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14. やがて春がやってくる

『最強ババアのティータイム』“八人の魔女編”、いよいよ最終回です。

ここまでお読みいただいた皆さま、本当にありがとうございます。


本編のあとには、少しだけおまけもございます(週末更新予定)。

それでは、最後までどうぞよろしくお願いいたします。


『お願い。この子たちを解放してあげて――』


全ての解析を終えた時、耳元で知らない少女の声が聞こえた。

ハッと、振り返るが誰もいない。


床に広げた8枚の布が、すっと宙に浮かび上がった。

生きているかのように脈打つ布が、1箇所に集まり、黒い人型を再構成していく。


一瞬、翼のないドラゴンが見えた気がしたが――


「ハチ」


そこにいつもの使い魔が立っていた。


『……』

無言でこちらを見つめる使い魔に、シティは声にならない言葉を感じた。


「うん。分かってるわ」


静かに答えるシティ。


初代最強ババアの真相と悲願。

使い魔たちの成れの果て――蛇たちを、国境に留める術が壊れかけている。


術の決壊が、この国の終わりの時だ。

それまでに、決着をつけなくてはならない。


彼らに――守るために戦い続けてきた使い魔たちに――殺させてはいけないのだ。



◇ ◇ ◇ ◇


春のうららかな空気に包まれ、外のベンチに座るシティ。

彼女はひとり、物思いに耽っていた。


(私はどうすれば――)


蛇たちを解放し、同時に国を敵から守らなければ。


思考はぐるぐる堂々めぐり。


カラ コロン。


久々に釣鐘草が鳴っている。


ヘッドドレスに手をかけた。


(せめて、目の前のことから片付けなくちゃ)

留め金を外そうとし――だが、その指に力が入らない。


こんなことすら踏み出せない、情けない自分が嫌になる。


けれども、今日は伝えよう。

まずは目先の、この中途半端にケリをつける。

きっとそこから、自分の在り方を決めていけるはず。


「ババア! 久しぶりっ!」

ゴシックドレスの老婆を見つけた瞬間、青年が嬉しそうに駆けてきた。


だが、いつになく真剣な色で自分を見つめる青い瞳に気がついたのだろう。

自然とルシニウスの歩みはゆっくりになった。


「シティ――あたしの名前だ」


はっとしたルシニウスは、何度かその名を口のなかで転がすように繰り返した。


「シティ……シティ。シティ!」


「煩い。何度も言わなくても聞こえているよ」


人の口から自分の名が紡がれるのが新鮮で、むず痒い。

照れ隠しのために、シティは早口で言い切った。


「もう来ないかと思ってたよ……これからもあんたが作った菓子が食べたいと思ってたんだけどね」


相変わらずの憎まれ口。

それがシティの精一杯で、ちらりと見やれば青年はフリーズしていた。


(私のバカ! もっとちゃんと言わないと――)


そんなシティの焦りはしかし、歓喜の声に上書きされる。


「良かったさあ……!ババアは――シティは、俺なんて、必要じゃないかと思って」


迷ったんだけど、と差し出されたのは一枚の名刺。


『ルシニウスの写真工房

 〜笑顔の魔法をお届けします』


出版社の内定を辞退し、フリーの写真家を始めるそうだ。


「これで、シティの側で仕事ができるんさ」


手元の小さな紙片をそっと指でなぞる。

――住所地は、魔女の小屋。


勝手にここを事務所にしようとしていたのか。

既に顧客も何人かついているそうで、ちゃっかり最強ババアの写真を新聞社に提供してきた知名度も活かしている。


その強かさに呆れるも、シティの心は穏やかだった。


「それじゃあシティ。お茶はどうする?」


弾んだ声で台所へ向かうルシニウス。

すぐに小屋の中は、爽やかな甘い香りで満たされる。

この春1番に採れた茶葉、"ファーストフラッシュ"だ。


お茶を楽しみながら、シティは窓の外を眺める。

桜の蕾が色づき始めた。

そろそろ外でティータイムを過ごすのも良さそうだ。



これからどうするかはまだ分からない。

けれど、このティータイムがあれば。



(私はきっと頑張れる)




挿絵(By みてみん)



最後までお読みいただき、ありがとうございました。

これにて『最強ババアのティータイム』――“八人の魔女編”は幕を下ろします。


感想・ブックマーク・評価など、ひとつひとつが物語を最後まで続ける大きな励みとなりました。

本当にありがとうございました。



---


【今後のお知らせ】


先日より公開を開始したスピンオフ短編集

**『最強ババアのオフタイム〜魔女たちの日常譚』**では、

本編で登場した歴代の魔女たちの、少し不思議で穏やかな日常を描いています。


「もう少し彼女たちとティータイムを過ごしたい」

――そんな風に思ってくださった方は、ぜひ遊びに来てくださいね。


個人的に思い入れのあるビビアンやタタン、

そしてあまり触れられなかった六代目やドラゴン・イチたちも登場します。



---


また、少し先にはなりますが、

**『最強ババアのティータイム〜新たな弟子編』**の執筆も進めています。


本編で残された“使い魔問題”、

おしかけ弟子カサブランカ、

そしてシティとルシニウスの行く末は――?


この次作をもって、『最強ババア』の物語はついに完結を迎える予定です。



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改めまして、ここまでお付き合いいただき、本当にありがとうございました。

本作が、皆さまのティータイムにほんの少しでも安らぎを添えることができたなら幸いです。

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― 新着の感想 ―
完結、おめでとう御座います。 これは一気に読みたい!と思い、完結まで待っておりました。 タイトルで惹かれたものの、中身の文の丁寧さ、なにより私では思いつかないであろう設定やキャラクター達が大好きです…
まずは完結お疲れ様でした! ルシニウス君のちょこっとちゃっかりしている部分、頼もしくて良いなと思いました。これなら毎日一緒に居られる! シティの本当の姿をいつ見ることになるのかなとか、使い魔たちのこと…
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