人間ではない。
語気や目の輝きを見ればわかる。
冷静な表情の裏に隠された、熱気と興奮が伺える。
彼女は本気でそう言っているのだ。
「貴方には、闇の世界に君臨する器がある」
「………」
「何を隠そう、【アサシン】の二大系譜の血……その祖先の力を身に宿しているのだから」
沈黙が室内を満たす。
後方の時雨が、ちらりと蓮太郎の背中を見る。
その校長の宣言を聞かされ、蓮太郎は――。
「……うーん」
腕を組み、唸り声を上げた。
「その……俄かには信じ難いと言うか……というより、実感が沸かないというのが率直な感想です」
そして困ったような表情で、素直な心の内を話す。
「闇の世界の頂点……なんて言われても、俺なんかにそんな大それた立場が務まるわけがないというか」
「実感が沸かないのは当然よ。今までの貴方から、完全に生まれ変わったと言っても過言ではないのだから」
苦笑する蓮太郎に、校長は瞑目しながら告げる。
「でも、私をはじめ、この事実を知る十二家の者達の多くは、昨日の件を知った後、そういう思いを抱いているの」
「……重圧が凄そうですね」
冗談交じりに、蓮太郎は言う。
正味、感情が追い付いていない。
「つまりどういうことか……私達は貴方を、我々異能暗殺者の未来を担う、重要な人材であると判断し、育成していくという結論に至ったの」
「え……」
なんだか、話の規模が大きすぎて、いまいち要領を得ないが……。
「育成とは?」
「その件について、今から話すわ」
そこで、校長は椅子から立ち上がり、蓮太郎を見据えるように視線を合わせた。
「十二家を代表し、獅子原家頭領、獅子原季子の名において、天見家頭領、天見蓮太郎に命ずる。貴方には本日から、特別実働部隊編成権限を有し、一人の異能暗殺者として依頼任務に当たってもらう」
「一人の……異能暗殺者として、って……」
「私が窓口となり、異能暗殺者へと依頼された事件の解決や調査を振り分け、任に当たってもらう……即ち、【アサシン】の責務を請け負ってもらうということ」
「……え?」
それは、つまり……。
「実質、プロの【アサシン】として任務を遂行しろってことですか?」
「ええ、他の異能暗殺者同様に任務を遂行して、成長していって欲しいの」
「………」
「無論、通常の【アサシン】と同等の待遇はするわ」
いきなりの展開に絶句している蓮太郎を無視し、校長は続ける。
「また、任務の内容によってはある程度の実行権限を与える。例えば、この学園の中で任務に向いていると考える生徒がいると考えた場合、指名し、参加させる権限を与えるわ。任務に合わせ、貴方の眼鏡に適う人材を登用し、部隊を編成して挑むの。生徒の育成にもなるし、これから【アサシン】の組織のトップに立つ貴方には、今の内に人望を得ておく必要もあるから」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
ぼうっとしている間に、話がポンポン進んでしまっている。
困惑混じりに、蓮太郎が校長を制止する。
「いきなりプロの【アサシン】に交じって任務を請け負うとか、自分で生徒を選抜して部隊を編成して良いとか……その、いくら何でもいきなりすぎますよ! それに、俺はまだ時雨から【アサシン】の基礎を教わる身ですし、そういうわけには……」
蓮太郎は振り返り、時雨に助けを求めるように視線を流す。
「……っ! そ、そうです!」
それに気付いた時雨が、理解し、蓮太郎のフォローに回る。
「その、蓮太郎は私の生徒で、私の夢のために協力してもらっていると言うか……なので私としても、蓮太郎の師範を続けたいと言いますか……あ、いえ、それは今関係無くて……ええと」
ただ、彼女も現状をまだ咀嚼し切っていないようだった。
蓮太郎に促されたからフォローに回ったが、慌てて言葉を紡ぎ出したので、支離滅裂になってしまっている。
そんな二人を前にし、校長は小さく嘆息を漏らす。
「……そう。ただ、天見君。実は、早速一つ、貴方に任せたいと思っていた任務があるの」
そして、変わらず真剣な眼差しを蓮太郎へと向ける。
「その内容を聞いてからでも、考えてはくれないかしら」
「え……」
「……今回の任務は」
一瞬の間を置いた後、校長は言った。
「貴方の父の裏切りに端を発した任務よ」
その言葉に。
蓮太郎は表情を変える。
明確に眉を顰めた。
「……その任務には、父が関わっていると言うんですか」
「厳密に言えば、そうなるわ」
その巨大な胸元を押し上げるように腕組みする、獅子原校長。
「天見君、そもそも貴方の父がどういった形で【アサシン】を裏切り、【魔】に手を貸したのか……その内容は、知っているかしら?」
「……ええ」
蓮太郎は答える。
「俺の父は……かつて、【魔】が生み出してきた邪悪な力――【魔力】が備わった道具、【魔道具】を多く収集していた。その中には強大な力を宿した【魔道具】もあり、それを悪の組織に金のために提供した……それが、裏切り」
「ええ、そして今回の任務の内容は、捕縛任務。ある闇の世界の犯罪者を捕縛せよというもの。そして、その犯罪組織は、貴方の父が収集し、闇の世界にばら撒いた【魔道具】の一つを所有し、その力を悪用していたの」
「………」
つまり、彼女はこう言いたいのだろう。
お前の父親のせいで発生した任務なのに、四の五の言い訳を立てて無視するのか――と。
「……父が関わっているとなれば、話は別ですね」
蓮太郎は嘆息する。
しかし、それは嫌々……という感情ではない。
父が関わっているという罪悪感の一方で、父の汚名を晴らすための……罪滅ぼしをできる機会がやってきたと。
その期待に、どこか心臓の鼓動が高鳴ったために出た溜息だった。
「天見君。先程言ったように、貴方に与えられるのは、本来プロの【アサシン】がこなすべきなのと何ら遜色の無い任務よ。そして、知っての通り、この学園では任務にサポートとして参加した学生には相応の報酬が支払われているわ」
そこで、獅子原校長が、机の中から一枚の書類を取り出した。
それを、蓮太郎に見せる。
「今回、貴方がこの任務を遂行した際に支払われる報酬よ」
「え……一、十、百、千、万、十万……え、えええええええええ!」
書類に印刷されている額面を読み上げた瞬間、蓮太郎は雄叫びを上げた。
同時に腰を抜かし、床の上に尻餅をつく。
「れ、蓮太郎!」
慌てて後ろから時雨が支える。
「大丈夫か! 蓮太郎!」
「ぜ、ゼロが、ゼロがあんなに……」
「落ち着け! 気をしっかり持て、蓮太郎!」
時雨に抱きかかえられ、どこか遠くを見詰めながら譫言を繰り返す蓮太郎。
口から魂が漏れそうになっている。
「あれだけの金額が手に入ったら……今まで苦労ばっかりかけてきた睡にもイイものを食わせてやれるかもしれない……」
「蓮太郎……優しい奴だな、お前は」
「どう、天見君。請け負ってくれるかしら」
再度、校長に問われる。
蓮太郎は少し逡巡したが……ここまで来たら、もう答えは決まっていた。
「……やります」
「ありがとう。早速だけど、準備に取り掛かって頂戴。まずは、部隊の編制ね。もしも今の内から連れて行きたい仲間がいるようなら、考えておいて」
獅子原校長は告げる。
「任務開始は、明日の夜よ」
ここまでお読みいただき、ありがとうございます!
ブックマーク、感想いただけてとても嬉しいです!
もしも、面白いかも、続きが読みたい、とちょっとでも思っていただけたなら……。
↓下の評価欄からポイント評価、感想等をいただけると、とても励みになります!
何卒、どうぞよろしくお願いいたします!




