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旅する不死者は昼も歩く ――死ぬのは二回で十分だ。三度目の人生は、七千歳(ショタ姿)の保護者と行く、最強吸血鬼の旅!――  作者: 真野真名
第四章 古都テンペタ・フロップス編

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43、飛び込んできた厄介ごと




 女の子が走ってきた方向から、怒号と共に三人の男が追いかけてきた。


 柄の悪い、いかにも「チンピラです」という風貌の男たちだ。

 彼らは女の子を追うことに夢中で、進路上にいるわたしたちのことなど、眼中にないようだった。


「どけ! 轢き殺すぞ!」


 先頭を走る男が、邪魔だとばかりにわたしに向かって突っ込んでくる。

 避けるか?

 普通の人間なら避けられる距離じゃないが、わたしたちなら余裕だ。


 でも、なんでわたしが避けなきゃいけないのよ。

 ここは歩道(みたいな場所)だぞ。歩行者優先だろ。


 わたしは反射的に身構えた。

 男は減速することなく、タックルのような体勢で、統じゃなく、わたしにぶつかってきた。

 普通なら、わたしが吹き飛ばされて地面に転がるところだ。

 普通の女子高生なら。


 当たった瞬間、鈍い衝撃音がした。

 当然、吹き飛んだのはわたしではなかった。


「ぐべっ!?」


 男の方が、まるで透明な壁に激突したかのように弾き返され、無様に地面に転がったのだ。


 わたしは一歩も動いていない。

 ただ、そこに立っていただけだ。

 吸血鬼ボディの物理耐性、恐るべし。

 大型トラックには勝てないかもしれないが、チンピラのタックルくらいなら、岩のように受け止められるらしい。


「痛ったぁ……なんだテメェ、何しやがる!」


 転がった男が、顔を真っ赤にして怒鳴り散らす。

 逆ギレもいいところだ。

 当たり屋かよ。


「何しやがる、はこっちのセリフよ。人が歩いてるのに突っ込んでくる方が悪いでしょ」


 わたしは冷ややかに言い返した。


 後ろから追いついてきた二人の男も、足を止めてわたしを睨みつける。


「なんだこのアマ、兄貴に何しやがった!」

「痛い目見たいのか、ああん?」


 ああ、面倒くさい。

 せっかく平和な観光気分だったのに。

 またイベント発生かよ。

 この世界、エンカウント率高すぎない?

 わたしはチラリと横を見た。

 統は、相変わらず「我関せず」の顔で、空の彼方を見つめている。


 ……はいはい、わかってますよ。

 おねーちゃんが処理すればいいんでしょ、おねーちゃんが。


 わたしはため息をつきつつ、心臓の奥のエンジンを、アイドリング状態から少しだけ回転させた。


 地面に転がった男が、顔を真っ赤にして立ち上がる。

 鼻血が出ている。自分の勢いでぶつかって自爆したのだから、自業自得というやつだ。


 しかし、チンピラという生き物は、因果関係を正しく認識する能力が欠如しているらしい。


「テメェ……ただで済むと思うなよ!」


 男が懐からナイフを取り出した。

 周囲の空気が凍りつく。

 広い通りにはまばらに人がいたが、関わり合いになりたくないのか、皆一様に顔を背けて足早に去っていく。


 都会の冷たさってやつね。


「兄貴、やっちまいましょう」

「こんなガキ、ひねり潰してやる」


 取り巻きの二人も、それぞれ棍棒のようなものを取り出して構える。


 三対二。数では不利だ。


 いや、統を戦力に数えるなら、実質三対一億(戦闘力換算)くらいでわたしたちが有利なのだが、彼はあいにく「子供」のロールプレイ中だ。


 つまり、わたしがなんとかしなきゃいけない。


「はぁ……」


 わたしはわざとらしく大きなため息をついた。


「ねえ、あなたたち。さっきの女の子を追いかけてたんじゃないの? こんなところで油売ってていいの?」


「うるせぇ! あの泥棒猫は後だ! まずはテメェのツラを拝み直してからだ!」


 優先順位がおかしい。

 どうやら、プライドを傷つけられたことの方が、本来の目的よりも重要らしい。男ってバカね。


 男がナイフを構えて突っ込んでくる。

 直線的で、何の工夫もない動きだ。

 わたしは半歩横にずれ、すれ違いざまに男の手首を掴む。

 そして、軽く捻った。


「ぎゃっ!?」


 悲鳴と共にナイフが手から離れる。

 わたしはそのまま男の腕を背中に回し、地面に押さえつけた。

 柔道の授業で習った……わけではない。単なる馬鹿力による制圧だ。


「痛い痛い痛い! 折れる! 折れる!」


「動かないでね。加減がわからないから、ポキッといっちゃうかもよ?」


 わたしが耳元で囁くと、男は借りてきた猫のように大人しくなった。

 残りの二人も、リーダー格があっさり制圧されたのを見て、腰が引けている。


「な、なんだお前……」

「化け物か……」


 失礼な。可憐な美少女をつかまえて化け物とは。

 まあ、半分合ってるけど。

 その時、統が口を開いた。


「なぁ」


 低い声。

 場違いなほど落ち着いた声が、チンピラたちの背筋を凍らせたようだ。


「騒ぎが大きくなると面倒だ。衛兵が来る前に消えろ」


 統の目は、ゴミを見るような冷たさを湛えていた。

 男たちは本能的に悟ったのだろう。この「子供」の方が、わたしよりも遥かにヤバイ存在だと。


「お、覚えてろよ!」

「行くぞ!」


 わたしが拘束を解くと、男たちはお約束の捨て台詞を残して、脱兎のごとく逃げ出した。

 逃げ足だけは一級品だ。


「……ふぅ。やれやれ」


 わたしは服の埃を払った。

 街に着いて早々、トラブル続きだ。

 これがわたしの「引き」の強さなのだろうか。だとすれば、宝くじでも買えば当たるかもしれない。いや、この世界に宝くじはないか。


「行くぞ」


 統は何事もなかったかのように歩き出す。


「ちょっと待ってよ。さっきの子、どうなったかな」

「知らん。逃げ切っただろう」


「冷たいなぁ。もしかしたら、困ってるかもしれないじゃん」

「関わるな。面倒ごとの種だ」


 統の忠告はもっともだ。

 わたしたちはただでさえ追われる身(正確には死んだことになってるけど)。目立つ行動は避けるべきだ。

 でも、どうしても気になってしまう。


 あの必死な顔。

 何か、事情がありそうだった。


「……ちょっとだけ、様子見てこようかな」


 わたしが言うと、統は深いため息をついた。


「お前の『ちょっとだけ』が、ロクな結果になった試しがない」


「ひどい言い草! でも、気になるものは気になるのよ」


 わたしは統の制止を振り切り(といっても彼は本気で止める気はないようだったが)、女の子が走り去った方向へと足を向けた。



 路地裏に入ると、表通りの整然とした雰囲気とは打って変わって、雑多で薄暗い空間が広がっていた。

 ゴミの匂いと、湿った石の匂い。

 迷路のように入り組んだ路地を、わたしは勘を頼りに進んでいく。

 あの「深い心臓」が、微かな気配を捉えていた。


 いた。

 路地の突き当たり、ゴミ箱の陰に、小さく丸まっている影があった。

 さっきの女の子だ。

 息を殺して、震えている。


「ねえ」


 わたしが声をかけると、彼女はビクッと体を震わせ、弾かれたように顔を上げた。

 警戒心剥き出しの目。

 野良猫みたいだ。


「……誰? あいつらの仲間?」


「違うよ。あいつらは追い払ったから、もう来ないよ」


 わたしが努めて優しく言うと、彼女の目から少しだけ険が取れた。


「……ホンマ?」


「ホントホント。わたしがボコボコにしてやったから」


 女の子は、わたしの顔と、後ろに立っている統を交互に見た。

 そして、安堵したのか、へなへなと座り込んだ。


「あー、死ぬかと思たわ……。おおきに、お姉ちゃん」


「どういたしまして。で、何があったの? 泥棒猫とか言われてたけど」



 わたしが直球で聞くと、彼女はバツが悪そうに視線を逸らした。




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