4. 師弟の思い出―8代目最強ババア:ゾゾア
「まぁたお前は、雑に叩いて」
一面クレーターだらけの森を見て、8代目最強ババア、ことゾゾアはため息をついた。
「おかげで早く終わったし、いいじゃない――あでっ」
暢気に笑うシティは師から一発お見舞いされた。
「全く。誰が後始末すると思ってるんだい。それっ」
ゾゾアの五指の先が細かな光を紡ぎ出す。
宙に描かれた葉の紋様が、森一帯に染み渡る。
あちこちで光に触れた倒木が、ゆっくりと起き上がり始めた。
「ほら。大丈夫」
「馬鹿言ってないで、索敵始めな。討ち漏らしがあるよ」
ゾゾアに睨まれ、シティは渋々索敵を始める。
「細かいのは苦手なのにぃ……」
文句を言う弟子の隣で、ゾゾアは見つけた敵をピンポイントで処理していく。
「次は森を穴だらけにしないこと。……まあ、お前にしては良くやったね」
「やった! じゃあこの後買い物行こうよ」
「……ちょっとだけさね」
頑張ったときはきちんと褒めてくれる。
そんなゾゾアが大好きで、シティはにんまり笑みを作った。
◇ ◇ ◇
戦いを終えた2人は、その足で海が見える港町に向かった。
行きつけのパン屋で菓子パンを買ってもらったシティはご機嫌だ。
「『お連れの黒人形、いつもより小さいですね』だって」
「そりゃ、見習い服の術が身体に馴染んできたんだねぇ」
最強ババアの弟子は、存在が徐々に人々の記憶から消えていく。
今のシティは、知らない人から見たら魔女の使い魔――真黒な人形に見えているだろう。
忘れ去られることに、師はシティを案じたが。
隣を歩く弟子はからからと面白そうに笑っていた。
「『この汚い孤児め』って見てた奴らが、ギョッとするの。『魔女の手下だー!』って。いい気味よ」
全く気にしてなさそうだ。
これはこれで、逆に問題かもしれない。
「忘れられるからといって、人との繋がりをなくしてはいけないよ」
困ったように眉を寄せる師匠の顔を見て、シティはコトンと首を傾げた。
その意図を尋ねようとして――
「偉大なる魔女さまだ。皆、道を開けるように!」
快活な大声に、人混みが二手に分かれた。
その開けた向こうに、声の主たる海兵服の大男。
「やめな、タタン。住民に迷惑だよ」
買い物袋を抱えた人々が足を止め、様子を窺っている。
露骨に嫌そうな顔のゾゾアが嗜めるも、大男は気にしない。
「いやいや、この国を守る魔女さまに。港町の皆は感謝しているんだ。当然のこと」
「そうだそうだ」「魔女さまいつもありがとう!」「ババア最高!」
周囲から同調する野次が飛ぶ。
「ああ、どうも。五月蝿いったらありゃしない」
煩わしそうに足を速めたゾゾアは、大男の腕を掴む。
反対の手でシティの手を握ると、大きく一歩、上へ飛んだ。
ふわりと空に浮き上がる3人。
そのまま宙をどんどん進み、傾斜の強いレンガ道を見下ろしながら、灯台が臨む海岸へと移動した。
音もなく桟橋に降り立った3人。
「で、タタン。急用かい?」
ゾゾアに睨まれ、タタンと呼ばれた大男は降参というように両手を上げた。
日に焼けて、よく鍛えられた体つき。
その身に纏う海兵服に、勲章がいくつも輝いている。
「用事もそうだけど、ほら」
差し出したのはワインボトル。
「好きだろう。一杯どうだい?」
無言で桟橋に腰掛けるゾゾア。
彼女が術で作り出した氷のグラスが、了承の答えだろう。
「どうぞ。レディ」
タタンは琥珀色の液体をグラスに注ぐと、丁重な手つきで手渡した。
「シティ! 元気だったか? また大きくなったな!」
向き直ったタタンは嬉しそうに両手を広げ、シティを抱き上げた。
「おじさん、私が分かるの?」
一瞬キョトンとするタタン。
ちらりとゾゾアと視線をやり取りした彼は、降ろしたシティと目線を合わせ、優しい声で語りかけた。
「ああ、分かるさ。こんなに素敵なお嬢さん、忘れるわけないだろう?」
嬉しいような、むず痒いような……シティは居心地悪さに視線を逸らした。
シティはタタンが苦手だ。
嫌いじゃないけど、彼がいるとゾゾアが自分だけのものじゃなくなるみたいで。
ほら、今もそこに2人だけの世界がある。
グラスを傾ける音と、潮の香りが、どこか遠くのものに感じられた。
「……海蛇の行動パターンが変わった」
「国王から聞いてるよ。被害はどうだい?」
「おかげさまで、なんとか。それより、俺たちにできることはあるかい?」
海軍で地位あるタタンは、最強ババアとの協力を惜しまない。
(私がいるのに……)
兵も船も動かせて、港町での人望もある。
そんなタタンの協力は欠かせない。
頭では分かっていても、つい嫉妬と対抗心が湧き上がってくる。
「ほら、シティの分。ぶどうジュースだ!」
差し出されたコップに免じて、今日は許してあげよう。
潮風が心地よい。
二人の間に座ったシティは、国防を語る大人たちの話に耳を傾けた。
お読みいただきありがとうございます。
最強ババアが来てると聞いて、タタンは港から走ってきました。
ゾゾアに会うためにいつも走っているタタン。
軍人らしく、疲れは感じさせません。
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