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聖剣の勇者たち ※俺だけ妖刀  作者: 狐付き
2章 オウラ共和国でエンジョイ
152/201

17話 次の仕事

「ただいま」

「お兄さん、おかえりー」


 双弥は数日振りの我が家に帰ってきた。といっても購入してからひょっとしたら外に出ている時間の方が長いのではないかというくらいのため、落ち着くというほどでもない。


 そして応接間に入ると、いつもの通りゴスロリ少女たちが座っており、顔がだらしなく歪む。

 彼女らを見ているだけで飽きない。それが双弥という男だ。


 だがそれを良しとしない気持ちも心のどこかに持ち合わせていた。


「なあエイカ。この子たちってずっと座りっぱなしだよな」

「えっ? うんー、そうー、だね」


 起きてから寝るまで、トイレや食事などを除いたらずっと座りっぱなしだ。これでは体が衰えてしまう。

 実際にはエイカによる武術指導が行われているのだが、そんなことを双弥は知らない。


「んー、じゃあ掃除でもさせる?」

「そういったことできるのかなぁ。だけどそれって強制労働的な気がしないか?」

「そんなことないよ。嫌がることはしないと思うし」

「うーん、でもなぁ」

「お兄さん覚えてない? 私の服を脱がしたこととか、娼館に売ったこととか、胸を……」

「うわああああああああ!!」


 双弥は頭を抱え、柱に打ち付けた。

 胸を揉んだこと以外は全て不可抗力だ。好きで脱がしたわけではないし、娼館に売ったつもりもない。

 だが結果そんな感じになってしまったというだけだ。


「あっ、あのね、お兄さん。別に責めてるつもりじゃないから」

「俺は……俺はあああぁぁ!」


 最近ようやく忘れかけていた過去の出来ごとが鮮明に思い出され、双弥は自己嫌悪に陥ってしまった。

 鮮明に思い出したものにはもちろん……いや、やめておこう。


 エイカは、双弥がやりたくてやったわけではないことくらいわかっている。もしそれを罪だと思っているのなら、充分に償っているとも感じている。

 当の双弥はそう思っていないようなのだが。


「聞いてよお兄さん!」

「ごめん、ごめんよエイカぁぁ」


 エイカが言いたかったのは、そんなされるがままのような状態だったにも関わらず、自分は双弥と一緒に旅をすることを選んだという話だ。そこには自分の意思が確実に介入していた。だから彼女らも選ばせてあげればきっと意思を示してくれるはず。そんなことを言いたかった。


 しかし双弥は話を聞いてくれない。駄目だこいつ。普通の人ならここでそう思って呆れるだろう。しかしエイカは諦めない。双弥は自分のことで苦しんでいるのだから。

 ではこうなった双弥をどうすればいいか。エイカにはわかっている。だからそっと手を壁際にあるものへ伸ばした。


 カァーン




「う……うーん。はっ」

「お兄さん、目、覚めた?」

「あれ、エイカ? ここは……うちか」

「疲れてたんだね。帰ってきた途端倒れたんだよ」

「そうだったか……んん!?」


 双弥は自分がどこにいるか瞬時に理解した。頭に近いエイカの体。そして頭から感じる人の熱と柔らかさ。これはHIZAMAKURAである。


「ご、ごめんエイカ!」

「ううん、いいよ。お兄さんは私のために働いてきたんだし、これくらいはね」


 そう言われたからといって言葉に甘える双弥ではない。このまま少女の匂いが漂う状態にいたら興奮してしまうため、早々に起き上がる。

 何かが物足りない。双弥が起き上がって周囲を見たとき、そう感じた。


 そうだ、ゴスロリ少女たちがいない。癒しの空間のはずだった応接間に癒しが足りないのだ。


「エイカ。俺のゴスロリたちは──」

「お兄さんのじゃないよ」

「あ、いや、そうじゃなくって……俺が預かっている少女たちは?」

「じっとさせてるのもどうかなって思って掃除とかさせてるよ。大丈夫、頼んだらやってくれたから強制してないよ」

「そっか。でも意思があってやってるのか?」

「だって私、自分の意志でお兄さんについて行ったんだよ」


 あのときのエイカは、リリパールのところへ行けと言ったのに双弥と旅をすることを選んだ。逆らう意思を見せていたのだ。


「じゃあ大丈夫か。んじゃちょっと様子を見てくる」

「いいよ私が見てくるから。お兄さんはまだ休んでて」


 双弥のことだ。あわよくばスカートの中が見えないかと頑張るに決まっている。だからエイカは双弥をソファから離れぬよう念を押し応接間から出た。



 扉を閉めたところで、小さく玄関のドアがノックされていることに気付く。先ほどからずっと叩いていたのだろうか。

 誰だろうと思いつつも注意を怠らぬよう、エイカは地中に流れる破気を吸い上げるように取り込み、ドアを開ける。


「どなた?」

「…………や」


 軽く手をあげて挨拶してきたのはエクイティだった。




「仕事の手伝い?」


 双弥の言葉に、エクイティはこくりと頷いた。

 彼女が請けた仕事というのは、ある花の採取だった。

 こういった仕事はホワイトナイトの管轄外だが、彼女はホワイトナイトではない。この依頼は町にある高級レストランからの直接依頼で、双弥には護衛を頼みたいということだった。


「その花って採るの大変なのか?」

「……魔物のいる山にある」


 そう言ってエクイティは地図を開き、場所を指した。ここからだと結構な距離がある。


「こういうときは迅を……ああ駄目だ。あいつがいつ帰ってくるかわからんし」


 鷲峰はリリパールを返却するため、キルミットへ向かっている。それからオークションへの出品手続もしなくてはならない。更にタォクォへ寄る用もあったりと忙しく、戻りは最速でも1週間以上かかる予定だ。

 他に頼れる勇者といえばムスタファくらいなものだが、生憎ムスタファは移動するためのシンボリックを持ち合わせていない。

 そしてジャヴィ公とフィリッポはまだシンボリックを使えない。予定では暫く休みだったから気にしなかったのだが、これで公共機関での移動が余儀なくされた。


「どうするの? お兄さん」

「んー…………。悪いけどエイカ、また少しの間、家を頼めるか?」

「うん、大丈夫だよ。エクイティさんのこと、頼んだからね」


 こうして双弥は貧乳に家を任せ、巨乳と共に旅をすることとなった。




 ガタゴト

 ゆっさゆっさ


 ガタンゴトッ

 ぽよんぽよん


 双弥とエクイティはホワイトナイト協会の公用馬車にて目的の花が咲いていると思われる山近くの町へ向かっていた。私的利用である。

 今の双弥はAランクホワイトナイト。急務と偽れば公用馬車を使用できる立場にあるのだ。

 だが前回のドラゴン退治により協会の懐はかなり暖まっており、むしろ双弥だけの為に馬車を新調してもいいくらいだ。


 そして双弥は外の景色をみているふりをしつつ、エクイティの物理法則に従い縦横無尽に動き回る娘たちをちら見している。大体3秒に1回の割合で。

 エイカの娘たちを例えるなら、固焼きの目玉焼き。だがエクイティのそれはバケツプリンだ。これは目を離せない。


「……なに?」

「えっ!? あ、そ、そのー。エ、エクイティはその花ってどんな形なのか知っているか?」


 慌てて取り繕った双弥の質問に、エクイティは首を横に振って答える。


「んー? それじゃあ探しようがないんじゃないか?」

「……匂いは、覚えてるから……」


 コック修行をしているとき、一度だけ嗅いだことがあるらしい。

 匂いというものはとても他人に伝えにくい。○○みたいな匂いと言ったところで、相手がそれを知らなければ伝わらない。かといって口で説明できるようなものではない。

 大雑把になら甘い匂いとか言えるが、それでどれだけ伝わるだろうか。つまり目当てのものを見つけるには、エクイティが必須である。

 色や音のような感じで匂いに名前を付けてみるとかはどうだろう。ハイスクールスポーツクラブロッカールームアシッドとか。


 それはさておき、双弥はこのブルンブルン天国に触れてみたいという欲求を覚えた。決してやましい意味ではなく、興味や好奇心といったものでだ。多分。

 しかしそんなことを実行したらリリパールとエイカがが憤怒すること間違いなし。ひょっとしたら次の日には肉骨粉になっているかもしれない。


「……ねえ」

「ん?」


 双弥が謎の悪寒に身震いさせているところに、エクイティが話しかけてくる。今日は珍しく……というよりも、双弥しかいないからだろうが、話をする。


「……お礼」

「ああ」


 お礼をなにか欲しいかと聞かれている。

 それはもちろんその首の下にあるよく育った娘たち一択だろう。などと言えるような双弥ではない。

 人間、今の状況に慣れると欲が出るものだ。たっぷり見た。では次は触ってみたい。そんな感じに。

 しかし双弥は理性ある男。自制心の塊だ。悪く言えばヘタレのDTなのだが、そこは良い方に見てやろう。


「その花って美味いのか?」

「……とても」

「じゃあたくさん採れたらさ、それで料理作ってくれよ」


 双弥はそう言って少年のような笑顔を返した。歯を食いしばっているように感じるのは気のせいだ。

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