表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/16

4. 師弟の思い出―8代目最強ババア:ゾゾア


「まぁたお前は、雑に叩いて」

一面クレーターだらけの森を見て、8代目最強ババア、ことゾゾアはため息をついた。


「おかげで早く終わったし、いいじゃない――あでっ」

暢気に笑うシティは師から一発お見舞いされた。


「全く。誰が後始末すると思ってるんだい。それっ」

ゾゾアの五指の先が細かな光を紡ぎ出す。

宙に描かれた葉の紋様が、森一帯に染み渡る。

あちこちで光に触れた倒木が、ゆっくりと起き上がり始めた。


「ほら。大丈夫」

「馬鹿言ってないで、索敵始めな。討ち漏らしがあるよ」

ゾゾアに睨まれ、シティは渋々索敵を始める。


「細かいのは苦手なのにぃ……」

文句を言う弟子の隣で、ゾゾアは見つけた敵をピンポイントで処理していく。


「次は森を穴だらけにしないこと。……まあ、お前にしては良くやったね」

「やった! じゃあこの後買い物行こうよ」

「……ちょっとだけさね」


頑張ったときはきちんと褒めてくれる。

そんなゾゾアが大好きで、シティはにんまり笑みを作った。


◇ ◇ ◇


戦いを終えた2人は、その足で海が見える港町に向かった。

行きつけのパン屋で菓子パンを買ってもらったシティはご機嫌だ。


「『お連れの黒人形、いつもより小さいですね』だって」

「そりゃ、見習い服の術が身体に馴染んできたんだねぇ」

最強ババアの弟子は、存在が徐々に人々の記憶から消えていく。

今のシティは、知らない人から見たら魔女の使い魔――真黒な人形に見えているだろう。


忘れ去られることに、師はシティを案じたが。

隣を歩く弟子はからからと面白そうに笑っていた。


「『この汚い孤児め』って見てた奴らが、ギョッとするの。『魔女の手下だー!』って。いい気味よ」

全く気にしてなさそうだ。

これはこれで、逆に問題かもしれない。


「忘れられるからといって、人との繋がりをなくしてはいけないよ」

困ったように眉を寄せる師匠の顔を見て、シティはコトンと首を傾げた。


その意図を尋ねようとして――


「偉大なる魔女さまだ。皆、道を開けるように!」

快活な大声に、人混みが二手に分かれた。

その開けた向こうに、声の主たる海兵服の大男。


「やめな、タタン。住民に迷惑だよ」

買い物袋を抱えた人々が足を止め、様子を窺っている。

露骨に嫌そうな顔のゾゾアが嗜めるも、大男は気にしない。


「いやいや、この国を守る魔女さまに。港町の皆は感謝しているんだ。当然のこと」


「そうだそうだ」「魔女さまいつもありがとう!」「ババア最高!」


周囲から同調する野次が飛ぶ。


「ああ、どうも。五月蝿いったらありゃしない」

煩わしそうに足を速めたゾゾアは、大男の腕を掴む。

反対の手でシティの手を握ると、大きく一歩、上へ飛んだ。


ふわりと空に浮き上がる3人。

そのまま宙をどんどん進み、傾斜の強いレンガ道を見下ろしながら、灯台が臨む海岸へと移動した。


音もなく桟橋に降り立った3人。


「で、タタン。急用かい?」

ゾゾアに睨まれ、タタンと呼ばれた大男は降参というように両手を上げた。

日に焼けて、よく鍛えられた体つき。

その身に纏う海兵服に、勲章がいくつも輝いている。


「用事もそうだけど、ほら」

差し出したのはワインボトル。


「好きだろう。一杯どうだい?」

無言で桟橋に腰掛けるゾゾア。

彼女が術で作り出した氷のグラスが、了承の答えだろう。


「どうぞ。レディ」

タタンは琥珀色の液体をグラスに注ぐと、丁重な手つきで手渡した。


「シティ! 元気だったか? また大きくなったな!」

向き直ったタタンは嬉しそうに両手を広げ、シティを抱き上げた。


「おじさん、私が分かるの?」

一瞬キョトンとするタタン。

ちらりとゾゾアと視線をやり取りした彼は、降ろしたシティと目線を合わせ、優しい声で語りかけた。


「ああ、分かるさ。こんなに素敵なお嬢さん、忘れるわけないだろう?」

嬉しいような、むず痒いような……シティは居心地悪さに視線を逸らした。


シティはタタンが苦手だ。

嫌いじゃないけど、彼がいるとゾゾアが自分だけのものじゃなくなるみたいで。

ほら、今もそこに2人だけの世界がある。

グラスを傾ける音と、潮の香りが、どこか遠くのものに感じられた。


「……海蛇の行動パターンが変わった」

「国王から聞いてるよ。被害はどうだい?」

「おかげさまで、なんとか。それより、俺たちにできることはあるかい?」


海軍で地位あるタタンは、最強ババアとの協力を惜しまない。


(私がいるのに……)


兵も船も動かせて、港町での人望もある。

そんなタタンの協力は欠かせない。

頭では分かっていても、つい嫉妬と対抗心が湧き上がってくる。


「ほら、シティの分。ぶどうジュースだ!」

差し出されたコップに免じて、今日は許してあげよう。


潮風が心地よい。

二人の間に座ったシティは、国防を語る大人たちの話に耳を傾けた。






挿絵(By みてみん)




お読みいただきありがとうございます。


最強ババアが来てると聞いて、タタンは港から走ってきました。

ゾゾアに会うためにいつも走っているタタン。

軍人らしく、疲れは感じさせません。


感想、評価、ブックマークなどいただけると励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ