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誰も間違っていない世界で  作者: 抹茶
第1章 選ばれる夜

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第10話 朝に残るもの

朝は、静かに来た。灰はもう動かない。地面に薄く残るだけで、夜の気配はどこにもなかった。空は白く、空気も軽い。


 終わった。それだけは、誰もが分かっていた。


 広場には人が集まっている。だが誰も大きな声を出さない。泣き声も怒号もない。ただ低い声が交わされているだけだった。


 数を数えている。誰がいないのかを。


 四人。それが結果だった。


 減ってはいない。増えてもいない。ただ順番だけが崩れた。


「……運んでくる」


 誰かが言い、他の者が頷く。言葉は少ない。必要なことだけが交わされる。慣れているのだ、こういう朝に。


 俺は広場の端に立ったまま、それを見ていた。関わらない。関われない。ここから先は、この村の時間だ。


「……あんた」


 声をかけられる。振り向くとダグが立っていた。夜と同じ顔だが、少しだけ疲れている。


「……助かった」


 短い言葉だった。礼ではない。事実の確認だ。


「全員じゃない」


「ああ。でも、あの子は生きてる」


 視線を向ける。家の陰にリノがいた。こちらを見ている。怯えているが、逃げてはいない。


 生きている。それだけだ。


「……それでいい」


 ダグは小さく頷く。完全ではない。だが何も変わらなかったわけでもない。それで十分だと言っている。


「……あんたのやり方、嫌うやつもいる」「知ってる」「でも、真似するやつも出る」


 ダグは続ける。「来年、同じことが起きたら……また違う動きになるかもしれない」


 可能性の話だ。保証はない。だがゼロでもない。


「……勝手にしろ」


 それ以上でも、それ以下でもない。選ぶのはこいつらだ。俺じゃない。


 ダグは少しだけ笑い、それ以上は何も言わなかった。


 やがて人の流れが変わる。広場から少しずつ人が離れていく。日常に戻るための動きだ。戻れるかどうかは別として。


 俺は空を見上げる。朝の光は均等だ。誰に対しても、何も選ばない。だからこそ、楽だ。


 足を動かす。この村に用はない。やることは終わった。


 背を向ける。


「……あのさ」


 小さな声がした。止まる。振り返ると、リノが立っていた。少しだけ距離を取っている。


「……なんだ」


「なんで、助けたの」


 単純な問いだった。だが答えは単純じゃない。


「……助けてない。結果的に生きてるだけだ」


 少女は少し考える。納得していない顔だ。


「……それでも、助けようとしたでしょ」


 言い直す。本質は変わらない。


 俺は少し間を置いてから言った。


「……やることがあっただけだ」


 それだけだ。理由ではない。説明でもない。ただの事実だ。


 少女はそれ以上聞かなかった。聞いても意味がないと分かったのか、それとも――分からない。


「……そっか」


 小さく言う。それで終わりだった。


 俺はもう一度、背を向ける。歩き出す。振り返らない。


 後悔は、あとでいい。今はやることが終わっただけだ。


 それだけだ。

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