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ルーリアと竜呪と蜂蜜  作者: 珀尾
第14章・魔深き初冬
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閑話10・神殿の後始末―前


 ゴズドゥールが足首だけを残してベリストテジアと共に姿をくらまし、少し経った頃。

 その二人を含め、リストに残された神敵はエルフ5名のみとなっていた。


 神敵が立てこもる屋敷があるミンシェッド家の領地で合流したガインたちは、キースクリフから現状の報告を受ける。

 今はダジェットの指示で各屋敷を騎士たちが包囲し、神官たちが結界を張って外との繋がりを断っている。


「キースクリフ、屋敷の攻略班として隊長以上の経験者から10名を選び、その下に各10名ずつ使える者を割り振れ」

「はっ!」

「ダジェットは残りの騎士を神殿の避難所、各所の見張り、不穏分子の捜索の三班に分け、代表を神官と組ませて随時報告を上げさせてくれ」

「おう!」


 ガインは次々と指示を出し、騎士団の者たちに仕事を命じていく。リューズベルトには避難所の守りを頼み、ダジェットには不穏分子の捜索に加わるよう依頼を出した。

 神敵として処分された者に仕えていた者や、懇意にしていた者たちから不平や不満が全く出ない訳ではない。そういった者たちはダジェットの手により、不穏分子としてまとめて牢へ放り込まれている。


「キースクリフの調べでは、リューズベルトがどこかの屋敷の地下で発見したというヤケドの男は、イエッツェだった可能性が高いという話だ」

「ぼんくら息子のゴズドゥールと組ませておけば、他の団員に被害が出ないと思って放っておいたが、おれが団長を辞める時にイエッツェは殺しておくべきだったか」


 ダジェットが騎士団にイエッツェを残した理由は、他の団員たちがゴズドゥールに振り回されないようにするための、言わばバカ息子避けだったらしい。

 自分が騎士団を辞めた後、うるさく言う者がいなくなったゴズドゥールとイエッツェが増長し、エルシアの教育に厳しかったベリストテジアが自分の息子への教育をここまで放棄するとは思っていなかったそうだ。


「ダジェット、リューズベルトにはイエッツェのことを黙っておいてくれ。自分が逃してしまったとか、変な責任を負ってしまいそうだ」

「おう、分かった。あいつは変なところで繊細だからな。あぁ、それと、ガイン。リューズベルトにはエルフの女を近付けないように気を配ってやれ。放っておいたら寝込みを襲われそうだぞ」

「……は? 寝込み? 何だ、それは?」


 話を聞けば、最近やたらとリューズベルトに言い寄るエルフの女の姿が目につくようになったらしい。


「……あ~」


 原因はすぐに思い浮かんだ。

 先日、リューズベルトが神官たちから軽んじられないように、エルシアが我が子同然であると発言したせいだろう。

 どうにかエルシアと繋がりを持ちたいミンシェッド家の者がリューズベルトを抱き込もうとしているという、頭が痛くなる話だった。


「分かった。リューズベルトはエルシアの屋敷に寝泊まりさせることにしよう」

「ああ、そうしてやれ」


 元々エルシアの屋敷に来るように言っていたのだが、使用人などに身の回りの世話をされるのが苦手だと言って、リューズベルトはあまり寄りつこうとしなかった。

 そこで騎士団の宿舎にも部屋を用意させたのだが、あそこは結界もないし、個室であっても完全な個人部屋とは言えない。伝令が入る前提だから鍵もなく無防備だ。


 ……エルシアにも言っておいた方がいいな。


「団長、班分けが終了しました」

「あぁ、分かった」


 キースクリフが選んだ騎士たちは四班をガインとエルシアに付け、残りはダジェットとキースクリフとリーフェの三人に二班ずつ割り振る。


「まず、ベリストテジアの屋敷に俺とエルシアが向かう。付けられた騎士たちには屋敷の周囲を見張らせ、逃げ出す者がいたら捕らえてもらうつもりだ。そこが終わったら、残りを一箇所ずつ攻める予定でいる。三人は俺たちの到着まで包囲を崩さぬように」

「はっ」

「承知した」

「……えっ、まさか、ガイン様。いえ、団長。皆で一気に攻め落とすのではないのですか?」


 すぐにでも割り当てられた屋敷に攻め入る構えでいたリーフェは肩透かしを食った顔でガインを見つめる。ガインが居並ぶ騎士たちをぐるりと見回すと、他にもリーフェと同じ考えだと分かる目をしている者たちがいた。


「キースクリフ、思った以上に若いな」


 経験が浅いと苦い顔をするガインに、一騎士として取り繕った顔のキースクリフは肩を竦めて見せる。


「はは、これが今の騎士団の現状です。これでも命令に従うだけマシになったんですよ。実戦が初めてのヤツも多いですから」


 まともな意見や経験を持つ熟練者などは、とっくにゴズドゥールやイエッツェに疎まれ排斥されているそうだ。


「話には聞いていたが、ひどいな」


 ガインは金色の目を細め、血気盛んな表情の者たちを見回す。


「リーフェ、今回の神兵招集において最善とは何だ?」

「最善、ですか? それはもちろん、一刻も早い神敵の討伐なのでは?」


 リーフェは答えながら窺うように視線を巡らせる。ダジェットとキースクリフは腕を組み、緩く首を振った。不正解ということだ。


「今回の最善は、こちら側に被害を一切出さないことだ。こちらに地の利があり、相手が隔絶された空間に立てこもっている場合、時間はかかるが、放っておいても勝利は転がり込んでくる」


 相手は神により命乞いも許されていない者たちだ。こっちがそれに合わせて生命を懸ける必要は全くない。こちらから攻めるのは、時間の短縮と自分たちの手で罰を与えるためだ。


「餓死するのを待つのもいいが、相手の蓄えが分からない以上、時間がかかり過ぎる。今回は攻め入るにしても、自分の身を確実に守れる者以外は前線に立つ資格はない」


 馬鹿の一つ覚えのように無謀に突っ込んで無駄死にしたいヤツは別だが、と睨みを利かせると、ごくりと唾を呑む音が聞こえてきた。

 ガインが騎士たちに話を聞かせている間、エルシアはクインハートを始めとする神官たちを呼び集め、この後の流れを説明して指示を出していく。


「クインハートは打ち合わせ通り、トルテと選んだ神官たちを三班に分け、神敵が逃げ込んだ屋敷ごと結界で覆い、逃げ道を塞いで完全に包囲してください」

「かしこまりました」

「……その、大変失礼とは存じますが、エルシア様とガイン様は、本当にお二人だけで神敵の屋敷へ向かわれるおつもりですか?」


 恐る恐るエルシアに声をかけるトルテは、神官長と騎士団長が自ら前線に赴く理由が理解できないといった顔だ。

 せめて盾代わりに自分たちを連れて行って欲しいと訴えるトルテたちの前に、冷やかな笑みを深めたクインハートが立ち塞がった。


「トルテ、エルシア様とガイン様はテイルアーク様よりご指名された神兵です。神敵の討伐に向かわれるのは当然でしょう。エルシア様方と同等の戦力を持つ者であれば、共に前線に立つことも敵うでしょうが、それ以外の者は足でまといにしかなりません」

「……! た、確かに。差し出口を挟んでしまい、申し訳ございませんでした」


 神の介入しない人同士の争いしか知らない者たちには、矢面に立つのは下位の者の役目であるという認識が根強くあるようだ。

 少人数しか選ばれない神兵と神敵の対立は特殊だから、すぐにはその考えに馴染めないのだろう。

 神官に限らず、騎士たちの間でも、自分たちが安全な後方にいて、上に立つ者が直に敵と相対することに戸惑う者は多かった。


 ベリストテジアとゴズドゥールは各々に屋敷を持っている。堅牢なベリストテジアの屋敷に親子で逃げ込んだものと思っていたのだが、そちらはもぬけの殻だったらしい。

 見張りに立てていた騎士からの報告をまとめたキースクリフは、ゴズドゥールの屋敷の方には神敵の気配があるようだ、と神から与えられた眼を向け、表情を硬くしていた。



 割り振られた位置にそれぞれがつく。

 ガインとエルシアは40名の騎士と神官を数人連れ、ゴズドゥールの屋敷の前に立った。


「各員、配置につけ!」

「はっ!」


 騎士たちが屋敷を取り囲むのを確認し、ガインはエルシアに手を差し出す。


「行くぞ、エルシア」

「はい、ガイン」


 そっと乗せられた手を取り、エルシアを引き寄せる。ガインはあらかじめ設置していた魔術具に片足を乗せ、「始めてくれ」とエルシアに声をかけた。

 エルシアが魔術具を起動させると、ガインの魔力が足元へ向かって流れていく。


速度強化(スィン・ア・スール)即死無効(ハーヴェスタルク)攻撃力強化(テイル・ギルス)

 防御力強化(テイル・ガーズィニー)魔法攻撃無効(フルーク・ツェール)癒しの加護ソウクヴァン・スィール

 クリティカル率上昇(アーケイル・ミハ)物理被害軽減ヴォルファイト・ケイス

 状態変化無効(ノゥファイス・ライズ) 状態異常無効(ヴィーラ・ライズ)……』


 エルシアが補助魔法を掛ける中、ゴズドゥールの屋敷の敷地を丸ごと呑み込むように、淡く光る緑色の魔法陣がガインの足元から広がっていった。

 補助魔法を掛け終わったエルシアは、すぐさま結界魔法を唱える。ガインが広げた魔法陣が上空へと浮かび上がり、円柱状の結界が張られた。

 これでベリストテジアとゴズドゥールは、ガインとエルシアを倒さない限り結界の外へは出られない。


「おおぉぉぉ!!」

「さすが団長と神官長!」

「まさか、地と空間の二重結界!?」

「こんな広範囲を一瞬で!?」


 若い騎士や神官たちの反応に、ガインは思わずクッと笑う。隠し森や迷いの森の広さに比べたら、こんな屋敷の敷地など微々たるものだ。


「どうやら騎士だけでなく、神官も経験が足りないみたいだな」

「ええ。伯母……ベリストテジアはゴズドゥールの劣等感を抑えるために、若い神官たちの魔法やスキルの習得を長年にわたって妨害していましたから」


 息子を厳しく育てるのではなく、周りの質を落としていた。そんなベリストテジアの記憶を覗いたエルシアは、不機嫌な顔でキッとゴズドゥールの屋敷を睨む。


「ベリストテジアの屋敷でしたら、罠などへの対応が完璧に出来ましたのに」

「母親の記憶が読まれたからといって、あのバカ息子がとっさに自分の屋敷を戦場に選んだとは思えん。あの様子のおかしさは、何か別の力が働いているようにも見えた。油断はしない方がいいだろう」


 ガインは振り返り、結界の外で待機する騎士と神官に指示を出す。


「時間をかけるつもりはないが、騎士は二人ひと組で交代しつつ周囲を見張れ。神官には結界の維持を任せる。魔術具の魔力残量の確認を怠るな。騎士はキースクリフに、神官はクインハートに随時報告をするように」

「はっ!」

「かしこまりました」


 視線を向けると、エルシアは小さく頷く。

 ガインは腰に()いた剣を抜き、風魔法をまとわせ、大きな斬撃を放った。激しい衝撃波と音を立て、ゴズドゥールの屋敷の門と外壁の一部が破壊され吹き飛ぶ。

 派手な襲撃開始の合図に、騎士や神官たちは唖然とした顔でガインとエルシアを見送った。


 屋敷の敷地に足を踏み入れ、続けざまに扉を切り刻み、赤い焔で焼き払う。ガインが先を進み、エルシアはその後に続いた。

 屋敷の中へ眼を向ければ、薄暗いトンネルの向こうに明かりが見えるように神敵のいる方向が示される。


「この奥だな」

「えぇ……」


 罠などの解除を行いつつ進もうとすると、向かう先、神敵がいると示された方向から、女性の断末魔のような叫び声が聞こえてきた。


「この声は……ベリストテジア!?」



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