プロローグ3
落ちる・・・。
落ちる――・・・。
落ちる――――ッ⁉⁉
なにが起こったのか脳が処理しきれない内に、気付けば周囲は真っ暗闇。
空も地面もなくなって、ただただ自由落下する。
悪夢だったら地面に激突する直前で目を覚ませるはずだけど、生憎と地面なんてものは見えそうもない。
手を広げても、足を延ばしても、空気抵抗でどうにかなる感じもしない。
お腹の辺りに感じる不快感。内臓が押し上げられるようなあの感覚だけが、生を実感させた。
いや待て。
このタイプの悪夢も見たことがあっただろう。
そうだ。どうせ途中で夢であることを自覚して、自発的に目を覚ませる――なんて、楽観的に諦めてみたところで。
『おい! しっかりしろ‼ このままじゃ地獄行きだぞ⁉⁉』
声が響く。
聞こえるというよりは、耳鳴りみたいに反響する。
「えっ⁉ 誰が⁉ どこにッ⁉」
『自己紹介なんか後だ‼ 身体を浮かせろ‼』
「身体を浮かせるって―――⁉⁉」
そんなことを言われましてもっ⁉⁉
心の中で叫ぶ。
人間に羽はないし、俺はスーパーな人じゃない。
浮けと言われて浮き上がることはできないし、うけと言われたら先に受けを連想するぐらいの小市民だ。
せめてもの抵抗に手足をバタつかせては見るものの、
『なにやってんだよ⁉ まじめにやれ‼‼』
またしても怒られた。
そして、この瞬間に気付いた。
この声はさっきの・・・・・・。
もう1度、周囲を見回してみるも、やっぱり誰も居ない。
ゾッとする状況なのだが、それどころでもない!
「まじめにやってこれなんだよ‼ 受けって言われてもそんな機能はないんだよ‼ せめて周りの空気くらい、用意してから浮けって言えよ‼‼」
仕方がないから怒鳴り返す。
それぐらいしか、できることがなかったから。
こうしろ! って言うんなら、もっと詳細に説明して欲しい。
特に普通はできそうにないことを言うなら尚のこと‼
『なんだよ! 周りの空気って‼ そんなこと――って⁉ まずいッ‼‼』
水掛け論が始まるかと思いきや、声が緊張感を込めて固まる。
不思議となにを見てそう言ったのかが直ぐにわかった。
自動で動いた視線の先。
赤か、黄色か、オレンジ。
灯りだ。
周囲が真っ暗なせいか、凄く目を引く。
だけど、おかしなことを理解する。
俺はその灯りに向かって落ちていってる・・・。
つまり、地面が近付いてるってこと。
「確かにこれはまずいかも‼‼」
アニメよろしく、空中をかき分けての平泳ぎを披露してみる。
そんなことしても価値なんてない。
知っていたけど、意味はあったようで。
グンッッ‼‼‼‼ と脇の下に力が掛かる。
衝撃で肩が外れるかと思ったけど、意外と頑丈だったのか、痛みもない。
「ちょっと‼ 暴れないでよっ‼」
「回収完了。引き上げに移行」
見れば、両脇を抱える女の子の姿が。
継続していた空中泳法が恥ずかしさで中断される。
情けないところを見られたという感情で一杯になりながら、ありのままを受け入れるしかなくて。
しばらくはクレーンゲームの景品の気持ちを味わった。




