13. 初代・最強ババアの真実
「世界を我が手中に」
国王は術師に命じた。
臆病で優しい術師は苦しんだ。
少女は国を守りたかっただけだ。
無闇に人を傷つけたいわけではない。
それなのに――
***
「……どうして」
棺に横たわる師は相変わらず美しかった。
手入れされた緋色の髪。
愛用のルージュが塗られた唇は、今にも動き出しそうなのに。
『殺戮? いやいや、そなたは力を誇示するだけで良いのだ。それで不必要な戦いも避けられる』
『圧政? いやいや、そなたも言うようになったな。必要なのだよ、舐められれば直ぐに暴動を起こしかねん。隣国とは言え、そなたも死人が出るのは避けたいだろう?』
停止した頭の中を、強欲な王の言葉が駆け巡る。
千の使い魔をもってして、周辺国との戦いに勝利した小国は。
その武力をもって、隣国に圧政を敷いた。
圧倒的な武力の前に、目に見える反乱は生じなかったが――
「難民に扮した敵国の刺客です」
棺の前で涙ぐむのは、ビビアンの同僚だ。
「国王陛下を庇い、なおかつ陛下が受けた毒を肩代わりしたそうで……」
守れなかった。
最も守りたかった人を、守れなかった。
***
彼女は苦渋の決断を下した。
愛する使い魔たちに、"悪役"を命じたのだ。
恐ろしい蛇の魔物の姿をまとった使い魔たちは、国境線に住み着いた。
人が近づけば、誰彼構わず襲いかかる。
***
「分かっておるぞ! そなた、なんのつもりだ!」
激昂する王を前に。
「私は……あたくしは、国民を誰にも殺させない」
語気を強めた術師の少女に、王は気圧された。
(こやつめ……臆病で吃りの小娘が、雰囲気が変わっただと!?)
「あたくしは、この国の人に、誰も殺させない」
俯きがちだった少女が、今は真っ直ぐ背筋を伸ばし、王をはっきり睨みつけた。
ポケットから取り出した口紅で、すっと唇に朱を引いた彼女は宣言した。
「あたくしは、大切な人が愛した国を守ります」
その声が合図だった。
轟音に包まれた城。
慌てて窓に駆け寄った王は、目撃した。
木が、森が、山が動き出す様を――
***
こうして小国の人々は外界から切り離された。
けれど、外国からの侵略におびえる必要もなくなった。
「蛇が出たぞ!」
逃げる人々の前に現れる術師。
「術師様が助けに来てくれた!」
「術師様、ありがとうございます!」
子飼いの使い魔との茶番劇。
けれどもそれとは知らぬ人々は、彼女に感謝した。
嘘は彼女を苛んだが、周辺国は相変わらず乱戦の世だ。
(この子たちには悪いけど……いつか、本当の平和がくるまで)
恩師の名が刻まれた石碑の前で。
蛇の姿になった使い魔たちを、彼女はそっと撫でてやる。
彼が愛した国を、私は守り続けよう。
やがて彼女は年を重ね、"最強ババア"と呼ばれるようになるのだった――
お読みいただき、ありがとうございました。
物語は残り1話で完結となります。
最終回は、金曜の夜に公開予定です。
***
あまりに短い出番だった師匠ビビアン……
けれども、どうかご安心ください。
◆予告◆
『最強ババアのオフタイム〜魔女たちの日常譚』
本編スピンオフの短編集を、明日より公開いたします。
第1話は、リオランとビビアン――
少し不器用な師弟の、ささやかで温かな日常回です。
感情表現が苦手なリオランが、ほんの少しだけ“甘さ”を見せます。
どうぞ、こちらもお楽しみください。




