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ルーリアと竜呪と蜂蜜  作者: 珀尾
第15章・闇と冬の訪れ
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第285話・魔族領について


 神兵招集によりガインたちが神殿へと向かい、ひと月ほどが過ぎた頃。


 室内設定を野外並みに広げた薬学学科の研究室で、クレイドルはセルギウスと実戦さながらの手合わせをしていた。

 魔法を覚えるついでに身体も鍛えているそうだが、その様子は理部の授業風景というより軍部の戦闘訓練のようである。


 魔力が足りない時は魔法が発動しないようになる魔術具をセルギウスが作ってきてからは、その教育ぶりが加速している。

 魔力枯渇の心配がなくなったセルギウスの教え方は、去年の冬、ルーリアに魔法を教え込んだ時のエルシアによく似ていた。容赦ない。


 セルギウスが言うには、クレイドルは辛い訓練にも決して弱音を吐かず、真剣に努力しようとするから教え甲斐があるらしい。

 最近はクレイドルの動きがセルギウスと重なって見えるようになってきた。洗練され、無駄がなくなってきたのだと思う。



 ──カサ……


 遠くで二人が訓練しているのを背景に、ルーリアは本のページをめくる。

 本は理部の図書館から借りてきた物で、魔族領や魔族について書いてある。


 家にある本にも少しだけ魔族のことは載っているが、大昔にあった人族と魔族の大きな争いを英雄譚のように書き連ねた物語となっていて、知識としてはあまり役に立たない。

 過去の勇者たちがこれでもかと美化され、必ずと言っていいほど魔族側が悪として描かれている。

 幼い頃のルーリアはその物語が好きで、何度も読み返しては外の世界の冒険に思いを馳せていたが、今になって冷静に見てみれば、人族が自分たちにとって都合良く改ざんした作り話がほとんどだった。


 そんな本からしか知識が得られなかったため、クレイドルのことを知るまでは、魔族はみんな悪いものだとルーリアは思い込んでいた。

 好き放題に暴れ、物を奪い、人を苦しめる。

 それが魔族なのだと。正直に言ってしまえば、魔族と魔物を混同していたところもある。


 だが、理部の図書館にあった本は家にあった本とは違った。

 魔族領に住む者たちの暮らしぶりや習慣など、現実的な話が載っているのだ。


 魔族領。正式な国名は、ヴィルデスドール。

 首都は魔王の治める、キルヒライズ。

 魔族領には大小様々な領地が12あり、キルヒライズは一番大きな領地だそうだ。人口も一番多い。

 魔王は国王のようなもので、各領地にいる領主をまとめ、統治する立場にあるらしい。


 首都を除く11の領地は大きい領地順に並べると、幻獣族のラロッシュ、吸血族のクヴェイア、夢魔族のフィーノマージュ、竜人族のティスフェル、獣人族のリオファドナー、獣人族のソーレライツ、小竜族と飛竜族のバルテンゼ、魔精霊族のターヴレナート、魔鳥族のフェアロフロー、鬼角族のラベラ厶、魔人族のマルクト、となっている。


 各領地に付いてる種族名は領主の種族だ。

 もちろん他の種族の者たちも住んでいる。

 借りてきた本は古い物だし、魔族領は常に争いが絶えないそうだから、今でもこの通りの種族が治めているかは不明だ。


 リオファドナーとソーレライツはどちらも獣人族が治めているそうだけど、考え方や生き方の違いから仲は悪いらしい。

 マルクトの魔人族について調べてみると、元は人族だった者が魔族に転じた際の、あとから付けられた種族名である、とあった。


 ……人工的に作られた種族ってこと?


 魔人族は他の魔族たちから同族として扱われず、半端な魔族という意味の『半魔』という蔑称で呼ばれることが多いらしい。

 魔人族の特徴としては魔法に長け、姑息な手段を好み、欲深く金銭に目がない、魔族領内で忌み嫌われる部類の種族、とあった。散々な言われようである。


 ……なるほど。クレイドルの故郷の領主は元は人族だったんですね。


 だからクレイドルから人族との距離をあまり感じなかったのか、と納得する。セルギウスだと見知った者以外、人族を警戒して避けているところがある。


 それにしても種族って、そんなに簡単に変えられるものなのだろうか? どうやって魔族になるのだろう?

 残念ながら理部の図書館には、それに関する本や資料はなかった。


 その代わり、ちょっと面白い物を見つけた。

 魔族領に暮らす人々の愚痴などが載っている本だ。


『魔族はなぁ、生まれた時から肉食獣の檻の中なんだよ』が冒頭で、つい過酷な暮らしを想像してしまうが、その中身は単なる失敗談が多かった。単純に面白い。


 簡単にまとめると、楽に生きている人族はいっぺん魔族領に住んでみろ! という感じの文句集だった。

 この本を読めば、魔族も人族とそんなに変わらない暮らしをしていると分かる。


 働いて、お金を稼いで、ご飯を食べて。

 賭け事をして、借金をして、逃げて。

 綺麗な女の人を追いかけて、フラれて。

 気の合う仲間と酒を飲んで、笑って。


 魔族領での仕事は、火の番、水渡し、崖崩し、幻の維持など聞いたこともないような仕事内容もあって、よく分からなかった。

 そしてその本には面白い話だけでなく、信じられないような厳しい話も載っていた。


 魔族領では、誰もが生き残ることを人生で最初の目標にする、と。

 その次が、親に殺されないこと。

 少しでも油断したら死ぬ。下手に信用したら早死にする。隙を見せたら蹂躙される。弱みを見せたら支配される。守ろうとすれば奪われる。強くなければ何も手に入らない。

 そんな言葉がずっと続き、最後にはこんな文章で締め(くく)られていた。


 成長した子に殺されるのは親にとって最大の喜びである。


「…………」


 いくら何でも残酷すぎる。

 ルーリアは思わず、クレイドルとセルギウスに目を向けた。

 二人に聞けば、この本に書いてあることが本当かどうかすぐに分かるけど、確かめるのが怖い。

 もし本当だと言われてしまったら──……。


「姫様、そこに書かれていることは気にされなくても大丈夫ですわ」

「……えっ」


 本を見つめて呆然と固まっていると、見かねたようにフェルドラルが声をかけてきた。


「魔族領に限らず、どこにでもある話です。言い方は様々ですが、どの種族の者にも当てはまる話ですわ」

「わたしにも、ですか?」

「ええ」


 フェルドラルは本の文字を指先でなぞり、ルーリアが見ていたところを読み上げていく。


 誰もが生きることを目標とする。親から叱られないようにした方が良い。調子に乗って油断すれば失敗する。下手に信用すれば痛い目を見る。隙を見せたら足をすくわれる。弱みを見せたら、つけ込まれる。大切なものは隠しておかないと狙われる。強い方が出来ることは増える。子の成長は親の喜び。


「少し言葉を変えましたが、言っていることは同じようなものです」

「……とても同じ言葉には聞こえないんですけど」


 たまにアーシェンが話す外の世界での注意事項を大袈裟にしたものだとフェルドラルは言う。


「その本が書かれたのは、魔族と人族が全面的に争っていた頃のようです。あらゆる面で貧しかった時代ですから、書かれている文字通り、親子で生命のやり取りをすることもあったかも知れません」

「……い、嫌な時代ですね」


 少なくとも、セルギウスから聞いた両親の話は、そんな殺伐としたものではなかった。

 クレイドルだって妹のことを心配しているようだったし、今の魔族領は違うと思いたい。


 ルーリアは別の本を手に取った。

 こっちは魔王について書かれた本のようだ。


「魔族の中で一番魔力のある人が魔王……」


 魔王には力の象徴として邪竜が付き従い、その有り余る魔力を主に与える、とあった。

 魔王は邪竜の力を使い、魔族たちを力ずくで服従させる。魔王が強い力を示すことで魔族領からは無駄な争いが減るそうだ。

 それと、魔王が邪竜の力を領地のために使えば、国土が潤い豊かになるとも書かれていた。


 ……へぇー。これは知りませんでした。


 邪竜は手当り次第にいろんな物を壊し、大勢の人を苦しめるだけの存在だと思っていたのに、魔族側からすれば違うようだ。

 邪竜がいれば魔族領内の争いは減る、という一文を、つい食い入るように見つめてしまう。


 ……魔族領で暮らす人たちのためには邪竜はいた方がいいんですね。


 それから『その代の魔王が在る限り、対となる邪竜は不死となる』とあった。

 これはすごい情報な気がする。

 先に魔王を倒さなければ邪竜を倒せないだなんて、リューズベルトは知っているのだろうか。


 今はリューズベルトと魔王が戦う理由は何もない。けれど、もしどこかで邪竜が誕生して人々を傷つけようと暴れたら、リューズベルトは討伐へ向かうことになるはずだ。


 ……これは教えておいてあげた方がいいかも。


「ルーリアは何を熱心に読んでいるんだ?」

「調合で分からないところでもあったのか?」


 訓練にひと区切りついたらしいクレイドルとセルギウスが側にやって来た。

 調合もしないでずっと本を読んでいたから、二人とも気になっていたらしい。


「魔族領や魔族について書かれた本を読んでいました。さっき初めて知ったんですけど、魔王と一緒にいる邪竜って悪いだけの存在じゃなかったんですね。わたし、ずっと勘違いしていました」

「!?……どういう意味だ?」


 ルーリアの口から邪竜という言葉が出た瞬間、クレイドルは表情を凍りつかせた。

 セルギウスもどことなく険しい目付きとなっている。

 

「いえ、あの、邪竜がいれば魔族領から争いが減るって、この本に書いてあって……」


 何か余計なことを言ってしまったのかと、心の中でびくびくしながら答える。

 すると二人は安心したように息を吐き、肩の力を抜いて表情を緩めた。


「本から得た知識なのは分かった。だが、その話は他の者の前ではしない方がいい」

「どこで誰が何を聞いているか分からないからな。ルーリアが魔族だと疑われたら、いろいろと面倒なことになるぞ」


 これだけ二人が身構えるということは、きっとデリケートな話題なのだろう。確かに邪竜の話は、他種族からは良い顔をされないと思う。


「わ、分かりました。他の人には話さないようにします」


 余所では話題に出さないと約束したけど、それでも二人は複雑そうな顔をしていた。




 その日の帰宅後。


「……えっ、なに、これ?」


 ルーリアが自分の部屋へ荷物を置きに行った直後、異変は起きた。

 眩しくないのに、目の前がキラキラしている。


「…………?」


 周りはちゃんと見えているし、痛くも痒くもない。けれど、目の中に入り込んだ光の粒子が抜け出せずに漂っているような不思議な映像が視界に映る。


 ……もしかして自分の魔力が光って見えているのかな?


 最近の自分の目の変化と言えば、なんと言っても魔力が見えるようになったことだ。

 念のために魔虫の蜂蜜を食べてみたけど、変化はなかった。


「……うーん?」


 嫌な感じはしないし、眠れば元に戻るような気がしなくもない。「まぁ、いっか」と、特に気にせず眠った次の日には、目の前にあったキラキラはすっかり消え失せていた。



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