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旅する不死者は昼も歩く ――死ぬのは二回で十分だ。三度目の人生は、七千歳(ショタ姿)の保護者と行く、最強吸血鬼の旅!――  作者: 真野真名
第四章 古都テンペタ・フロップス編

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42、茶畑の向こうの計画都市

【2026/5月改訂】




 馬車の後ろに縄でつながれて運ばれる、なんて経験、たぶん一生に一回あるかないかだと思う。

 できれば、ない方がいいやつだ。


 もちろん、それはわたしたちの後ろで数珠つなぎにされてる元・盗賊のみなさんにとっても同じらしかった。


 この人たち、ここ数時間ずっと、ありとあらゆる手で同情を引こうとしている。


 足が痛い。

 喉が渇いた。

 小便したい。

 田舎に病気の母がいる。

 実は王家の隠し子だ。


 最後のは、もうちょっと設定を練ってから来てほしい。


 でも残念ながら、今のわたしたちはそこに付き合ってあげるほど暇でも優しくもなかった。

 わたしと統(すばる)とチナちゃんの三人で、後ろのうめき声はもうだいぶ“背景”として処理していたのである。


 チナちゃんとの話はけっこう楽しかった。


 魔法のこと。

 この世界で流行ってる食べ物のこと。

 テンペタ・フロップスの見どころのこと。


 知らないことばっかりで、普通に面白い。

 言葉も、たぶんだいぶマシになった。少なくとも統が露骨に眉をひそめなくなったし。


 後ろから「み、水を……」とか聞こえてこなければ、かなり穏やかな移動時間だったと思う。


 そんなふうに揺られているうちに、景色が変わった。


「うわ……」


 思わず声が出た。


 茶畑だ。


 低くきれいに刈られた茶の木が、丘の斜面をそのまま緑で塗りつぶしたみたいに広がっている。

 風が吹くたび、葉の表面がさざっと波打って、かすかにお茶の匂いが流れてきた。


 ああいう香りって、なんでこんなに落ち着くんだろう。

 日本人の何かに刺さる。


「これがテンペタ茶?」


 聞くと、チナちゃんがぱっと顔を明るくした。


「はい! このへん一帯は、テンペタの直轄なんです。ここのお茶、王都だと高級品なんですよ」


「へえ。じゃあ、ちゃんと飲んでみたいな」


「街に入ったら茶楼がいっぱいありますよ。安くておいしいお店、教えます!」


 そんな話をしてるうちに、茶畑の向こうに街が見えてきた。


 古都、テンペタ・フロップス。


 最初の感想は、でかい、だった。

 で、次の感想は、なんか変、だ。


 まず、城壁がない。


 いや、正確には、あるにはある。

 でも想像してたような分厚い石壁じゃなくて、人の背丈くらいの木の柵だ。


 いやいや、それでいいの?


 あれじゃ、やる気のある獣とかに普通に突破されそうなんだけど。


「ねえ統。あれ、大丈夫なの?」


 小声で聞くと、統はちらっと柵を見た。


「あれは防壁ではない。領域を示す結界の基点だ」


「結界?」


「帝国時代の遺物らしい。街全体を魔術式が覆っている。魔物避けの効果がある」


「へえ……見えない壁ってことか」


 便利だな、と思う。

 でもそのぶん、見た目はだいぶ頼りない。


 しかも柵の内側には、すぐ街があるわけじゃなかった。

 何もない空き地が、やたら広い。


 きれいに整地されてるのに、本当に何もない。

 その下には水のない堀まであるらしい。


 変な造りだ。

 でも、そのおかげで街全体の形はすごくよく見えた。


「……碁盤の目だ」


 道がまっすぐ走ってる。

 家も、その線に合わせてきれいに並んでる。


 自然に広がった町のごちゃっとした感じがなくて、最初から誰かが線を引いて作ったみたいだ。


「計画都市ってやつだね」


 思わずそんな言葉が出た。


 わたしたちは東門――サンライ門っていうらしい――へ向かった。


 門といっても、柵が途切れていて、横に詰め所みたいな小屋があるだけだ。

 守衛もいたけど、空気はわりとのんびりしている。


 結界を信じきってるのか、この街が平和なのか。

 たぶん両方だろう。


 でも、さすがにわたしたちの馬車は止められた。


 そりゃそうだ。

 後ろに七人つないでるんだから。


「おいおい、なんだその列は」


 守衛さんが半分あきれた声を出す。


 ブンザさんが馬車を止めて、手慣れた感じで説明を始めた。


 道中で襲われたこと。

 通りすがりの姉弟に助けられたこと。

 そして、後ろのこれがその結果であること。


 守衛たちは、わたしと統と、地面にへたりこんでる盗賊たちを見比べた。


 まあ、そうなるよね。

 どう見ても子ども二人だし。


 でも現実は現実だ。

 縛られた盗賊たちのしょぼい顔が、なによりの証拠だった。


 手続きそのものは案外すんなり終わった。


 役人が来て、盗賊たちを引き取っていく。

 連中は最後まで「無実だ!」「パンをくれ!」とか騒いでたけど、役人に小突かれて連れていかれた。


 手配書を照らし合わせた結果、どうやら有名な大物ではなく、近くの村で鶏を盗んだり旅人を脅したりしてた小悪党の寄せ集めだったらしい。

 報奨金も、命がけだったわりにはちょっと微妙な額だった。


 まあ、お小遣いと思えば悪くない。


 そんなこんなで門を抜けて、いよいよ街の中へ入る。

 ここでブンザさんたちとは別れだ。


「いやあ、本当に助かりました」


 ブンザさんが深く頭を下げた。

 ダカタさんも、チナちゃんも、名残惜しそうにこっちを見る。


「お二人、宿は決まっていますか?」


「まだ。これから探すとこです」


「それなら『白の風車亭』がおすすめですよ。飯もうまいし、主人も気さくで、値段も手ごろです。私たちも今夜はそこへ泊まる予定でして」


 そう言って、簡単な地図まで書いてくれた。


 ありがたい。

 こういう情報、旅人には本当に助かる。


「よければ夜、食堂へ来ませんか。お礼も兼ねて、夕食をご一緒しましょう」


「え、いいんですか」


 口では遠慮っぽく言いながら、わたしの胃袋はわりと即決だった。


 チナちゃんが、少し心配そうにわたしたちを見る。


「お二人だけで、大丈夫ですか?」


 年下の子に心配されるの、ちょっと情けないけど、でも嬉しい。


「大丈夫。見てたでしょ。わたしたち、そこそこ強いから」


 そう言うと、ブンザさんが笑った。


「はは、チナ。心配はいらんよ。あのお二人は、そのへんの冒険者よりずっと頼りになります」


 そんなふうに別れて、馬車を見送る。


 石畳の上をガタゴト遠ざかっていく荷車を見てたら、少しだけ寂しくなった。

 でも今夜また会える。

 しかも晩ごはんつきだ。


 そう思えば、足も軽くなる。


 わたしたちはテンペタの街を歩き出した。




 中へ入ってまず思ったのは、“広い”だった。


 中央を走る大通りは、やたら広い。

 両側には石造りの建物が並んでいて、ところどころ街路樹もある。

 元帝都って聞いてたけど、たしかにそれっぽい。


 でも、ちょっと静かすぎた。


「大きい街のわりに、なんか人少ないね」


 建物は立派なのに、歩いてる人が少ない。

 道ばかりが妙に広く見える。


「この街の規模に対して、人口が少ないんだろう」


 統が言う。


「帝都だった頃は、もっと人がいたはずだ。今は器だけ大きく残っている」


「ちょっとさみしい感じするね」


「観光客は別の区画に集まってるのかもしれん。ここは居住区寄りなんだろう」


 なるほど、とは思った。

 でもやっぱり、少しだけ舞台のセットみたいだ。


 そんな中を歩きながら、今後の話になる。


「で、この街でどう暮らすの?」


「定番は冒険者登録して依頼を受けることだろうが、却下だ」


「早いな」


「目立つ。面倒だ。組織に属すればしがらみも増える」


「まあ、それはそう」


 統が組織に大人しく所属してる姿、ちょっと想像できない。


「それに、金はある」


「ああ、例の手数料」


「贅沢しなければ、二十年は困らん」


「二十年!?」


 思わず声が大きくなった。

 通りがかりの人がこっちを見る。慌てて口を押さえた。


「いや、十分とかそういう話じゃないでしょ。どれだけ取ってきたの」


「正当な対価だ」


 統は涼しい顔だった。


 いや、うん。

 相手が相手だから、気持ちはわかるけど。


「じゃあ、働かなくてもいいってこと?」


「働くにしても、この外見年齢では制限が多い」


 統が自分の手を見る。

 十歳前後の見た目。そりゃまあ、普通の仕事は難しいだろう。


「同行するなら、お前の見た目ももう少し幼くしておけばよかった」


「は?」


 聞き捨てならない。


「どういう意味」


「もっと幼ければ孤児院に潜り込ませる手もあった。十三では微妙だ。可愛げが足りん」


 カチンときた。


「誰が可愛くないって?」


「言ってない」


「言ったようなもんでしょ!」


 腹が立つ。

 十三歳なんて、いちばんぴかぴかしてる時期じゃないの。


「統が無理でも、わたしなら働けるでしょ。看板娘とか、給仕とか」


 すると統は、こっちをじろっと見た。


 胸のあたりを見た。


「微妙だな」


「どこ見て言ったし!」


 即抗議した。


 たしかに前より少し控えめになった気はする。

 でも、だからってそこで判断するな。


 いつか見返してやる。

 どうやってかは、まあ、そのうち考える。


 そんな言い合いをしながら、広い交差点に差しかかった、その時だった。


 前の方から、小さな影がものすごい勢いで走ってきた。


 女の子だ。

 年は、わたしと同じくらいか少し下。

 服はぼろぼろで、髪も乱れてる。

 顔つきが、ただごとじゃない。


「どいて! 邪魔!」


 叫びながら、彼女はわたしと統の間を風みたいにすり抜けていった。


 速い。

 呆気に取られて振り向く、その前に――


「待てェ! この泥棒猫がァ!」


 後ろから怒鳴り声が飛んできた。


 あ、これ。


 絶対、巻き込まれるやつだ。




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