48 布石
〇まえの回のあらすじです。
『ユノが【はじまりの庵】でやすむ』
「どう思う?」
竜の寝所である大きな【樹】からはなれたところに、こぢんまりとした『花壇』がある。
人の世界では見られない薬草や、香辛料を育成しているいわゆる自家菜園も兼ねた畑だ。
これの所有者であるセレンは、さきほど【ハルモニア】と【精霊の巫女】が持ってきた植木鉢から、魔法の花の苗を取りだし植えなおした。
妖精の手は土に触れてよごれていたが、念じるとたちまちのうちに『洗浄』される。
まるで土埃が意志を持ったかのように、手から指先へとあまさずながれ落ちて、ひとかけらもかのじょの白皙にのこさず、地面へと還るのだ。
「どうって?」
セレンに訊かれたパンドラは、ハルモニアたちが可及的すみやかに運んできた桶の水を持ってまえにすすみ出る。
手水を取って魔鳥の少女は石で柵のされた『花畑』に水を撒く。
鳥の翼を背に持つかのじょに、セレンは質問のさきを告げた。
「ユノさまがなぜここに来たのか。よもや観光というわけではないでしょう」
「わたしはなにも聞いてないけど」
「分かってる」
パンドラが、ユノの訪問をセレンに伝えたのは、一週間ほどまえである。そのときには別段、なにかしらかれに意図があって来るのだとは疑っていなかった。せいぜいが「精霊の巫女への思慕のためにおとずれるのだろう」くらいにしか考えていなかったのだ。
(でも違う)
ユノが【霊樹の里】に足をはこんだのには、ほかに理由がある。
【善の神】たるハルモニアへの好奇心か。あるいはそれさえも、べつの目的のための「布石」でしかないのか。
「……ときどき、取りとめもないことを考えるよね。セレンは」
「かもね」
「ユノさんがなにを企んでると思うの?」
「……」
水を浴びて、囲いのなかの花々は色彩ゆたかな花弁に珠のような雫を載せていた。
「真偽はどうあれ」
セレンは回答をはぐらかす。
「わたしはかれに脅威を感じることがある……ごく偶に、だけれど」




