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ルーリアと竜呪と蜂蜜  作者: 珀尾
第14章・魔深き初冬
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閑話10・神殿の後始末―中


 叫び声の聞こえた方へ向け、ガインとエルシアは駆け抜ける。次々と扉や罠を切り捨て、先へ進んだ。


「何だ!?」


 向かう先にある部屋の扉の隙間から、ゴズドゥールたちが姿を消した時と同じような黒いモヤが漏れ出ている。見るからに怪しい。


眩き光をまとい輝け(フィース・オ・ライテ)


 エルシアは自分たちの周りに光魔法をまとわせ、ガインは扉を切り捨てる。扉が切り開かれると黒いモヤは黒焔へと変わり、視界の隅々まで広がっていった。


 天井が高く広い部屋のようだが、暗くて全貌が分からない。黒焔が揺らめく薄暗い中に、ぼぅっと青白いゴズドゥールの顔が浮かび上がった。

 その顔は無表情で目は虚ろだ。

 ガインたちが部屋に飛び込んできたというのに全く反応がない。


「……あ、あ゛……ぁ、あ゛ぁ~……」


 ガリッ、ゴリッという骨を削るような音と、野生の獣が生きながらに捕食される時に出す声のような音が、真っ暗なゴズドゥールの足元辺りから聞こえてくる。


視覚強化(ファウス・クルス)


 エルシアが視力強化の魔法を掛けた直後、ガインはかすかに息を呑んだ。エルシアも言葉を失う。


 そこにあったのは、繋ぎ合わせればベリストテジアの形になると思われる肉片。

 手足や顔、首、胴体などがバラバラなのに、それが生きていると分かる。離れ離れになった肉片の隙間を埋めるように闇が(うごめ)き、少しずつ削るようにベリストテジアを侵食しているように見える。


「……これ、は……」


 その闇はゴズドゥールの身体へ繋がっているようで、無いはずの足首を形作り、ゴズドゥールを立たせている。

 ベリストテジアの身体の欠片が闇の中へ消える度、ゴズドゥールから発せられる禍々しい気が膨れ上がっていくように感じられた。


「……自分に足りなければ他で補えば良いと言ったのは母上です。母上の言う通りにしていれば間違いないのですよね? ねぇ、母上?」


 独り言のようにブツブツと呟くゴズドゥールの声が聞こえてくる。その視点は定まらず、どこを見ているのか分からない。

 しかし、ゴズドゥールが両腕を広げると、周りにあった黒焔は意思を持ったようにガインたちに襲いかかってきた。


 その瞬間、ガインとエルシアは弾かれるように攻撃態勢へと移る。生き物としての本能が、ゴズドゥールを倒さなければ危険だと訴えてくる。


裂風の刃にて切り刻めシュライズ・サン・レイス!』


 水魔法をまとわせた剣でガインが黒焔を打ち払う中、エルシアが放った風魔法は弾かれた。

 どうやらゴズドゥール自身は魔法攻撃に耐性があるようだ。


「エルシア!」


 見えない攻撃の気配を感じ、感覚だけでガインはエルシアを抱きかかえて飛び退く。

 すると、ルーリアに着けてもらった首飾りから反撃が飛び、同時に髪飾りからも何かがゴズドゥールへ向かって飛んで行った。


「ぎゃあぁあぁぁあぁ~~~ッ!!」


 殺気立つゴズドゥールの身体に無数の穴が空き、そこから黒い油のような液体がねっとりと流れ落ちる。見る見る内に、ゴズドゥールの身体は人の型を崩し、手足が黒い触手のような形状となって(うごめ)き出した。もはや人には見えない。


「これは神様に与えられた眼の影響でしょうか?」

「分からん」


 おぞましい姿となったゴズドゥールは回復魔法を唱え、急速に傷口を癒していく。足元にあったベリストテジアの欠片は跡形もなく消え失せていた。


「今になって回復魔法を覚えたのか。さっきのヤツの言葉を聞く限り、ベリストテジアの能力を吸収したとしか思えん」

「ミンシェッド家に、このような異形となる術は伝わっていません。恐らく他種族の者が関わっているのだと思います」


 奇声を上げて(わら)う今のゴズドゥールは、まともな精神構造をしているようには見えない。

 黒幕がいるか調べる必要はあるが、この状態で記憶を覗くのは難しいだろうとエルシアは言った。


「エェエ、エルシアァアァァ──ッ! わたしという者が在りながらァ、そのような下等な獣とぉおぉおぉ──ッ!!」


 ガインとエルシアの寄り添う姿に血走った目を剥き、ゴズドゥールは唾を飛ばして喚き散らす。

 槍のような黒い触手をいくつも伸ばし、ガインたちの頭上から串刺しにしようと攻撃してきた。


「ききき、貴様らァアッ! 許さん、許さん、許さんん──ッ! そろってなぶり殺しにしてくれる!!」


 そう叫びながら、ゴズドゥールは何かを突き出すようにこちらへ向ける。手の平ほどの大きさの水色の輪に、同じような輪が三つ通された拘束の魔術具。ハープスローの輪だ。


「っ!」


 ガインは即座にエルシアを自分の背に庇い、前面に立った。キン、と硬質な音が響き、腕に着けたクラヴィスの腕輪からハープスローの輪の効力を掻き消す魔法陣が浮き出る。


「!?」


 一瞬の出来事だったが、ガインは予想外の結果に呆気に取られた。

 今回の戦いで一番厄介なのはハープスローの輪の存在だ。ゴズドゥールが使ってくることは予想していたが、まさかルーリアの作った魔術具が効果を打ち消すとは考えていなかった。


 ハープスローの輪は拘束された後で神官に外してもらう以外、対応策はないと聞いている。

 だから、わざと拘束を受けてエルシアに外してもらい、魔術具を回収しようと考えていたのだが、目論見(もくろみ)が外れてしまった。


 ──あれを何度も使われたらまずいな。


 仮にエルシアが拘束された場合、どの範囲まで魔法や魔力が無効化されてしまうか分からず危険だ。

 この屋敷に張った結界が消え、下手をすれば、ルーリアのいる隠し森にまで影響が及ぶかも知れない。それだけは何としても阻止しなければ。


 一度クラヴィスの腕輪を外すべきかガインが迷っていると、ゴズドゥールは思わぬ行動に出る。


「キエェェイッ! 何が最強の拘束具か、このガラクタがッ! 壊れておるではないかッ!!」


 なんと、ハープスローの輪を不良品と罵り、床に叩きつけたのである。透かさずエルシアは風魔法で魔術具を回収した。


「……本気の馬鹿で助かったな」

「……えぇ」


 切り札とも言える魔術具を自らの手で捨てるとは、愚かとしか言いようがない。これでゴズドゥールを拘束できれば、この屋敷での戦闘は終了したも同然だ。


「拘束を反射する可能性もあるから俺がやる」


 だが、ガインがハープスローの輪をゴズドゥールへ向けても何も起こらない。


「本当に壊れたのかも知れないな」

「いいえ、そんなはずは……」


 神殿の魔術具は簡単に壊せないから厄介なのだ。反応がないとしたら、その原因は相手にある。

 そこでエルシアはハッとして、神から渡された神敵のリストを取り出した。


「……まさか、そんな!?」

「どうした?」


 覗き込んだリストにあるのは3名のエルフの名前のみ。屋敷に突入する前にはあったベリストテジアとゴズドゥールの名が消えている。


「どういうことだ?」

「……ベリストテジアもゴズドゥールも、すでに死んでいるということです」

「何だと!?」

「私にも信じられませんが事実です。それより、この屋敷に張った結界で死者を足止め出来るか分かりません」


 もしかしたらゴズドゥールがイエッツェのような存在になっているかも知れないと言い、エルシアは焦りを顔に表す。

 怒りをぶつける相手を急に失ったガインは呆気に取られたが、すぐに思考を切り替えた。

 幸い、今の神殿界からは何者であっても転移して逃れることは出来ない。こんなヤツが殺しても死なないなど冗談ではないが、絶対に外へ逃がす訳にはいかないと、ガインは決意を新たにした。


「神に与えられた眼で見えているということは、まだ神敵であるということだろう?」

「え、えぇ。恐らく」


 ゴズドゥールの様子は、他の神敵を目に映した時と同じだ。死の女神ネルカジロフの口付けは、まだ有効だということだろう。


「ならば狩るまでだ。何かないのか? 死体から魂を抜くとか、消滅させるとか」

「無茶を言わないでください。いくら神官でも人の魂に触れることは不可能です」

「直接は、だろ? 魔法ならどうだ?」


 ガインは先ほど見た光魔法を剣にまとわせ、ゴズドゥールに斬りかかった。


「……む」


 斬れない訳ではないが、黒い触手を薙ぎ払っても、影を相手にしているように手応えなく霧散してしまう。それより光魔法を使ったことで触手の闇色が濃くなったように見えた。


「今のは……。フェルドラル、お前ならあれの倒し方を知っているんじゃないか?」


 呼びかければ、人型となって現れる。

 真っ白な長い髪をふわりとなびかせ、フェルドラルはエルシアの肩口から離れた。


「あの中身は低級な闇の精霊でしょう。精霊に言葉は通じません。強めの光魔法で目障りな本体もろ共、ひと思いに叩き潰せば良いのでは?」

「そんな虫みたいに言うな。あんなのでも一応神官だ。俺のにわか魔法攻撃が通じるかどうか」

「はっ、あのようなゴミ、一緒にしたら虫に失礼ですわ。いつまでも視界にあるのは不愉快です。手を貸すので、さっさと消し去ってください」


 生半可な光では、逆に闇は濃くなる。

 影すら作る隙を与えず一瞬で決めればいいと、他人事のようにフェルドラルは言ってくれる。


「ガインは前に勇者の極大スキル技を見たのですよね? それを真似れば良いだけではないですか」

「阿呆抜かせ。俺に使える訳あるか」


 ガインとフェルドラルが問答している間、エルシアは光魔法を使い、ゴズドゥールの行動範囲を狭めていく。周囲には光が溢れ、目を細めなければ眩むほどになってきた。


「ガイン、私とフェルドラルでゴズドゥールを闇の精霊ごと抑えます。ガインは光魔法を込めた剣で最大の攻撃を放ってください」

「分かった」


 かつてのオズヴァルトの姿を思い浮かべ、ガインは剣に光魔法をまとわせる。それに合わせ、エルシアとフェルドラルは同時に光魔法を詠唱した。


遥けき光の奔流を(フォルギール・ド・)束ねよ(ライテ)!』

尽きぬ光よ 降り(ネール・フォート・ウ)て空を穿て(ル・ライテ)!』


 まばゆい光の攻撃を受け、すでにボロボロのゴズドゥールに渾身の力を込めたガインの一撃が落ちる。


「はあぁぁぁーッ!!」


 放たれた光の斬撃はゴズドゥールを真っ二つに斬り裂いた。


「ぐ、ぎゃあ゛ぁあぁぁあ゛ぁ~~~……!!」


 光の波は闇ごとゴズドゥールを溶かすように広がり、塵の一つも残さず散って消えた。

 この場に神敵の存在を示すような反応はもうない。


「これで終わり……か?」

「ああいう手合いは、またどこからか湧いてきそうですわね」

「エルシアを不安にさせるようなことを言うのは止めろ」


 あとからエルシアが女神に確認したところ、ベリストテジアとゴズドゥールの魂はちゃんと回収され、生前に他者へ与えた苦痛と同じだけの責め苦を課され、その後、消却処分されたという。


 そしてこの後、残った神敵も全て討伐され、神殿での神兵招集は幕を下ろした。



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