33、何もしない距離
すみません。過去投稿分の文体、内容一部修正しました。
22、金髪の冒険者(文体修正)
24、暗がりへの決意〜31、夜の侵入者(文体修正)
32、顔を見る距離(文体修正、内容変更)
32は内容が少し変わっています。
代官所は、街のど真ん中にあった。
昼間は人が出入りして、夜になると門が閉まって、兵が立つ。
よくある役所。
……の、はずだった。
夜の代官所は、妙に静かだった。
見張りはいるし、灯りもついてる。結界だって、ちゃんと張られてる。
なのに、なんていうか──
「誰も使ってない建物」みたいな空気がする。
「……ここ、嫌な感じする」
気づいたら、口に出てた。
「正しい」
統が、短く返す。
「人のために使われている場所じゃない」
フォローもオブラートもなし。……ほんと、この人はこういう人だ。
門を越えるのは、拍子抜けするほど簡単だった。
統が結界に触れると、それは抵抗もせず、すっと道を空ける。
「……壊してないよね?」
「壊していない。“客”として通されただけだ」
「あとで怒られたりしない?」
「問題になる頃には、我々はいない」
はい出た。
身も蓋もないやつ。
中に入ると、びっくりするくらい整っていた。
廊下はピカピカに磨き上げられ、壁には紋章っぽいものが。
多分、男爵家の家紋なんだろうけど、和風な香りがする。
深夜だから、寝静まっているんだろうけど、人が暮らしてる気配が感じ取れない。
「……住んでないの?」
「住んではいる。ただし、“生きて”はいない」
言いたいことは分かる。
分かるけど、ちょっと言い回しがキメすぎ。
(この人、長い人生のどこかで絶対浮いてたよね)
探し物は、きっと執務室と、保管庫にある。
まずは怪しい地下から行くことに。
階段を下りるにつれて、空気が変わる。
冷たい。
湿っていて、重たい。
金属の匂い。
紙の匂い。
それに、ほんの少しだけ──血の残り香。
「……あった」
棚の一角。そこに、見覚えのある布があった。
わたしは、思わずその場にしゃがみ込む。
ローデリヒの上着。
安物だけど、ちゃんと手入れされてたやつ。
ディルクの工具袋。
刃の減り方まで、そのまま。
──ここに、あった。
“処理された”はずなのに、
きれいさっぱり消せてない。
「……証拠だね」
「ああ」
統は淡々と書付を確認していく。
日付。
命令書。
署名。
全部、合法の形。
だからこそ、たちが悪い。
胸の奥で、“深い心臓”が、
ごん、と低く鳴った。
そのとき、上から足音がした。
階段を下りてくる音。
軽い。焦ってない。
統が、静かにわたしを止める。
「……来る」
階段の上に、灯りが揺れた。
現れたのは、若い男。
派手な服。
指輪。
顔には、まだ余裕が残ってる。
「……誰だ?」
声が、ちょっと震えてた。
強がりの震え。
──グソック・オーダイン。
オーミ代官、クアンサマ・オーダイン男爵の息子。
彼は、わたしたちを“見てしまった”。
「衛兵を──」
叫びかけた口が、途中で止まる。
統が、一歩前に出ただけ。
触れてもいない。何もしてない。
ただ、そこに立っただけ。
グソックの喉が、ひくっと鳴る。
「……な……なに……」
目だけが、逃げ場を探してる。
でも、体が言うことを聞いてない。
わたしは、前に出た。
一歩。
殴れる距離。
殺せる距離。
……でも、何もしない距離。
「……覚えておいて」
自分の声が、思ったより低くて驚く。
「今夜、ここに来た人がいたこと」
「ひっ……」
「あなたは、生きてる」
はっきり言った。
「それは、選ばれたからじゃない」
グソックは、完全に息を忘れてた。
「……父上に……」
「言えばいい」
統が、淡々と続ける。
「だが、証明はできない」
理解した瞬間、グソックの顔から血の気が引いた。
わたしたちは、何もしない。
でも──
入られた。
見られた。
触れられなかった。
それだけで、十分すぎるほどだった。
統が、わたしの肩に手を置く。
「行くぞ」
振り返らずに、階段を上る。
背後で、何かが崩れる音がした。
外に出ると、夜風が冷たい。
代官所は、何事もなかった顔で立っている。
でも──中は、もう静かじゃない。
わたしは、手の中の遺品を強く握った。
「……終わりじゃないね」
「ああ」
統が答える。
「だが、一区切りだ」
代官所の闇を背に、わたしたちは、音もなく去った。
胸の奥で、“深い心臓”が、静かに、確かに、脈を打っていた。
すみません。
いろいろ書き散らしているせいで、文体(地の文)に揺れが出ていましたので、修正致しました。
32は内容修正(シーン削除、後半33への繋がり修正)しておりますので、この回を読んで「ん? んん?」って感じたら、「ごめんなさい」32の再読お願いいたします。




