43 気づかいの欠片
〇まえの回のあらすじです。
『ユノがリリコとふたりきりになる』
〇
里を出ると、ただただ緑の世界がひろがっている。
木も草も、こころなしか空気までが新緑の色に満ちたような、植物だらけの領域。
青くさいにおいに、けれど不快さはなく、「メルクリウスって、人間界も妖精の世界も森が多いよなあ」と月並みな感想をユノは持つ。
いつのまにやら、リリコを見失いかける。
あわてて右へ左へとユノは視線をめぐらせた。大きな古木のさきに妖精の少女のうしろすがたを認め、駆け寄っていく。
ざっ、ざっ、ざっ、ざっ……。
(……)
ざっ、ざっ、ざっ、ざっ。
(…………)
リリコとユノの足音だけが森の道に鳴っていた。
(…………くっ。なんか、重苦しい……)
延々とつづく沈黙に耐えられず、ユノはリリコの肩ごしに声をかけた。
「あの、【はじまりの庵】って、どんなとこなのかな」
「ふつうのお座敷」
「ざしき?」
「黄金の竜がはじめて誕生した場所っていわれてるわ」
まえだけを見据えてリリコは言った。
かのじょが敬語をつかうのは、竜や巫女のような高貴なものたちだけであり、ユノには気づかいのかけらもみせない。
「『はじめての』って、一代目の神さまってこと?」
「そう」
現在の神、金の竜であるハルモニアは、何代もあとの世代の現人神である。人ではないが。
善の神である金の竜は、崩御するなり人間の王家のなかにかならずつぎの器が生まれ変わるようにできている。
リリコが鼻でわらったのが気配でわかった。
光の妖精は、もうこういう性分なのだとユノは思う。
「そんなことも知らなかったの?」
このリリコのよけいな一言には、ユノもちょっとむっとした。
「だってさ、ボクはもともとこの世界の人じゃないんだよ? しょうがないじゃないか。まだこっちに来て一年しかたってないんだもの」
「一年も。よ」
三六〇日(メルクリウスでの一年間の日数)もあって、なにを学んできたんだと言わんばかりのリリコの返事。
かのじょは歩く足の速さを決してゆるめずに、ユノに世界のなりたちをはなしだした。




