64 袂(たもと)を分かつ
〇まえの回のあらすじです。
『妖精の少女【ミズウ】が、としよりの小人【ドージ】と、壮年の男【イツキ】とはなしをする』
「エアル、フィーロ、メノー……。そのほかにも、ここに住んどった何人ものアールヴが、ある日にんげんたちに連れていかれてな」
たっぷりとたくわえたアゴひげの奥で、ドージはもごもごと教えた。
「どこに?」
ミズウは無邪気にたずねる。
かこん。
またマキを割る音がした。
「人間界にだよ」
オノをいったん止めて、イツキがそれで話は終わりと言いたげに切りかえす。
しかしミズウは知らないものにありがちな好奇心をひらめかせて、イツキとドージのふたりに訊いた。
「どうして」
「売りさばくためじゃよ」
ドージが答えた。
イツキは無言で、マキを割ることに意識をかたむけようとする。
「ミズウ、もともと妖精の世界は、ひらけていたのは知っているな。人間たちも、わしらの里に住んでいるものもいた。しかしどういうことか、やつらのなかに人買いや女衒を手引きするものがあらわれての。これがわしらとやつらのたもとを分かつ、決定的なできごとなった」
「エルフなんて買ってどうするの」
「見せもの小屋に閉じこめて笑いものにしたり、色欲にまみれたものたちのなぐさみものにしとったよ。わしがまだ若いころ、下界に諜報へ出て見てきたかぎりでは、じゃが」
ドージはまだ『子供』と呼んでよいミズウのために、かなり真相をまろやかに伝えているな、とイツキは思った。
イツキもまた、過去に族長の命を受けて、人間の所業をひそかにしらべに降りたことがある。
ひとの世で見た同族たちが、その際立つうつくしさのために受けたはずかしめは、男女問わず筆舌に尽くしがたいものだった。
老ホビットの柔弱なもの言いにやきもきしながらも、怒りの熾火をこれ以上燃えあがらせぬよう、イツキはより克明に状況を伝えなおすということをしなかった。
ミズウも、ドージの言いかたで、それとなく察している。
「……どうしてそんなことするの? それって、なにがたのしいの?」
ミズウの問いかけに、ドージはゆるく頭を振った。
「わしにも分からんよ」




