第10話 また明日
ああ、気持ちいい。やっぱり、ワタシって最高。
高校の文化祭。観客はたかだか数百人。ワタシが普段相手にしている人数に比べたら、たいしたことはない。
でも、これは特別だ。
同じ学校に通う人たちと、同じ時間を過ごして、同じ場所で騒いでいる。
今日という日は、もう二度とやってこない。選ばれた者しか到達できない、青春の極地。
三年生の先輩たちにとっては、これが最後の文化祭だ。
でも、ワタシには次もある。
来年は、もっとすごい舞台にしてやろう。ふふ、楽しみ。
最後の音が鳴り終わった。
一瞬の静寂。
そして、割れんばかりの拍手。
ワタシは客席を見渡した。あちこちから名前を呼ぶ声が聞こえる。
おむすびさん。最高。かわいい。すごかった。
うんうん、分かる分かる。そうだよね。最高だったよね。
ワタシが作った、この舞台。
歌も、演奏も、盛り上がりも。全部、最高。
ああ、幸せ。
もっと褒めてもいいんだよ。
もっと、もっと――
「ありがとう!」
その声は、不意に聞こえた。
ほかの歓声とは、少し違っていた。
やけに大きくて、必死で。
何だろう。
ワタシは何となく、声のした方へ目を向けた。
客席のずっと後ろ。
そこに、見覚えのある顔があった。
……あれ。えーっと。
ああ、ムタクくんか。
佐藤順平。
同じクラスの、どうしようもなくつまらない男。
あいつ、あんな声出せたんだ。
何だか、ひどい顔をしている。
泣いているのかな。
あいつ、泣けもしたんだ。
……ああ、そっか。
あれは、あいつの声なんだ。
生まれて初めて、自分の中から絞り出した純粋な声。
そして、たぶん人生最後の叫び。断末魔。
明日になれば、またいつものあいつに戻るのだろう。
今日のことさえも、なかったことにして。
それでも。
今、この瞬間だけは、誰のものでもない。
なんて、みっともない。
なんて、美しい。
赤ん坊の産声よりも、ずっと。
ワタシは、ここにいる。
そして、あいつも。
そんな声を、このワタシが、どうして聞き捨てることができようか。
ワタシは、マイクから顔を離す。
歓声は、まだ鳴りやまない。
客席の一番後ろまで見渡して、大きく息を吸う。
そして、みんなに向かって笑いかけた。
「どうもありがとう!!」




