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9話 悪魔との契約

 次の日、お昼を過ぎたぐらいだろうか。

 ようやく赤い髪のあんなの人は目覚めた。

 彼女はまだ起きたばかりのためかぼーっとしていた。


「お、ようやく起きましたね。」


 声をかけてみる。

 すると彼女は驚いたようにビクッと体をふるわせると私の方を見た。


「まず、これを来てください。朝あなたが目覚めていなかったので、起きる前に服を買ったのですが、サイズが合うか試しに着てみてください。?」

「え、...あ、ありがとうございます。」


 彼女はベットから出ようとして、はっとしたようにその動きを止めた。


「体が元に戻ってる...。」

「ああ、それですか。あなたの病気やけがは全て治しました。あなたにはもうどこにも悪いところはないですよ。鏡を見ますか?」


 そう言って私は彼女に今朝彼女の服と一緒に買った手鏡を渡した。

 彼女は震える手で私から手鏡を受け取ると、おそるおそる自分の顔を見る。


「あ、あああ、あああああああ.......!!!!!」


 鏡で自分の顔を見たあと、彼女は泣き出してしまった。


「どうしましたか?!もしかして治しきってなかったですか?」

「いえ、本当にありがとうございます...!!」


 どうやら元の傷一つない美しい顔に戻ったことで感激のあまり泣いてしまったらしい。

 こういうのを見ると私ももらい泣きしそうになる。


「今のあなたは綺麗ですよ。何の心配もありません。私がすべて綺麗さっぱり何もなかった状態に戻しましたから。」


 しばらく彼女は泣いていたが、私は彼女がまだ裸のままだったのを思い出し、彼女に再度服を差し出す。


「まず、服を来てください。女同士とはいえさすがに目のやり場に困りますから...。」

「あ、はい。すみません!」


 彼女はいそいそと服を着はじめた。

 私もほっとする。いくら女同士であるとはいえこちらもなんだか恥ずかしかったし...。

 

 彼女が服を着たところで自己紹介と行こうじゃないか!


「どうぞベットに腰を下ろしてください。」

「いえ、で、でも!私だけが座るって言うのは申し訳ないです。」

「気にしないでください。むしろ座ってもらっていた方が私としてもありがたいですから。」

「...?はい、わかりました。」

 

 これから大事な話をするんだ。

 なんていうか二人そろって立ちながらっていうのも変だし、なにより私の方が身長が10センチ以上低いから彼女に座ってもらっていたほうが話しやすいからね。


 フーッと息を吐き、私は話し始めた。


「まず、自己紹介から始めましょうか。」


 少し口調を変える。

 口調を変えるだけでその場の雰囲気はだいぶ変わものだ。

 さっきまで少し落ち着いてきた彼女が再び体を堅くする。

 この世界に私と彼女しかいないかのような感覚がこの部屋に生まれる。


「私の名前はルーナ。ルーナ・フォール。あなたの名前は?」


 ゆっくりと、静かな声で言う。


「アンナです!アンナ・ハイリガーです!」

 

 すごい緊張している。

 それにしてもハイリガーか。たしかドイツ語で聖女って意味だったような...。

 この世界ではどんな意味なんだろう。


「アンナ。あなたはもう気づいていると思うけど、私は人間じゃない。」

「...。」

「どう、怖くなった?」


 アンナはコクッとのどを鳴らすと、言った。


「いえ、怖くはありません。あなたは私を助けてくださいました...。たとえあなたが何ものであろうと話つぃはあなたを怖がりません。」


 アンナの体はかすかに震えていた。


「そう...。ありがとう。」


 私はアンナに笑いかけた。少しだけその場の空気が和んだ。

 

 さて、なら本題に入ろうか...。


「アンナ。安心していいよ。私はあなたに何の対価も求めない。あなたを助けたのは私が勝手にやったこと。あなたは何の要求も私にはしていなかった。だから私があなたに助けたことへの何らかの報酬を求めることは筋違い。」

「そんなことありません!私はあなたがいなければ死んでいました。何でも言ってください。何でもしますから!」


 あら、うれしいわね。...なんてね。

 

 どこぞの公爵令嬢みたいなセリフが出てきた。


「何でもするなんてそんなこと私みたいなのに軽く言っちゃいけないよ?もし私が悪魔とかだったらどうする?もっとも私は悪魔なんかじゃないけどね。」

「もう悪魔でも何でもいいんです...!私はもう地獄は味わいましたから...。最後にもう一度綺麗な体に戻れた。もうそれだけでいいんです。あとはどうなったって...。」


 彼女の声の重みから彼女がどんな苦しい目に遭ってきたかがわかる。体から何かがふつふつと沸いてくる。

 これは怒り...かな...。


「...アンナ。何があったか聞かせてくれる?」


 アンナは語り始めた。自分の身に起こったこと全部。

 

 アンナはダリウスから離れたセーヌ地方の田舎の小さな村の出身だった。そこで両親と共に畑仕事にいそしみながら幸せな毎日を送っていたが、ある日を境にその生活は一変した。

 アンナが16歳の時、セーヌ地方の領主が税を滞納しているとして、考えられないような金額の税金の納入を求めてきた。

 もちろん彼女の両親は全く身に覚えがなかった。

 しかし、領主は税を払えなければ、アンナをダリウスで働かせることを両親に迫った。

 当然のことながらあんなの両親は反対した。

 すると領主は「税を払わないとなれば国の者にあらず!このような愚か者には一切の自費をかける必要なし!」と言い、兵士に命じてあんなの両親を斬り殺した。

 それからアンナの領主に奉仕をする日々が始まった。

 アンナが領主のものになってから半年後、領主は彼女に飽きたと言い、彼女をダリウスのグレッグ商会に売った。

 そこからはさらに地獄の日々が始まった。

 そして梅毒という性病の末期になり、もう使えないとして彼女は捨てられた。


 ひどいなんてそんなものじゃない。彼女が受けた仕打ちはまさに地獄そのものだった。

 彼女の話を聞くと、私の前世のどこが不幸なんだと女神様に言いたくなる。

 話し終えると、彼女は肩をふるわせ今にもどうにかなってしまいそうな様子だった。


「つらかったね。」


 私はそう言い彼女に抱きついた。


 私は何を言っているんだ。

 そんな言葉で終わらせていいものじゃない。絶対に終わらせてはならない。

 もっと言うことがあるだろう。

 でも何を言ってもだめな気がしてきた。今の私にはこの言葉しか出てこなかった。


「もう大丈夫だよ。」


 彼女は耐えきれずに私にしがみつき、赤ん坊のように泣き始めた。

 今まで自分が経験してきた地獄全てを言ったのだ。誰だって耐えられる訳がない。

 私は彼女が泣き止むまでずっと彼女を抱きしめ続けた。


 どのくらいの時間がたったであろうか。

 彼女の涙は涸れたらしい。

 私は彼女を抱きしめていた手を緩めると落ち着くためにフーッと長い息を吐いた。


 そして彼女に問う。これからの人生を。


「アンナ。あなたのこれからだけど、それはあなたが決めなければいけないこと。」


 アンナは顔を上げ、聞き惚れるような目で私を見上げる。


「これからあなたが普通の人生を送りたいのなら私はそれを応援する。もちろんそれなりの投資をするつもり。でもね、アンナ。普通の人生を送っていれば幸せは必ずやってくるなんていうことは決してない。」


 アンナの顔が曇る。

 そうだ。そんな都合のいいことはないのだから。


「それでも、人は生きなきゃならない。そういうものだから。」

「死んではいけない...。」

「そう。よく聞いて、アンナ。死は誰にでも必ず訪れる。それなのに自ら命を絶つなんてすごくばかばかしいと思わない。死んだらそこで終わり、終わりなの。もう続きは何もないの。だから人はその命が続く限り生き続けなければいけないの。」

「ッ...どんなに苦しくても?」

「ええ、当然。」

「........。」


 さあ、ここからだよアンナ。あなたがどんな回答をしたって私はそれを否定しない。だってあなたの人生はあなたのものだから。


「アンナ。あなたはこれからどんな人生を送りたい?どんな未来がほしい?」

「私は..................たい.....。」

「...?」

「復讐したい。私から全てを奪った奴らに........私の家族を殺した奴らに........みんな...殺したい。」

「そっか.........それがあなたが送りたい人生なんだね........。」


 予想通りの答えだった。

 でもね、アンナ。あなたの人生はそんな屑どものためにあってはいけないよ。

 安心して。あなたの望みは必ず叶える。でもあなたの人生をそれだけでは終わらせない。

 

 アンナの受けてきた傷は私とははるかに比べものにならないようなものだったど、彼女は前世の私と同じだ。

 強い者に蹂躙され続ける弱者の人生。

 だけど私はこれからはそうではない。誰にも邪魔されず、安全に幸せに生きるんだ。

 アンナ、あなたも巻き込んであげる...。


「なら私と一緒に来る?そうしたらあなたの望みをかなえてあげる。でも私と一緒に来るっていうことがどういう意味かアンナならもうわかるよね?」


 それは悪魔との契約そのものだった。


「はは.....あなたはやっぱり悪魔でしたか...。」

「いや、私はもっと怖いものだよ。」


 アンナは笑っていた。その笑いから彼女の覚悟はもう見えていた。

 

 なら私もそれ相応の受け答えをしなきゃね。


 私の中には兵士の治療にいくらか使ったが、約50万の魂がある。その半分を彼女にあげよう。

 

「アンナ。本当にいいの?引き返せなくなるよ?」

「あなたと一緒なら...どこへだっていける気がしますから。」

「ありがとうねアンナ。」


 そう言うと私はアンナに近づいた。

 彼女もどうやら何をされるかわかっているようだった。目をつぶりその時を待つ。

 私はゆっくりと彼女に触れると自分の中にある魂の半分を彼女に与えた。

 この瞬間、彼女は人間ではなくなった。

 でも私がその気になれば彼女に与えた魂を私に戻して、彼女を再び人間に戻すことは可能だが、今は言わないでおこう。

 でも彼女がもし私と一緒にいることがいやになって、人間に戻りたいって言ったら、その時はあきらめて彼女を人間に戻そう。

 ずっと私と一緒にいてくれるといいな。


 そんなことを思っていた矢先の出来事だった。


「あああああああぁぁぁぁぁぁ......!!!!」


ゴオッと彼女の体から突然炎があふれ出したのだった。

 





「アンナ、体の方はどうかな?」

「だいぶ慣れてきました。」


 あー本当にびっくりした。

 いきなり彼女の体から炎が出るんだもん。

 最初は大量のエネルギーを彼女の体に入れたことにより、彼女の体が耐えきれなくなって燃えだしたのかと思ったけどどうやら違った。

 

「これ面白いですね!もしかしてルーナさんも出来るんですか?」


 彼女は今自分の体から出ている炎を操って動物を作ったりして遊んでいる。


「いや、出来ないよ。」


 人の魂は集まれば災いが起こる。私はソウルイーターだからそんなことはないが人は別だったらしい。

 

「フフッ」


 笑いながら自分で作った炎のウサギをなでるアンナ。

 確かにこれは災いだね。もしもアンナが操っているこの炎が突如この世界に現れたら大変な大災害が発生していただろう。

 なるほど。ソウルイーターからエネルギーを与えられた人間はこんな災いの力を得るのかもしれない。


「まず、アンナ。私とあなたはもう盟友なんだし、もう敬語はいらないからこれからはルーナって呼んでくれない?今あなたは私と同じくらい強いからそんな他人行儀じゃなくてもいいよ。」


 私が弱くなり、彼女がその分強くなった訳だが。


「でも、ルーナさんのおかげで私はーー」

「あなたと私は対等。これから仲間が増えるとしても私と対等の存在にする気はさらさらない。これがどういう意味かアンナならわかるよね?」

「...わかった。ルーナ、これからよろしくね。」

「こちらこそ!」


 ああ!初めて出来た私の友達!


「じゃあ、アンナ。これからあなたの復讐をしましょう。私は決して手を出さない。でも一緒について行くから安心して。今のあなたは誰にも負けない。もしかしたら私より強いかもしれない。だから何の心配もしないで好きなだけやるといい。」

「ルーナ...。」

「あなたには力がある。復讐の業火の力がある。さあ、どうする?」


 私はこのとき間違いなく笑みを浮かべていた。


「決まっている...。全員殺す...。全て焼き殺す...。領主もグレッグも彼らの部下達も全員...すべて...焼いて、焼いて焼き殺す...。」


 アンナが赤い綺麗な長い髪をはらう。火花が散った。


 私は心の底から思った。 

 なんて美しいのだろうと。

 この世界に来て、私は変わった。人の死を見てもあまり動じなくなったし、自分に危害を加えようとする存在を平気で排除する。簡単に人を殺す。

 もしかしたらこの世界に来たときに、私は女神様に壊されていたのかもしれない。

 女神様に自分の仕事を完璧に手伝う忠実な僕にされてしまったのかもしれない。

 

 


 

 

 

 

 

読んでくださってありがとうございます!感想などがあればうれしいです!

また誤字脱字があれば教えてくださるとありがたいです!

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