すれ違う前触れ3
「んぁぁあああああああああ‼‼」
着地の反動もそこそこに、逸人は立ち上がらず、斜めに飛び掛かるような軌道で大熊へと襲い掛かる。
「グゥっ⁉⁉ ウガアアアア⁉⁉」
弾丸のような速さから、大砲のような威力の拳が飛び出せば、大熊だとて無事では済まない。
ましてや急な奇襲ともなれば、それこそ防御もままならず。
手痛い一撃を喰らった一頭は吹き飛ばされ戦線離脱。
「ガゥ! オオン‼」
それに合わせて散開する大熊。
ヤンキエルを封殺するためのツインテエル包囲網という連携陣を放棄してでも、新たな脅威に対処することを選び、事前調査として。一頭は攻撃された仲間の容態を確認しに行った。
「ヴェア! ノオオン‼」
そして、まるで無理だと言わんばかりに首を振る。
直後。大熊達は今まで以上の気迫を放つ。
その手の求道者が見れば、殺気だと断言するであろう気迫を。
ここでヤンキエルは見に徹する。
1つはもちろん、ツインテエル保護ため。
彼女は大熊に渡り合う力も、意欲も持たない。
現場を監督する存在として、それを捨ておくことはできない。
もう1つは逸人への期待だ。
自分が感じた強さを証明してくれるかもしれないという期待。
より汲み取るなら、こんな大熊程度では役不足だが・・・それでも。
好意を寄せる異性の格好いい姿を見たいという乙女心が躍ったのだ。
しかし、それらを感じ取ったのは逸人ではなく、追い詰められた大熊達。
ヤンキエルの放つ気迫が霧消するのをいち早く察知。
標的を逸人のみへと修正すると、囲い込むように位置取りを直す。
逸人に戦闘経験はない。
それに気付くこともない。
数少ない喧嘩の経験も、リンチのような状況になった覚えはない。
だから無造作に、無神経に動く。
ただ目についた相手に、ただ全力で殴りかかる。
あまりにもシンプルで、どうしようもなく頭の悪い方法。
なのに、それでも。
「ガゥ、ッ⁉⁉ ヴェ――アアアアアアア‼‼‼」
「グゥッ、オオオアアアアアアア‼‼‼」
「ギャガ―――‼‼ ・・・ブゥヴェエエエエアアア‼‼‼」
速く、硬く、強い。
本当にそれだけのことで圧倒する。
地面を強く蹴り出せば、空を滑るように敵の目の前へ。
腕を強く振り下ろせば、頭を蠅のように地へ叩き付け。
反抗する爪も、牙も、薙ぎ払うだけで折り、砕く。
策もなく、品もなく、子供のように手を振り回して暴れる。
そんな逸人の姿を見て、彼をよく知る者なら違和感を覚えたことだろう。
攻撃的すぎると。
流石に幼稚すぎると。
いくら世界が変わっても、本質的な生来の性質をここまで捻じ曲げられるだろうかと。




