20話 怪盗ミッドナイトキャット
「荷物を預かる、ですか?」
「ええ」
本日の双弥は、ホワイトナイト協会の支部長室にて極秘任務の話を聞いていた。その内容とは荷物を預かって欲しいとのことだった。実に不思議な依頼である。
「それってホワイトナイト協会や金庫屋じゃダメなんですか?」
「そ、それが……」
恐る恐るカードを出すのは、依頼人であるフォリオ商会の商会長、ポートだ。
双弥はそれを受け取り、まじまじと見回す。
「これは?」
白いカードに猫のマーク。双弥はそれに見覚えがなかった。
「これはいろんな国を跨いで暗躍する盗賊、ミッドナイトキャットの予告状です」
ミッドナイトキャット。それは様々な国の城や美術商、商会などから財宝を奪っていく謎の怪盗だ。今までの盗難成功率100%。狙われたが最後、奪われるのを待つしかない。
「なるほど。それを預かることで盗まれるのを回避しようというんですね」
「ええ。予告では明後日の夜になっているので、その間をなんとかすれば大丈夫だと思います」
「わかりました。俺に考えがあります」
まさかの怪盗、しかも成功率100%ときたものだ。この経歴に傷をつけられる。双弥はにやりと笑った。
「まあこれは無理だろうな。俺もどうかできるとは思わん。しかし卑怯じゃないのか?」
「真っ向から挑もうとするから盗られるんだ。盗まれない方法を考えれば盗まれないよ」
現在早朝の6時ごろ。双弥は鷲峰と共にDDNPへ乗り込み、上空を時速250キロにて東へ向かっていた。予告の時間まであと18時間ほどだろうか。
速度、距離、場所。この3つが全て盗まれない状態であれば流石の怪盗も無理だろう。新幹線であれば乗り込まれている可能性はあるが、上空を飛ぶDDNPでは隠れる場所も逃げ場もない。
そしてこのペースのまま進み続ければ、深夜には大陸が終わり大洋に出る。本格的に逃げ場がなくなる。暫くそこで周り翌々日辺りに戻ってくれば完璧だ。
「怪盗の正体を暴くようなイベントはこなしておきたかったんじゃないのか?」
「それもまた魅力だけど、今回は相手のプライドを潰すことに専念しようぜ。どうせムキになってすぐまた来るだろうし」
相手は怒らせたほうが与し易い。双弥の戦法のひとつだ。そして逆に怒ったふりをするのも得意である。双弥の戦いは相手を御するところから始まる。だからこれも戦いの前準備みたいなものだ。
こうして3日ほどしてからなにごともなく無事に町まで戻ってきた。
「おお、双弥さん、よく御無事で」
「これといったこともなく拍子抜けする感じでしたよ。はいこれ」
双弥は片手サイズの箱を取り出し、ポートへ渡そうとした。
しかしポートはそれを受け取ろうとせず、首を振る。
「申し訳ありませんが、あと数日ほどまた預かって頂けないでしょうか。それと追加の品もあります」
「よし挑戦してきたな。今度こそ捕まえてやるぜ」
双弥は再びいやらしい笑みを浮かべた。
それから3日後、双弥たちは今、人里離れた山間部の空き地にある東○ドームの中にいた。もちろん鷲峰のシンボリックにより出したものだ。
中にいるのは双弥、鷲峰、エイカ、アルピナ、そしてチャーチストだ。
今回どのような相手が来るかわからぬため、そうやがかんがえたさいきょうめんばーという陣形でいる。本来ならここにリリパールも加わるのだが、いないものは仕方ない。
城だろうが金庫屋だろうが侵入し、お宝を奪っていくと言っても所詮この世界の人間。双弥や鷲峰に勝てるとは思えない。
そしてエイカは急成長株だ。双弥に近い力を持っているため、心強い仲間である。破気による強化もできるのだから大けがもしないだろう。
更にここでアルピナだ。もし双弥たちが追いつけないほどの速度を持った相手だとしても、アルピナなら捕らえられる。
そのうえで保険としてチャーチストを配備。彼女の目は撃たれた銃弾を線条痕まで見ることができるほどだ。不審な点は見逃さない。
あとはこの東○ドーム。現代技術で作られている構造をこの世界の人間は理解できないうえ、シンボリックのため破壊は無理に等しい。しかも鷲峰が操作できるため、入ったが最後、出ることはできない。
「だけどさ、地面を掘って来られたらまずいよな」
「お前知らないのか? 東○ドームは地下施設があるんだぞ」
実際には競輪のバンクがあったり細々としたドーム運営に必要な施設がある程度であり、地下闘技場なんてない。しかしシンボリックは実際にあるかどうかは別として、イメージにより創り出されるためそんなことは関係ない。
とにかく地下は地下で壁があり入ることはできないということだ。
加えて電気の存在だ。照明がどう点いているかわからぬだろうから、配線を切られることもない。そもそも切れることはないのだけど、今いるドーム中心は強力な光に照らされており、隠れて来ることはできない。
そんな厳戒態勢の中、ふいにアルピナの耳がピシッピシッと動く。なにかに反応したようだ。
「双弥、来たぞ」
鷲峰がシンボリックに侵入してきたものを確認。もう少し奥へ入ってきたところで全ての扉を施錠する予定だ。
「今どこらへんだ?」
「そういう細かいところはわからん。だけどかなり慎重になってそうだ」
一夜城が如く突然現れた巨大施設だ。慎重になって当然だろう。しかも建物自体が現代建築であるため、見たこともないものへの恐怖も感じているはずだ。
あとはどこから現れるか。ドーム観客席への入り口はたくさんあり、来る場所がわからない。一か所だけ開けておくという手も考えたが、これだけある扉のなかでそのひとつを見つけるのはかなり難しい。普通ならば途中で諦める。だがそれでは意味がない。
今回は捕らえる方針で決まっている。そのための布陣を整えたのだ。
ふいにアルピナが四つ足立ちをし、上半身を伏せさせ足を開き腰を上げる体勢をとり唸り出す。かなり近付いているのだろう。皆にも緊張が走る。
「来た」
チャーチストが呟いた瞬間、アルピナが消えた。そしてなにかの激突音。そして先ほどと同じ体勢をしたアルピナが現れ、地面に何かが落ちた音と、瞬時に駆けだしたと思われる形跡が残っていた。
「な、なにがあったの?」
「くっ……わからん」
エイカと鷲峰には見えていなかった。双弥もかろうじて影だけ見えていた程度だ。あまりにも速過ぎて捉えられたのはアルピナとチャーチストだけだったようだ。
「チャーチ、なにが見えた?」
「雌猫の獣人」
「「なっ!?」」
双弥と鷲峰が同時に驚愕の言葉を発した。ネコ耳娘だ。ネコ耳娘が降臨したのだ。
猫獣人。双弥は以前見ていたが、鷲峰は初対面だ。見えなかったことがかなり悔やまれる。
「おい双弥、なんで捕まえなかった!」
「速過ぎんだよ! そんなすぐに目は慣れねぇ!」
速いものを見るためには目を慣らさなくてはならない。今の双弥ではヤ○チャと変わらないのだ。
「うぅーーっ」
再びアルピナが唸る。また来るのだろう。鷲峰はチャーチストの声にすぐ反応できるよう集中する。
「来た」
チャーチストの言葉で反射するように全ての扉を閉める鷲峰。これで逃げ場はなくなった。そして消えるアルピナ。再びヤム○ャタイムである。
そんな中、地面へなにかが落ちる。確認するとそれは血だった。
「あ、アルピナぁ!」
「大丈夫、それは猫の血」
アルピナは狐の獣人の中でもスピード特化の種族だ。近い体躯であれば速度で負けることはない。攻撃力は劣っていても、回避と攻撃速度が上回っていれば勝てる。
しかしそこに問題がある。アルピナが本気を出すということは、相手を殺すことになる。それは捕まえたことにはならないのだ。
だからといってアルピナは言うことを聞いてくれる状態じゃない。今完全に興奮しているところだろう。
双弥は走り出した。そして精神を集中する。破気を取り込み更に加速。一気に灰色の世界へ飛び込む。そこで更に加速し、集中を高める。
(見えた!)
灰色の世界の更に先、形だけの世界でようやくアルピナと盗賊の姿を確認する。しかしまだ見えただけだ。速度が追いつかない。
破気を更に取り込み、速度を上げる。もう動体視力が追いつかないでいるが、予測にて動く。
ほんの一瞬、アルピナの動きが止まる。そのチャンスに全てをかけ、双弥はアルピナに飛びつく。双弥に捕まったアルピナは、共に吹き飛んでいった。
「なにすんのきゃ! 放せきゃ!」
「アルピナ落ち着け! もう済んでる!」
「まだきゃ! あいつ生きてるきゃ!」
「殺させないために止めたんだよ!」
直後、べちゃりという感じで地面へなにかが落ちた。そこには足首を切り裂かれ、激痛により苦しむネコ耳少女がいた。
アルピナが一瞬動きを止めたのは、攻撃を仕掛けていたためだ。ネコ耳少女は動くために必要な腱を断たれているせいで、もう動けない。
「痛いにゃ、痛いにゃぁーっ」
「くっ、結構えぐいな。エイカ、急いで止血を! 迅、超特急でりりっぱさんを呼んできてくれ!」
暴れまわるネコ耳少女を取り押さえつつ、双弥は皆に指示を出す。アルピナには手を出させないようにするため、餌付けをする。今はご機嫌で干し肉をはむはむしているところだ。
「お兄さんどうしよう! 血が止まらないよ!」
「もっと上、膝近くを紐で思い切り縛れ! 血を止めることだけ優先しろ! 最悪壊死してもいい!」
リリパールさえいれば、生きている限り元に戻せる。壊死した細胞は復活させられなくとも、そこから上を斬れば再生させられる。シンボリックで強化された新幹線ならば時速600キロほど出せるし、線路もほぼ直線だ。キルミットまで往復3時間くらいだからそれまで生かせればなんとかなるというのが双弥の考えである。
「あううぅぅ」
「おっと動くなよ。このままじゃ死んじまうぞ」
痛みでなのか、逃げようとしているからなのか、体をよじらせるネコ耳少女を双弥はしっかりと固めた。
「とりあえず縛ったけど、早いところなんとかしたほうがいいと思うよ」
「わかってる。だけど近場で回復魔法を使える人を呼ぶのもなぁ」
ここへは支部長どころか依頼人ですら立ち寄らせていない。できるだけ内密に行いたいからだ。
もし誰かを入れることで怪盗の正体が知られたら、双弥たちはこの少女を突き出さなくてはならない。そして彼女は王や貴族などからも品物を盗んでいるため、捕まったら確実に死刑だ。貴重なネコ耳娘を殺させるなんて双弥と鷲峰が許さない。
だから今回は捕まえられなかったことにし、彼女には今まで盗んだものを返却させ、そのうえで改心させて膝元へ侍らす。完璧だ。
なんでも殺せばいいというものではない。幸いにも彼女は誰も殺していないため、情状酌量の余地はあると思われる。だから逃げられぬようアルピナがいる双弥の近くで罰を受けるのがいい。
「てか暴れるな。動くとそれだけ危険な状態になるぞ」
動くことで心拍数が上がり、血が巡りやすくなる。興奮することで痛みは和らぐが、結局寿命を縮めることになる。
「あまりやりたくなかったけど……力を抜けよ」
双弥は内腕を首にかけ、ぐっと力を入れ絞める。首の動脈をせき止められ、ネコ耳少女はあっという間に気を失った。
ぐったりしたのを確認した双弥は体を離し、ゆっくりと寝かせる。これでようやく一息つける状態だ。
「お兄さん、それ私にも教えてよ」
「これはなるべく教えたくないんだけど……半端なことやられるとかえって危険だから、後でな」
これは危険な技であるため、そう簡単にやらせるわけにはいかない。エイカだと覚えるにはまだ若い。
といってもエイカは戦いに身を投じているのだから、こういった技術も必要な場面も出てくるだろう。
そしてこれを教えることによって、エイカの記憶破壊術は更なる進化を遂げることになるなど双弥には知る由もなかった。
「それにしてもアルピナはちょっとやりすぎ感はあるけど……」
アルピナは野生なので仕方ないのだ。それに侵入された際、アルピナ以外の誰にもネコ耳少女を止められなかった。チャーチストは見ることができても動き自体は人並みだし、双弥も集中したうえに目を慣らしてやっとという程度だ。結果としてこのような状態にさせてしまったが大金星と言える。
そして3時間ほど経過したところで、激おこりりっぱ丸がのしのしとやってきたのだった。




