39 ふむ
〇まえの回のあらすじです。
『ユノが妖精から総すかんくらってるってはなし』
リリコは目があうとユノからふいっと顔をそむけた。
族長のセレンが地球からまねいたものらしが、知るものか。
リリコは十四ほどの少女で、光の妖精に属するうつくしいむすめである。セミロングの髪は黄緑で、ほそい手脚に同世代の女の子とくらべれば長身のからだには森や野のけものから採った毛皮や綿花からつくったシャツと半裁のパンツをつけていた。
霊樹の樹からは、ユノという剣士のほかに、精霊の巫女と魔鳥の子どもも出て来る。族長と神なる竜も。
かのじょたちはそれぞれの作業にかかるようだった。族長のセレンは手にしていた花の苗をどこかに植えなおすのだろう。里のはずれに行くようで、パンドラはそのお手伝い。フローラは妹をつれてそのへんをぶらぶらするつもりだろう。
いい気なものである。
「ふぎゃあー」
地上から二メートルほどの高みに築いた木の住居からおりるリリコに、竜のハルモニアが声をかけた。ぱたぱたちっちゃなつばさをうごかして空中をおよいでくる。
「ごきげんよう。ハルモニアさま」
はしごから地上に着地するなりヒザを折ってリリコはあたまをさげた。ハルモニアを追いかけやってきた巫女にも、かるく会釈をする。
「いろいろ訊いてわるかったわね、リリコ。ハルのこと」
「いえ……」
精霊とゆかりの強い存在だとはいえ、フローラ・エル・ペンドラゴンの本質は人間という肉体の側にある。
リリコは可能なかぎり目をあわさぬよう、そして親密にならぬよう取りはからった。
「これからごはん?」
フローラの問いにリリコは首をよこに振った。食事はさきほどすませ、これから武器庫に狩りの道具を取りにいこうかというところだ。
「もしひまならさ、ユノを宿までつれてってやってよ。すこしのあいだ滞在するみたいでね。住居を貸してやることにしたんだって」
「ええ……。わたしが、ですか?」
露骨にカオをしかめてリリコはうめいた。
(巫女さまがやればいいじゃない。おなじ人間同士なわけだし)
心を読んだわけではなかろうが――。
「わたしとハルはいまからペナルティ受けなきゃなのよ。セレンをあざむこうとしたのがいけなかったみたいでね。生活水を汲んだり畑の世話したりで、めんどうみれないの」
証拠とばかりにフローラはふたつの桶をかかげてみせた。
「あなたの失態のツケを、わたしがはらわされるっていうことでしょうか」
「埋めあわせはするわよ。もちろん、どうしてもイヤだっていうなら、むりにとは言わないし」
リリコは、ふむ。と自分のあごに手をあてた。
(……。対価があるっていうなら、そうわるいはなしでもなさそうね。この際だから、ちょっとふっかけてみようかしら)
リリコは巫女のはなしにのっかった。




