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旅する不死者は昼も歩く ――死ぬのは二回で十分だ。三度目の人生は、七千歳(ショタ姿)の保護者と行く、最強吸血鬼の旅!――  作者: 真野真名
第四章 古都テンペタ・フロップス編

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43、飛び込んできた厄介ごと

【2026/5月改訂】




 女の子が走っていった方から、怒鳴り声と一緒に男が三人、どたどた追ってきた。


 見るからに柄が悪い。

 いかにもそのへんで揉め事ばっかり起こしてそうな顔だ。


 しかも、こっちなんて見えてないみたいにまっすぐ突っ込んでくる。


「どけ! 轢き殺すぞ!」


 先頭の男が叫んだ。


 いや、なんでわたしがどかなきゃいけないの。


 わたしは反射的に身構えた。

 男は減速もしないまま、そのままわたしにぶつかってきた。


 鈍い音がした。


「ぐべっ!?」


 吹っ飛んだのは、わたしじゃなくて男の方だった。


 こっちは一歩も動いてない。

 ただ立ってただけだ。


 吸血鬼ボディ、思ってた以上に頑丈らしい。


 男は地面を転がって、鼻を押さえながら叫んだ。


「いってぇ……! なにしやがる!」


「それはこっちの台詞でしょ」


 思わず冷たくなる。


「人に突っ込んできたの、そっちなんだけど」


 追いついた残りの二人も、足を止めてこっちを睨んだ。


「なんだこのアマ」

「兄貴になにしてんだ!」


 ああ、もう。

 街に入って早々これか。


 横を見ると、統(すばる)は空でも見てるみたいな顔をしていた。

 はいはい。つまり、おねーちゃんがやれってことね。


 地面に転がってた男が、鼻血をにじませながら立ち上がる。

 自分からぶつかってきておいて、すっかり被害者面だ。


「テメェ……ただで済むと思うなよ!」


 懐からナイフが出てきた。


 周りの空気が一気に変わる。

 通りにいた人たちは、見なかったことにするみたいに足早に離れていった。


 残りの二人も、棍棒みたいなものを抜く。


 三人。

 こっちは二人。


 いや、統を数に入れると計算がおかしくなるから、今は考えないでおく。


 わたしはひとつ息を吐いた。


「ねえ。あの子追ってたんじゃないの? こんなとこで止まってていいわけ?」


「うるせぇ! あの泥棒猫は後だ! まずはテメェからだ!」


 優先順位どうなってるんだろう、この人たち。


 男がナイフを構えて突っ込んでくる。


 遅い。

 体がそう判断した。


 半歩ずれる。

 すれ違いざまに手首を掴んで、そのまま軽く捻る。


「ぎゃっ!」


 ナイフが落ちた。


 そのまま腕を背中に回して、地面に押さえつける。

 技というより、ほぼ力まかせだ。


「いたたたたっ! 折れる! 折れるって!」


「動かないで。こっち、加減まだ怪しいから」


 耳元でそう言うと、男はぴたりと止まった。


 残りの二人も、さっきまでの勢いがだいぶ消えていた。


「な、なんだこいつ……」

「化け物かよ……」


 失礼な。

 半分合ってるのが腹立つけど。


 そのとき、統が口を開いた。


「なあ」


 低い声だった。

 静かなのに、ぞっとするくらい冷たい。


「騒ぎが大きくなると面倒だ。衛兵が来る前に消えろ」


 二人の顔色が変わる。

 わたしじゃなくて、統を見た瞬間に。


 ああ、わかったんだなと思った。

 こっちの方がやばい、って。


「お、覚えてろよ!」

「行くぞ!」


 わたしが手を離すと、三人は転がるように逃げていった。

 捨て台詞までお約束だ。


「……はあ」


 服についた埃を払う。


 静かそうな街だなと思った直後にこれ。

 テンペタ、わりと油断ならない。


「行くぞ」


 統は何事もなかったみたいに歩き出した。


「ちょっと待って。あの子、どうなったかな」


「知らん。逃げ切っただろう」


「冷たいなあ。困ってるかもしれないじゃん」


「関わるな。面倒ごとの種だ」


 それは、そうだと思う。


 わたしたちは目立たない方がいい。

 余計な揉め事には近づかない方がいい。

 正論だ。


 でも、あの顔が気になった。


 切羽詰まってて、ただ逃げてるだけじゃない顔だった。


「……ちょっとだけ、様子見てくる」


 わたしが言うと、統は深いため息をついた。


「お前の『ちょっとだけ』が、まともに済んだ試しはない」


「ひどいな。でも気になるものは気になる」


 わたしはそのまま、女の子が走っていった方へ足を向けた。


 路地に入ると、さっきまでの大通りとは空気が全然違った。


 薄暗い。

 湿ってる。

 石壁の近さのせいか、においまでこもってる。


 ごみと、濡れた石と、生活の残りみたいなにおい。


 道は細くて、くねくねしてて、表の碁盤目の街とは別の場所みたいだった。


 わたしは足を止めて、息をひそめる。

 “深い心臓”が、かすかな気配を拾っていた。


 いた。


 突き当たり。

 木箱とごみ袋の陰に、小さく丸まってる影がある。


 さっきの女の子だった。


「ねえ」


 声をかけると、びくっと肩が跳ねた。

 弾かれたみたいに顔を上げる。


 目が鋭い。

 警戒心むき出しだ。ほんと、野良猫みたいだった。


「……誰やの。あいつらの仲間?」


「違うよ。あいつらはもう追い払った」


 女の子の目が、わたしを見て、次に後ろの統を見る。

 それからまた、わたしに戻る。


 すぐには信じない。

 その感じが、逆にちょっと安心だった。


「ほんま?」


「ほんと。もう来ない」


 少し間があって、やっと肩の力が抜けた。


「あー……死ぬかと思た……。おおきに」


 へなっとその場に座り込む。


「どういたしまして」


 わたしも少しかがんで、目線を近づけた。


「で、何したの?」


 直球で聞く。


「泥棒猫って、ずいぶん景気よく呼ばれてたけど」


 女の子はぴたりと黙った。


 目が泳ぐ。

 それから、片手で服の裾のあたりをぎゅっと押さえた。


 あ、そこに何かあるな、と思った。




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