46 はじまりの庵(いおり)
〇まえの回のあらすじです。
『メルクリウスにおける人間について、ユノが理解する』
〇
さあっ。
風が吹いて木の葉が舞った。人界では秋のただなかだったが、ここにそよぐ空気は春のぬくもりが色濃い。
花の香気をふくんだやわらかい大気のなかに、木漏れ日を浴びて建つ一軒の小屋がある。
東洋風のそのちいさなたてものは、仙人でも住んでいようかというふとい円筒型に笠状の屋根をのせたつくりだった。
中華風なたたずまいであるのもさることながら、ユノはそのサイズにもおどろいた。
(ちいさい……)
標準的な成人のからだでは、くぐらなければはいれない、という意味ではなく。
ユノの知る『竜』は、かつて対峙した黒い竜・魔王【ディアボロス】だが、かれのヘビ状の体躯はかまくびをもたげれば見上げんばかり。ゆうに三メートルはあろうかというながさだった。
しかしこの小屋は、ユノの感覚でいうと日本の平屋建てくらいのたかさしかない。
「ここが【はじまりの庵】よ」
引き戸をあけて、リリコは東洋づくりの小屋のなかを日光にさらす。
さっ、と樹冠のすきまからすべりこんだ幾条もの陽光が内装を照らす。
瀝青の床に土間。ベッドと食事用のテーブルがてきとうな間隔を置いて、ほこりのキラキラ舞うなかにたたずんでいる。




