32 人ならざる者
〇前回のあらすじです。
『フローラとパンドラが、【霊樹の苗】がつぶれたことをさとる』
「うーん」とフローラとパンドラはこまり顔をしていた。
【霊樹の苗】の損失について、「どうしたものか」となやんでいるのだ。
はなしの腰を折るとは知りつつも、ユノはふたりに気になっていたことを訊く。
「ねえ。フローラとパンドラは、ここになにをしにきたの?」
「ハルをさがしにきたのよ。苗のことももちろんあるんだけど、この子三日も帰ってこなかったんだもの」
とフローラ。
「もっとも、三日の不在もいまとなっちゃあ、うしろめたかったからって分かったけどね」
肩をすくめていうのは、パンドラのほうである。
「霊樹の苗って、そんなにたいせつなものなの?」
ユノはふたりの少女に訊いた。
フローラの腕から、金の竜がのがれようとみじかい脚をじたじた動かしている。
じとっとフローラの眼が妹を見おろした。
「とりあえず、【里】のほうに帰りましょうか。ユノも来なさいよ。パンドラからはなしは聞いてるわよ」
「うん」
数日まえに、ユノはパンドラと行動をともにしていた。そのときに彼女には【妖精】たちの住む場所――【霊樹の里】へ行くという旨を伝えていたのだ。
パンドラは、人ならざる者のみが通れる【転移のひずみ】――【サラマンデル】たちが通ったのとおなじ裂け目だ――をつかって世界をまたいだため、べつルートを余儀なくされたユノとは、大きな時間の差が生じてしまった。
ユノが霊樹の里へ行きたかったのは、人間の世界の『神』と謳われる【金の竜】と会いたかったからだった。それが達成されたいま、目的は果たされたように思われた。




