VSカルキノス第三憲兵隊⑤
カランが駆けた、と同時にエリスも雷の球体を射出する。二発、さらに三発と時間差で発射するものの、彼女は軽やかに避けてみせる。
しかし避けた先にはカランの大剣が待っている。
下から上への斬り上げ。彼女の体の芯を捉えたその攻撃を、またも彼女は受け流し、回転に繋げる。
これは先ほども見た光景だ。同様の流れならばここから彼女は攻撃に転ずる。
「それは――」
想定していた通り、彼女は回転しながらの攻撃に移行。それをカランは大剣の腹で受けきった。
「読んでたよ!」
「な――っ」
彼は大剣をその身で勢いよく押し、彼女の体を宙に弾き飛ばす。
「そこ――っ」
彼女の体は空中に投げ出されている。前回との違いは、力の掛かっている方向だ。今回は、上空に向かって飛んでいる。
これならば黒い短剣による咄嗟の回避も意味を成さない。
「光輝微睡む白日の明滅!」
照準は宙に浮かぶ彼女に定め、詠唱を唱える。魔力が巡り、魔術が起動する。
刹那、彼女は宙で身構えを変えた。エリスに背を向け、体を丸めたかと思ったその瞬間、薄紫の輝きが侵入者の体を包み込む。
轟音。空気が裂ける音が響き、周囲に紫電が散って消える。
『――命中です!』
『――よくやった!』
今度こそ魔術の範囲に入ってくれた。背を向けているため、そのダメージのほどは見えないものの、エリスが放てる最大出力の魔術を受けたのだ。しばらくは自由に動けないはずだ。
魔術を受けて彼女の体放物線を描いて落下。
そのまま受け身も取れずに地面に叩きつけられる、と。エリスもカランもそう思っていた。
しかし――
「え――、どうして……!?」
彼女はくるりと地面に着く直前でその身をよじり、その二本の足で地面に着地してみせた。
威力は、石造りの城の壁や床を破壊するほどだ。生身で受ければタダでは済まないはずだった。
しかし彼女はしっかりと未だ立ったままで、崩れる様子は見せない。
魔術はきちんと命中した。威力も抑えていない。にもかかわらず彼女が意にも介していないことに、エリスは動揺を隠せなかった。
『――気にするな、エリスちゃん』
『――……でもっ』
『――エリスちゃんが未熟だった結果じゃない。相手がこっちのまだ知らない手札を持っていただけだよ。空中での不自然な身構えは、君も見ただろう?』
彼女は魔術に当たる直前、その背を向けて、体を丸めていた。初めこそダメージをできるだけ減らそうという苦肉の策かと思ったが、別の意図があったのかもしれなかった。
『――例えば、侵入者が纏っている外套。あれに何か秘密があるとかかもしれない』
『――魔術によるダメージを消す魔道具、でしょうか。それなら先ほどまで必死に避けていた理由にはなりませんけど……』
『――そこまで万能じゃないんだろう。相手も無敵ってわけじゃない。少しずつ、タネを暴いていこう』
彼はそう言って、いつものようにエリスの反対側に立つ。自然と、侵入者を挟む形になった。
相手が魔術師ではない場合はこの布陣を敷いている。基本的に近距離戦を仕掛けて、それを魔術によって援護をする。相手が魔術を使用する場合は一転、近距離武器を持つ人間がエリスの援護に回る。それはエリスの対魔術を活かすためだった。
だが目の前にいる相手は、前者。
それならば、カランが動きやすいように最大限の援護をしよう。
エリスはもう一度、杖を構え直した。
と、不意に空が赤く染まった。同時に轟く、空気が弾ける音。見れば、紅い花火が一つ、夜空に放たれたようだった。
(花火の時間にはまだ早いはず……)
時計を見る暇もないが、花火が上がる時には街中の灯りが一斉に消える。それは、サグザマナス城も例外ではなかった。今はまだ城内の灯りは煌々と灯っているので、まだその時間ではないと判断できる。
それに、花火が上がった位置も近すぎた。本来ならば、湖の西側に専属の魔術師が控えていて、湖上でそれは打ち上がる。
『――カラン隊長。これは……』
『――ああ。恐らく、というかほぼ確実にこいつの仲間が上げた花火だろうね。何の意味があるのかは知らないけど』
『――作戦成功。あるいは失敗か……。何かの合図だと思いますが』
『――どっちにしろ、侵入者を捕まえて吐かせればいい』
『――そうですね』
改めて侵入者を警戒しながら、その背後を取り続ける。常に死角にいることで、相手の意識も多少はブレさせることができる。
二対一をする時は必ずと言っていいほどこの態勢を取っていた。
『――行くよ!』
『――はい!』
カランが動き出そうとした、その時――
突如、視界が暗転する。
光一つなく、ただあるのは風の音か何者かの、僅かに鳴る物音のみ。
(これは――)
いきなり訪れた暗闇に思考が霧散しそうになるものの、しかしすぐに答えに辿り着く。
(七時ちょうどの消灯。彼女はこれを待っていたの……? ――でも)
答えを導き出すのとほぼ同時に、エリスは詠唱を既に始めていた。
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