限界
私は、この汚い街が嫌いだ。
ある朝、かび臭い布団から目覚め、スマホをポケットに入れ、フードをかぶり、ただまっすぐ、真っ暗な玄関へ向かう。汚い靴に裸足のまま足をツッコミ、日雇いの仕事探し。
・・・労働はキツイ。ただ、低い真っ白で外も外の景色などシャットアウトされ、人がたくさん押し込まれた場所で、延々とパソコンに向かって、やるべきことをただやるだけ。細かい音にも、急な怒号にも耐え、与えられるのはせいぜい簡素な椅子と机と、目の前の箱。そして、申し訳程度に自販機が置いてあるだけ。仕切りなんかない。プライベートなんて言葉も道化だ。休憩なんかしようもんなら、すぐ個室で尋問だ。
これを刑務所と呼ばずなんと言うのだろうか。仕事も終わり、何かよく分からない鬼の視線を感じながら、まるで人ごとのように自分の存在を消し、とっとと帰宅する。
街を歩いてもチンピラだらけ。僕はただ道を歩いてただけなのに、相手は容赦なくぶつかって来る。それに対して、謝りもしない。そんなやつらに言い返したって時間の無駄だろう。だから裏路地で巨大なくしゃみをして、イライラをごまかす。そして近くの安いスーパーにさっさと行き、さっさと、缶チューハイを手に取り、さっさとレジに並ぶ。こういう時に限ってカードが使えないだの、偉そうな格好してる中年ジジイに対する沸き立つ感情を抑えつつ、ようやくレジを済ます。あんまり態度の良くない店員で辟易したが、店出るときはいつもありがとうございますと、元気に声をかけられた。私が同じ缶チューハイばかり買うもんだから顔を覚えられたのだろうが、まだ社会経験の浅い若い人は、そういう人がいると親近感を感じるものなのだろうか。ただ、こういうことで、また心をかき乱されるのは嫌だからやめてほしい。私は疲れているのだ。
酎ハイを飲みながら、始発電車の優先席でアニメを観ながら一人で笑う。これが私の日常だ。人が増えてくるたびに、イヤホンで聴いてるアニメの音量を上げる。私はこうすることで擬似的に一人になれる。一人の時間というのはやはり気持ちのいいものだ。誰にも邪魔されることはない。
だが、優先席で酎ハイを飲んで一人でニヤニヤするというステレオタイプが私の中にうずまき、私の周りでうつむいてスマホを見ている奴らはみんな密かに動画撮影して、どこかにアップロードして楽しんでんじゃないか?隣のやつは肘もぶつけてくる。こいつらはみんな結託して、俺を貶めようとしてるんだ。
・・・私には休まる場所がない。あの賃貸に帰っても隣のテレビの音が、耳に付いて悶絶するほどキツイ。どうすればいい?私はこのまま生きていけるのだろうか。いっそのこと、どうでもよくなってしまえ。
私はまっすぐとドラッグストアへ向かった。




