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聖剣の勇者たち ※俺だけ妖刀  作者: 狐付き
3章 ケモノと遊ぶ会
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21話 怪盗の正体

「双弥様、これはどういうことですか!?」

「ど、どうってなに?」


 りりっぱさんが何故こんなに怒っているのか理解できない双弥は慌てふためく。一体なんだというのか。


「そこのにゃんこちゃんのことです! こんな可哀そうなことをして!」

「あ、ああそっか」


 りりっぱさんはケモナーであり、獣人大好きなのだ。たとえ双弥だろうと獣人を大けがさせるというのは納得しない。


「これはアルピナがやったんだよ。俺はむしろ止めた方だ」

「止めるのがもっと早ければこんなことにはならなかったんじゃないですか?」

「りりっぱさんだって知ってるだろ。俺はそこまで万能じゃないんだよ」

「では万能になって下さい」


 相変わらず理不尽な無茶を言う。だが今はそんな言い争いをしている場合ではなく、さっさとこの足を治さねばならないのだ。

 そして足の傷口辺りを見たリリパールは少し顔をしかめる。


「完全に血が止まって壊死しています。双弥様」

「わかってる。迅、やってくれ」

「うっ……。おい、こういう役を俺ばかりにやらせるな」

「仕方ねぇだろ、俺の妖刀はほら……」


 双弥の妖刀は刃物というよりもやすりであり、肉を切るためのものではない。といっても当然切ることくらいはできるが、切り口はズタボロになり想像を絶するほどの激痛を生じる。それは下手な拷問よりもたちの悪いものだ。


「ちっ、そういえばそうだったな」


 苦々しい表情で鷲峰は天叢雲あまのむらくもを振りかぶった。





「…………う……にゃっ!?」

「お? 気が付いたか」


 リリパールが回復させて3時間ほど経過したところで、ネコ耳娘は目を覚ました。そして辺りをキョロキョロし自分が囲まれていることに気付き、逃げ出そうとする。だが手足を枷で繋がれているためロクに身動きが取れないでいた。


「にゃ、にゃんにゃんにゃ!」

「ごめんなに言ってるか……あれ、翻訳は?」


 双弥たちは自動翻訳されているはずであり、相手が何語をしゃべっていても通じる。つまり彼女はただ単に「にゃんにゃんにゃ」と言っただけなのだ。


「まあとにかく落ち着けよ、ミッドナイトキャット」

「くぅぅ、とうとう捕まってしまったにぃ……」


 ネコ耳娘は自分の置かれている状況をやっと理解したようで、耳をしおらせて俯く。


「大丈夫ですよにゃんこちゃん。私たちはあなたを役人に渡すため捕まえたのではないですから」

「ああ。我々は保護をするため捕らえたんだ。怖がらなくてもいい」


 リリパールと鷲峰がやさしそうな顔でネコ耳娘の顔を見る。鷲峰が普段見せない表情に、チャーチストはむすっとしている。今夜は説教だろうか。


「じゃあなんで捕まえたにぃ。お願いにぃ、見逃してにぃ」

「悪いけどそれはできない。ほら、うちのアルピナ姐さんがオコになってるし」


 アルピナは丸くなりながら耳をぴしっぴしっと動かしつつ、尻尾で、たしったしっと床を叩いている。その姿に先ほど蹂躙された記憶が甦り、ネコ耳娘は涙目になる。


「ど、どうすればいいにぃ」

「そりゃあ……まず経緯を聞こうか。なんで盗みなんかしたんだ?」

「うぅ……私の子供のためにぃ」

「「「ええっ!?」」」


 双弥たちは驚きの声をあげる。まさかの子持ち。見た感じ、エイカやリリパールと大して変わらないのだが、更に幼いと思われていたアルピナが実は年上だった衝撃もあり、獣人は見た目よりも老けているのではと推測される。


「子供育てるの大変にぃ。少しでもお金、欲しかったにぃ……」

「そうだったのか……。辛かったな……」


 双弥たちが同情的になっているところ、エイカが待ったをかける。


「お兄さん、騙されちゃダメだよ!」


「なんだと!? こんないたいけなネコ耳少女が嘘をつくとでも言うのかよ!」

「そうだぞ。自分が双弥にかまってもらえないからといい加減なことを言うんじゃない」

「エイカさん。まずは信じることから始めないとなにも生まれませんよ」


 エイカ総攻撃を受ける。だがみんなはネコ耳の魔力に憑りつかれているだけだ。この程度ではエイカはめげない。


「だ、だってお城とか貴族の家とか、凄いところから宝石とかいっぱい盗ってるんだよ。子育てってそんなに必要ないと思うんだよ」

「にぃっ!?」


 そう。城から奪った宝石1つ2つだけで子供が1000人は養えるのだ。明らかに過剰である。


「そそそそれは人間の子供だからにぃ! あちしらの子育てはとても大変にぃ!」


 必死に取り繕うネコ耳少女。だが一度できてしまった不審の穴はそう簡単に消すことができない。


「ふむ、本当か嘘か……。チャーチ」

「最初から」

「ん?」

「いない」

「マジか……」


 鷲峰がほっとしたような、それでいて落胆したようなよくわからない表情をした。

 また鷲峰とチャーチストの謎会話が始まっている。なにを言っているんだと双弥たちは通訳をしてもらうことにした。


 チャーチストによると、このネコ耳娘は最初から嘘をついている。どこからと言うと、まずそもそも子供がいない。だから育ててもいないため、大変なわけがない。

 それを聞いて双弥も、やっぱり子供はいなかったんだと安堵し、それと同時に全て騙されていたことに対しがっかりした。


「だ、だけどまだ情状酌量の……」

「お兄さん、鷲峰さん、リリパール様。話は私とチャーチさんが聞くからあっち行ってて」

「駄目だ。お前らだけだと酷いことをしそうだ」

「そりゃ罪人だし、嘘ついたら罰さないと」


「迅」

「……いや、しかし……」

「どっち?」

「ぐっ……」

「りこ──」

「よし双弥、姫、ここは2人に任せるぞ!」


 鷲峰は双弥とリリパールを引き摺るようにこの場から離れて行った。簡単に言うと「私とメス猫どっちを選ぶの」と言い迫ったのだ。これはきつい。



「さて」

「な、なにぃ……」


 エイカが近寄ると、ネコ耳娘は怯える。なにをされるのかという恐怖を浮かべた目でエイカを見ている。


「演技」

「了解」


 エイカは破気を纏った超速の槍を放つ。練功を重ねたエイカの槍の突きは起こりがない。ネコ耳娘からしたら突然槍先が顔の横を通り過ぎたように感じただろう。これは怖い。


「私はお兄さんたちみたいに甘くないから」

「に、にぃー……」


 怯える演技をして甘く見てもらおうという根性が気に食わないエイカは、完全に犯罪者を見る目で繋がれているネコ耳娘を見下ろした。

 そしてチャーチストも鷲峰の態度が気に食わないため、八つ当たるように全てを見逃さない。


「さて、それじゃあお名前聞かせてもらえるかな」

「……シルビィにぃ」

「嘘」


 チャーチストの答えを聞いた瞬間、エイカは歩いて行きアルピナを抱きかかえ戻ってきた。


「ねえアルピナちゃん。猫肉って食べる?」

「ごめんなさいにぃ! リティ! リティ・ボラティにぃ!」


 エイカはチャーチストを見る。するとチャーチストはこくりと頷く。今度こそ本当らしい。


「じゃあ次ね。なんでこんなことしてるの?」

「そ、それはそのー……」


 リティはチャーチストの顔色をうかがう。そして彼女の、全てを見透かすような瞳にぞくりとする。

 そしてエイカとアルピナを見る。どこにも与し易い相手がいない。ここには敵しかいないのだ。


 嘘はすぐ見抜かれる。これ以上は手足の7、8本は噛み千切られるかもしれない。いくらリリパールが治してくれるからといっても痛いものは痛いし、その度に増えていく己の手足の残骸に気が狂ってしまうだろう。


「ごめんなさいにぃ! なにもできず奪われていく人間見るの楽しかったにぃ!」


 完全な愉快犯だ。同情の余地はない。


「やっぱり役人さんに渡したほうが……」

「ごめんなさいにぃ! それだけは許して欲しいにぃ! もうやらないにぃ!」

「嘘」

「えっ、どこらへんが?」

「もうやらない」


 一番ついてはいけない部分が嘘だった。エイカはアルピナを置き、槍をブンブンと振り回し始めた。


「ち、違うにぃ! これには理由があるにぃ!」

「なに?」


 チャーチストが問うということは、本当に理由があるのだろう。エイカも槍を置き、話を聞くことにした。



 リティは最初、本当に貧しくて仕方なく盗みをしていた。それはもちろん食べ物であったり、お金であったり。つまり生きるためすぐにでも必要なものだった。

 だがそれを続けるうち、気付いたことがあった。自分が本気で走れば人間の目に映らないほど速いということを。

 それからリティは高価なものを狙ってみることにした。すると思った以上に簡単で、想像以上に高く売れるということを知ったのだ。

 あとはミッドナイトキャットと名乗り、まるで遊びのように人からものを盗むようになり、危険な挑戦を繰り返すようになっていった。


 しかしリティはやりすぎてしまったのだ。

 貧しい獣人の娘が大金を持っている。大金になる宝石などを持っている。どう考えても怪しい。そこへ目を付けた連中がいた。


 そして今、リティは妹を人質に取られ、そいつらの言いなりになっている。だからやめるわけにはいかないのだ。



「よくできた話だけど……」


 エイカはチャーチストをちらりと見る。するとチャーチストは無言で頷く。つまり今の話は本当なのだ。


「それだけの力があれば妹さん助けられるんじゃないの?」

「無理にぃ。あいつらには敵わないにぃ。それよりも話したことは黙ってて欲しいにぃ。バレたら妹がタダじゃ済まないにぃ」


 リティは涙目で懇願する。今まで散々人をコケにしていた報いは想像以上に厳しい。


「それさ、妹さん助けたらやめてもらえるの?」

「い、妹が助かるならなんでもするにぃ! ……だけど無理にぃ。あいつらは強すぎるにぃ……」

「大丈夫だよ! 私の(・・)お兄さんは誰にも負けない最強なんだから! リティちゃん、妹さんは絶対助かるからね!」


 エイカはリティの手を取り、力強く言った。




「────そいつぁ許せねぇな」

「ええ。万死に値します」

「ふん、悪は滅ぼす」


 事情を聞いた3人は、仕事人モードになっていた。もちろんリリパールは戦力外なため連れて行かない。


「助けてくれるのはありがたいにぃ。だけどあいつらの中にはアルピナ姐さんよりも速いのが……」


 たしったしっ、と地面を尻尾で叩く音がする。アルピナ姐さんおこである。いい加減なようでアルピナは自分の速さに自信があるのだ。自分より速いとかふざけんなといった感じである。


「い、いや。アルピナ姐さんも速いにぃ。だけどあいつと比べたら全然ですにぃ」

「お前噛み殺してからそいつと妹噛み殺してやるきゃ!」

「いいいぃぃ、嘘ですにぃ! ごめんなさいにぃ!」


 リティは泣きながら必死に謝る。

 アルピナを挑発してぶつけようとしていたのだろう。しかしアルピナを利用しようとしてはいけない。バカにされたりなめられるのを最も嫌うため、一番最悪な結果をもたらしてしまうのだから。誠心誠意お願いするのが正しい姿勢だ。



「ま、まあとにかくリティの妹奪還だ。行くぞみんな!」



 双弥の号令と共に、鷲峰とエイカ、アルピナとリティは敵のアジトへ向かう。


 戦力外だが必要なリリパールは補欠としてドームへ残されたことに憤慨していた。

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