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旅する不死者は昼も歩く ――死ぬのは二回で十分だ。三度目の人生は、七千歳(ショタ姿)の保護者と行く、最強吸血鬼の旅!――  作者: 真野真名
第七章 王都への道編

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100、街の素顔


ごめんなさい。

投稿、二ヶ月以上空いちゃいました。


頑張って書き続けて行きますので

他作品共々、お付き合いよろしくお願いします。



本日午後(お昼? 夜?)もう一話投稿予定です。

お昼には『新・娘子隊』も投稿します。

そちらも良ければ読んでみてくださいね。










 朝食の時、ベルロウさんはやけに念入りにパンを千切っていた。


 別に祈祷でもしているわけじゃない。ただ、わたしを横目で見ながら、見事なまでに不機嫌な顔をしていた。


「あーし、お前の子守係扱いなんだけど」


「失礼ね」


「“失礼”って言える立場じゃねえぞ、ドレミ」


「ちょっと!」


「お前、よく考えてみ? 昨日のお前」


「うん?」


「ぶつかったとかで、喧嘩が起こりそうになった時、一歩出ようとしただろ」


「そだっけ?」


「ありゃ、揉め事に首突っ込むチンピラの顔だ」


「人聞きの悪い表現やめて」


 ベルロウさんはパンを口に運びながら、にっと笑った。でも、嫌そうな顔は、ちゃんと半分は本気で嫌そうだった。

 わたしは助けを求めて、向かいの席の統(すばる)を見た。


 が、統は、もう朝食を半分以上片付け終わっていた。

 いつの間にか身支度も済んでいて、明らかに今から出ようとしている顔だ。


「あんたはあんたで、なに、その完璧な臨戦態勢?」


「今日は別行動だ」


「どこ行くのよ」


「散歩」


「絶対ありえない」


「散歩だ」


「あんたが“散歩”って言う日、わたしの知る限り絶対散歩じゃないのよね」


「事実だ」


「事実って言っとけば通るって思ってない?」


「便利だ」


「だから昨日のと同じよそれ!」


 アリアさんが横で笑いをこらえていた。


「あなたたちが街で固まらない方が、こっちも動きやすいの」


「えー、アリアさんもそっち側?」


「そっち側よ」


「ドレミ、観念しな」


 ベルロウさんが、サラダのお皿からピーマンに似た野菜を、丁寧に取り除きながら言った。


「ベルロウさんまで?」


「だってあーし、おまえの子守だぞ。子守として全権持って動くからな、文句言うなよ」


「子守の全権ってなによ」


「子守なめんなよ」


「なんか、めっちゃ気合い入ってる!?」


 ノッピーニオさんは食堂の隅のテーブルで、いつものように静かに何か書いていた。

 目線だけはちらりとこちらに向ける。「やかましいですよ」とでも言いたげな、無言の冷静さ。


 わたしはがくっと肩を落として、自分のパンに戻った。


 ……まあ。

 みんな、昨日のことをちゃんと心配してくれているらしい。

 そう思えば、悪い気はしなかった。

 子守扱いなのは、ものすごく不本意だけど。


 昨日の騒ぎを受けて、それぞれが自分の役割をもう一度確認している。


 昨日までわたしたちが歩いていた「ふつうの旅」とは、ほんの少しだけ温度の違う朝だった




 宿を出ると、平民街の朝はすでに動いていた。


 通りの少し奥に、共同井戸が見える。

 その周りには、おばちゃんたちが大きな桶を抱えて集まっていて、洗い物の水しぶきと、世間話の声が混ざり合っていた。


「あんたとこ、もう次の子のお祝い決めた?」

「冗談じゃないよ、上の三人で手一杯さ」


「あら、四人目欲しいって言ってたじゃない」

「あの時は酒入ってたんだよ!」


 わはは、と笑い声が上がる。



 通りの反対側を、五、六人の子どもが、年長らしい女の子に手を引かれて一列に歩いていった。


「迷子になんないでね」

「はーい」

「はーい」

「はーい」


 返事だけ揃ってる。


「おまえにお仲間たちがいるぞ」


 その光景を見てベルロウさんが肘で突ついてくる。


「もうその、子守ムーブやめてくださいよ」


「あーしが、おまえの子守りなのは変わらない」


 なんかその半笑いが、キャットタワーの上から見下ろしてくるうちの猫の笑顔に似ていた。


 露店はもう仕込みに入っていた。

 パンの匂い、揚げ油の匂い、それから昨日かいだ香辛料の匂いが、朝の冷たさの中で立ち上っている。


 通りの隅には、毎朝そこで座っているらしい老人が、ひざ掛けをかけたまま、流れていく人々をぼんやり眺めていた。


「うわ、平民街、めちゃくちゃ生活感あるよね」


 わたしが思わず呟くと、ベルロウさんが小さく鼻を鳴らした。


「お前、ようやく王都の素顔を見たな」


「昨日の貴族街となに、これ同じ街なの」


「ん。同じ街だ」


「すごい二段構造」


「都市ってのは大体そうなんだよ」


 ベルロウさんは耳をぴくりと立てた。


「あーし、人ごみは嫌いだが、人は嫌いじゃねえ、って昨日言ったろ?」


「うん」


「あーしが嫌いなのは“都市”そのものなんだよ。人が集まりすぎて、ルールでがちがちにしねえと動かなくなる街そのものが嫌いだ」


「あー、なるほど」


 ベルロウさんはそう言って、井戸端のおばちゃんたちにも、すれ違うおじいさんにも、軽く目線を返していた。


 人は嫌いじゃない。

 むしろ、こういう人たちのことは好きなのかもしれない。



 その時、横から急に小さな声がした。


「ねこ!」


 通りすがりの子どもだった。


 たぶん、五歳くらい。

 お母さんに手を引かれて歩いていた途中で、ベルロウさんの尻尾を見つけて、目をきらきらさせている。


「ねこのおねえちゃん!」


 ベルロウさんの耳が、ぴくっと跳ねた。


「おい、子ども。あーしを“ねこ”呼ばわりすんな」


「ねこのおねえちゃん!」


「だから違うっつーの」


「ねこのおねえちゃーん!」


「お前、ぜんぜん聞いてねえな!?」


 子どもはそのままお母さんに引っぱられていって、最後にぶんぶん手を振った。


 ベルロウさんは、無言で見送った。


「……今、ちょっと許してやった」


「単純すぎ」


「いいんだよ、子どもには」


「ベルロウさん、わたしには鬼みたいに厳しいのに」


「お前は子どもじゃねえからだろ」


「身長は子どもよ!」


「中身は元成人だろうが」


「うっ」


「うっ、じゃねえよ」


 ベルロウさんは、けらけら笑っていた。


 思った以上に、街と相性が悪くなさそうだった。




 平民街の北寄りの通りに入ったところで、人だかりがあった。


 大きな騒ぎではなかった。

 ただ、衛兵が二人、街路の壁に貼られていた何枚かの手配書を取り外していた。

 そこには、いくつかの名前と特徴が書かれている。


 年齢。

 身長。

 着ていた服。

 最後に目撃された場所。


 名前ごとに、最後の目撃場所が違う。

 でも、目撃場所の地名を頭の中で並べてみると、なんとなく方向が似ていた。


 北の――神殿の方角。


「……これ」


 わたしが立ち止まると、ベルロウさんも横で耳をぴくりと立てた。


「迷子じゃねえな」


「人捜しの掲示?」


「ああ。たぶん、ここのところ続いてるやつだ」


 看板を取り外していた衛兵が、もう片方の衛兵にぼそりと言うのが聞こえた。


「また増えた、って話だ」

「……月で三人、もう超えた」

「上、何やってんだ」

「滅多なこと言うな」


 その小声の応酬を、ベルロウさんの耳は明らかに全部拾っていた。


 周囲の住人たちの会話も、なんとなく聞こえてくる。


「またあれかい」

「うちの娘も気をつけさせないとね」


「白布の集まり、なんか怪しくないかい?」

「滅多なこと言うんじゃないよ。あれは慈善ってことになってんだ」


「……ってことに、ね」


 住人の声の中に、含みがあった。

 怒っているわけじゃない。でも、信じきってもいない。


 ベルロウさんが、わたしにだけ聞こえる小声で言った。


「あーしの鼻と耳が言ってる。これは“噂”の段階で済む話じゃねえな」


「アリアさんが言ってた通りね」


「ま、あれが酒場で拾ってきた話だってんなら、その酒場、王国でいちばん優秀な酒場だぜ」


「……ベルロウさん」


「ん?」


「アリアさんって、絶対ただの冒険者じゃないわよね?」


 ベルロウさんは、耳の付け根をぼりぼり掻きながら、無表情にしてみせた。


「あーしは、なんにも知らねえな」


「あ、それ、絶対知ってるやつの返し方」


「気のせいだ」


「うわ、統と同じ言葉使った!」


「“事実”だからな」


「もういい!」


 わたしは半分本気で拗ねたフリをした。


 でも、ベルロウさんの耳は、わたしの方ではなく、衛兵たちの動きと、住人たちの声を、まだ静かに追い続けていた。


 そっちが本業なんだろう。

 そう思った時点で、わたしは内心、もうほとんど答え合わせを済ませていた。








七色が主人公の本作の続編思いついちゃいました。


が……手を付けずしばらく寝かせておきます。



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