第四話 王を守る者 その二
※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
※なおここは第零章ですので、本編に進みたい方は第五話の「殺し合い」からご覧ください。
「…うぅ!」
「…。」
一方でエグマはリリィをつけ狙い、彼女が張っている魔法障壁を破ろうと無言のままに強烈な蹴りを入れていく。
(クソッ…!!)
勇者はリリィを助けようとするもエグマは厄介な位置にいるため、間違ってリリィの魔法障壁を割りかねない状況を作らせていた。
そしてリリィもエグマに魔法を仕掛けようにも勇者へのサポートが結果的に邪魔となり、魔法を使えず魔法障壁を展開してエグマの攻撃を耐えることに専念するのに精一杯となっていた。
「…いい加減その障壁は邪魔ですので、割らせて頂きます…」
「「…!」」
魔力を更に下半身に更に集中して、エグマはリリィに襲いかかる。
「【眠りへ誘う羊の連撃】」
攻撃力・瞬発力・スピード全てにおいての力を底上げし、リリィの魔法障壁をエグマは容赦なく蹴りを連発して入れ込む。
「うぐ…!」
「…!」
そしてついに耐え切れなくなったリリィの魔法障壁はガラスが割れるかの如く『パリン』と音を立てて砕け散る。
「キャアアアアアアアアッ!!」
「それではさようなら…。【死へ誘う羊の蹴り】」
黒い闇を纏った右脚を魔法障壁を破られ、身を守るものが無くなったリリィの首元へ向けて振り下ろす。
「おおおおぉぉぉぉぉぉっ!!」
「…っ!!」
だがエグマがリリィの魔法障壁を割るのに少し時間を掛けたため、ギリギリだがエグマの脚技からリリィの首元を守ることに成功する。
「はあぁっ!!」
エグマの脚技を跳ね返し、勇者とエグマはようやく最初の体制へと戻りピンチを切り抜ける。
「【死へ誘う羊の蹴り】」
「せあっ!!」
再度衝突して勇者とエグマはお互いに技をぶつけ合う。だがエグマは、自分の脚技を普通にぶつけるだけでは勇者の力に及ばないとすぐに理解した。
(なるほど…。なら…)
勇者とエグマはお互いを弾き、最初の位置に戻る。
「…【ウール・プロテクション】」
エグマは自身の脚に魔法をかけ、再度ぶつかり合いに持ちかける。
「はああああぁぁっ!!」
「【死へ誘う羊の蹴り】」
また勇者の剣とエグマの脚技が豪快にぶつかる。しかし
「…!?」
すぐに弾かれると思われた勇者の剣はエグマの脚にめり込んでおり、その時剣越しに感じた感触は剣がまるでとても柔らかな羊の毛に包まれていると錯覚させるほどの不思議な感触を作り出していた。
「…ッ!」
そして謎の弾力性がついた脚でエグマは勇者の剣を弾き返す。
「しまっ…!!」
剣を押し返されて足元をふらつかせた所へ、素早くマグナは勇者に詰め寄り勇者に剣を構えられる前にトドメを刺そうと攻撃を仕掛ける。
「【死へ誘う羊の連撃】」
勇者の腹めがけて連続の脚技を喰らわせようとエグマが勇者に接近する。
「…【ボルテージ・バリア】ッ!」
しかし勇者を一方的に狙っていたせいか、一瞬だがリリィの存在が頭から離れていたためエグマは足を止められず
「…!?」
突如として展開された電気のバリアに身を委ねてしまう。
「ぐぅああああああああぁぁぁぁぁっ!?」
電撃に苦しみながらも、エグマは何とかその場を急いで離れる。
「はぁ…、はぁ…」
リリィはエグマが怯んだ隙を見逃さず
「【ラピッド・バンプ】!!」
小さく、そしてうさぎのように跳ねる炎の塊をエグマを向けて放ち、容赦なく爆発へと巻き込んでいく。
「うがっ…!!」
リリィの【ボルテージ・バリア】かなり効いた為に、エグマは本来避けられるはずの攻撃を直接受けてしまった。
「………このっ!…下等生物どもがっ…!!」
魔族たちの怒りやプライドに大きく触れたために魔王軍幹部全員の攻撃力は大きく上がる。
「うぅ…」
「…くっ」
「うわぁっ!」
それぞれの状況は予想を超える速さで悪くなっていく。
「くうぅぅぅっ!!」
勇者はこの場本気を出せばこの状況は一瞬で逆転するだろう。
しかし勇者は『お前は、絶対に魔王と戦うまで本気を出すな。』と4人からしっかり釘を刺されており、本気をどうしても出せないでいた。
((((このままじゃ…!!))))
勇者をもどかしい状況に陥れてしまっている4人は、このままでは最悪の結末を迎えてしまうと考え始める。
「ぐっ…!!」
追い込まれる勇者を前に4人は何とかアイコンタクトを取り、それぞれの胸に覚悟を決める。
「…勇者様!あれをやります!!」
「…でもっ!!」
「分かってます!…けど、お願いします!!」
「……分かった。」
勇者は少し苦い顔をしたものの、4人の案を呑むことにした。
「準備してくれ!!」
「「「「了解っ!!」」」」
作戦決行のため勇者たちはそれぞれ魔王軍の幹部たちに向かい、猛攻撃を仕掛ける。
「「「「はああああああぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」」」
勇者を除く4人はそれぞれ力を合わせて少しの無茶をしながらも、魔王軍幹部の4人を広間の中心へ無理やり留める。
「「「…くっ!!」」」
そして一ヶ所へと留められたアゼルの目に何故か剣を鞘へ収めようとする勇者の姿が映る。
(…何を!?)
勇者は両手を開いて両腕を前に出して、手のひらに魔力を集中させ魔法を放つ。
「【グラビティ・ダウン】ッ!!」
勇者の手から魔法が放たれた瞬間
「「「「!?」」」」
魔王軍の幹部たちは全員のめり込むようにして地面に叩きつけられる。
「ぐあ…!」
「…重力系の、魔法か…!!」
「ふざけんじゃ…、ねえっ…!!」
常人であれば動くことすらできないはずの重力内を、苦しみながらも魔王軍の幹部たちは立ち上がってこちらへ向かってくる。
「…【フィールズ・アイス・ショウズ】!!」
「【アイス・メガウォール】ッ!!」
しかしそこへリリィとニルが氷魔法で勇者たちと魔王軍の幹部たちとの間へ、分厚く大きな氷の壁を生成する。
(…氷の壁作ったところで、この重力圏内を抜けれさえすれば…!)
エグマが氷の壁をどうやって壊してやろうかと考えていた時
(なんだ…?)
おかしな風が空気に流れているのにエグマは気がついた。
エグマはおかしな風の流れの原因が何なのかを確かめようと空気の流れを見抜こうとする。しかし目の前の氷の壁が邪魔をして原因を探ることができない。
「…。」
そして氷の壁の向こう側ではとても強い風の流れを生みながらも、ルーフェは魔力と風をその右手に集中させる。
「…!」
暴発寸前ギリギリまで溜めた魔力と風を右手に抑えて
「おおおおおぉぉぉぉぉぉっ!!」
ニルとリリィが作った分厚い氷の壁をアッパーカットで一気に右手に抑えていた魔力と風と共に殴り上げた。
「【サイクロン・インパクト】ッ!!」
あまりにも強力すぎる衝撃波と風で氷の壁は全体に一気にヒビを入れて、形と大きさのバラバラな氷の結晶となり斜め上へと天井を突き破る勢いで打ち上げられる。
「…へっ!!こけおどしかよ!!脅かせやがって…!!」
正面に【サイクロン・インパクト】を打たれると予測していたザザクは、攻撃は不発に終わったとルーフェを嘲笑う。
「…違う!!これは…、こけおどしなんかじゃないっ!!」
スルシュの言葉通り斜め上へ飛んだはずの氷の結晶は勇者の【グラビティ・ダウン】の範囲に入った途端、氷は魔王軍の幹部たちにめがけて勢いよく落ちていく。
「…これは!!」
「「「「【グラビティ・クリスタル・メテオ】ッ!!」」」」
【グラビティ・ダウン】で動きを封じられた魔王軍の幹部たちは、抵抗する間もなく広範囲に勢いよく降り注ぐ氷の結晶を直接受けてしまう。
「「「「ぐあああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」」」
「…アゼル!!…今よっ!!」
「あぁっ!!」
勇者の後ろにいたアゼルは盾を構えて、勢いよく勇者に近づく。
「アゼルいくぞ!」
勇者は【グラビティ・ダウン】を解除して前方斜め上へ飛ぶ。
「うおおおおおぉぉぉっ!!」
そして盾を構えた状態で勇者と同じように飛び、盾を振って勇者の足がぴったりと着いた瞬間
「【シュート・シールド・ナックル】ッ!!!」
勢いよくアゼルは盾で勇者を斜め上へ弾き飛ばした。
「…!!」
勢いよく飛び出した勇者は何とか体制を崩さずに10m近くを飛び、玉座への道へ足を下ろす。
「…っ!!」
ふらついた足もとを整えると勇者は
「…アゼル!リリィ!ニル!ルーフェ!…絶対に生き残れよっ!!」
と大きな声で叫ぶと振り返ることなく魔王のいる玉座の部屋へと一人走り出した。
「……………させるものかっ!!」
「「「!!」」」
いつ倒れてもおかしくない程ボロボロな状態で、エグマは今までにない程の恐ろしい怒りの顔して立ち上がる。
「…絶対にっ!!…行かせてなるものかああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
勇者を止めようとエグマはこの場にいる全員を無視して螺旋階段の元へ向かおうとする。
「…【ツイン・ボルト・ランス】ッ!!」
だがエグマの足元へ二本の電撃の槍が雷のように落ちる。
「…ちぃ!!」
「……絶対にあなたを、…勇者様の元へは行かせませんっ!!」
「…………このっ!………………人間のっ!!………小娘風情がああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!」
広間にエグマの怒号が響く中、勇者は仲間の無事を祈りながらも最後となるであろう魔王との戦いに身を強く引き締めて玉座への道を走り続けるのであった。