焼き鳥の用意ができたのに……
シドさんが13歳だと言い張る18歳のソラくんには、もっと串を作ってもらうべく、そっとしておいた。
さあて、焼き鳥用のタレを作ります。
酒・醤油・味醂を混ぜる。甘味はザラメでといきたところだったけど【薬膳箱】に入って無いので、蜂蜜を投入。
砂糖類は黒糖のみある。これまでの調理にも砂糖が欲しい時は黒糖を使っていた。今回も黒糖でも良いのだけど、蜂蜜の方がツヤとテリが出るかなと思ったので、こちらに。
まあ、味醂で艶出しできるのだけどね。蜂蜜でよりテカテカにして、あと、美容にも良いから蜂蜜は。
銃士隊女子の美貌のためにもロイヤルなコラーゲンをもりもり投下いたしまして、醤油ダレとします。
醤油ダレは火にかけて煮詰めておく。
タレはもう一種類。味噌味もつくる。
味噌に砂糖・酒・味醂を加えて練り練り。それから火にかけて、ヘラで混ぜまくる。焦げ付かないように気をつけてね。
5分くらいで味噌ダレの完成。ふろふき大根や蕪、茄子・里芋・豆腐の田楽にも使えちゃう万能味噌ダレだよ。
これに生姜の搾り汁と砕いたクルミを混ぜて、今回の味噌ダレとします。
「おーいヒマリ、こんなもんでいいか?」
タレを作っている間に、ソラくんが木串百本ほど削ってくれた。
「いっぱい作ってくれてありがとう。すごく上手だね。もう百本くらい、頼める?」
「おう、いいぜ。もっと作ってやるよ。今夜の食事に使うんだろ。二百本じゃ足りねえぞ、きっと」
そう言って、どんどん串を削ってくれるソラくん。あっという間に二百本、三百本と積み上がる。
それにしても、大して可愛くない私のおねだりでも、こうやって聞いてくれるの。やっぱりソラくん良い人だ。
にこにこしていたら、ソラくんが作業の手を止めて振り返った。
「言っておくが、ヒマリが可愛いから、やるんだぞ」
「へ?」
言うだけ言って、作業に戻ってしまうソラくん。
あれ? あれれ? ソラくんの耳が真っ赤だよ。
私の頬も、少し赤いかも。同い年くらいの男の子に可愛いって言われたの、初めてだし。これは、動揺だね。初めてのことに心が舞い上がっているってやつ。
ダン、ダン、ダダ、ダダダンッ。
ブランフザン肉の各部位を、食べやすい大きさに切り揃えてゆく。
ダンダン、胸肉。ダンダダン、もも肉。ダダンダン、テール肉。尾羽の付根のところね。ぼんじりともいう。
調理台にある木のまな板は厚いから、私がちょっとダンダンしたくらいじゃ傷すら付かない筈。
だけど、ダンッ――――と、首肉に入った一撃で、端が欠けたようだ。欠片が飛んだ。木の破片、コロコロ転がってゴミ箱にナイスシュート……あーいやいや、ごめんなさい。作ってくれた人。木にも。粗雑に扱ってすいません。
それからは、ちょっと気をつけてダンダン。リズミカルに、笹身肉の筋を取りながら串サイズに切る。巨大鳥のだからか、笹身も大きいのよね。もはや笹の大きさじゃない。食いでがありそう。
ネギも斬る。斬、斬と。2~3センチくらいに揃えて、ネギマの用意だ。
体力無尽蔵は偉大だ。ひたすら肉切りに没頭しても疲れなかった。
そこはかとなく筋力も増強されているようで、うっかりまな板を割ってしまうハプニングもありましたが。ええ、欠片飛ばしただけで飽き足らず、真っ二つですよ。いけない、いけない。
力加減、覚えないと、色々と壊してしまいそう。
そーっと、そーっと、レバー・砂肝・ハツの白い部分を削ぎ落とす。流水で洗い流しては血合いもとって、下処理をする。これを怠ると、美味しくなくなっちゃうからね。綺麗なお肉色がぷるるんとするまで、がんばる。
それから、ひもとレバーを下茹で。灰汁が出たら取る。色が変われば直ぐにザルへ、湯切り。
茹ですぎないよう、注意。茹ですぎると硬くなっちゃうからね。
粗熱をとったら、一口大に切っておく。
生姜もスライス。大蒜も一つ丸ごと潰して皮を剥く。煮付けに使うよ。そうです。モツ煮です。
酒、砂糖、醤油、味醂と大蒜に生姜を合わせ、そこへモツ全投入。モツが隠れるまで水分が欲しいので、酒を追加。煮ます。
加圧しようか迷ったけど、モツって煮ると直ぐに硬くなっちゃうから、見ながら煮込むことにした。
灰汁が出れば掬って、地上だと10分ほどで煮上がるのだけど、まだ汁があるなあ。もう少し、煮込む。
味見をして、程良き柔らかさ。きんかんもテリテリに輝いているから、これでオッケー。
彩りに生姜の千切りと油通しした獅子唐を飾れば完成!
できたら、七味唐辛子をかけて食べたいよね。【薬膳箱】に材料はあるから、薬研で挽いてブレンドしておこう。
まあ、その前に亜空間収納へ入れておきますが。亜空間の中は時間が止まっているらしく、時間が経っても温かい料理そのままに食べれるのだ。便利だね。ありがとう『天空の神』と『時の神』。多分だけど、この二神が贈ってくれたギフトだよ。
皆が帰って来たら、熱々のモツ煮を出そうっと。
皆の喜ぶ顔が早く見たい~ふんふんふ~ん♪と、鼻唄しながらソラくんの様子を窺う。
「え、千本もできたの?!」
なんとソラくん、木串を千本も仕上げて、更に私が驚いている間にも何本か拵えてゆく。すごい早業。手元が見えないや……。
「これくらい朝飯前だぜ。今は夕飯前だけどな!」
「ふふふ。モツ煮は出来たから、次は焼き鳥だよ」
「鳥を焼くのか? 手伝おう!」
「ありがとう、ソラくん。じゃあ、この串を、あっちの台に……て、ヒャあ!」
突風が吹いた。いつの間にか空は曇っていて、冷たい風がチラチラと粉雪を運んでいた。
おかげで、持っていた串を落としてしまったよ。しゃがんで、木串を拾い集める。
「うおおおお、ま、まさかの、パ、パパ、パン」
「パン? どうしたソラくん? パン食べたいの?」
「あ、いや、違う。えと、あーと、俺は、見てない。見てないぞお」
変なソラくんだ。何を見ていないのだろう?
まとめた木串を両腕に抱え、炊事場の方へ行く。ここはエイ先生の魔法であったかい。炊事場を囲む光温の壁は、室温も保てるし風も入って来ない。
さっきまで居たのは薪場で、とても寒かった。あんなに寒い所で作業させていたとは、ソラくんごめんねと謝る。
「光雪の神の加護があるから、大丈夫だ。いや、大丈夫です。自身に光をまとわせておりますです。あったかいですです」
どうしたソラくん喋り方がおかしいぞ。急に丁寧な言葉にしようとして失敗している感。さっきまでのフレンドリーさ、どこへ行ったの? 元気なソラくんの方がいいのだけど……。
あと、私と目が合わないの、なんでだろうね。わざと、そっぽ向いているような気がするよ。
気を取り直して、木串にブランフザンの肉を刺す作業。もも肉とネギを交互に刺すネギマを作る。
少しだけお手本を見せたら、ソラくんは器用にネギマを作ってくれた。よし、ソラくんにネギマを任せてしまおう。
私は、ぼんじりとせせりを串に刺していく。
ぼんじりは脂肪が多いからかジューシーで美味しいのよね。せせりは首のお肉のこと。希少部位だけど、ブランフザンは大きいから沢山とれた。嬉しいな。
それから、鶏皮もといブランフザン皮とむね肉を串に刺していく。鶏皮って美味しいよね。パリッパリに焼いたのが好き。コチュジャン付けて食べたいな。
そうだコチュジャン、手作りしよう。
~なんちゃってコチュジャンの作り方。~
お味噌どーん、醤油は少々、砂糖を入れて練り、一味唐辛子でお好みの辛さに調えます。
以上。
本来のコチュジャンは、もち米を糖化させたものに唐辛子を加えて作るのだけどね。
なんちゃってバージョンは日本の調味料で代用して作れるので、重宝するレシピなのだ。
唐辛子は薬研でゴリゴリした。ついでに七味もブレンドしておく。
お肉の方は、ソラくんと一緒に黙々と作業をして、串千本、打ち終えた。まだお肉が余っているけど、これは亜空間収納へ。とっておこう。
もう少し追加で木串を作ってもらおうかなと薪置き場の方を見たら、めっちゃ吹雪いていた。
「わ、すごっ。雪だらけ! 風が唸ってるし、やばくない? こんな中で行軍なんて無茶だよねえ」
銃士隊の皆が心配になる悪天候だ。山の天気は変わりやすいって聞くけど、こんなに早くホワイトアウトするなんて……。
「吹雪く前に、避難はしてると思うぜ」
あ、普通の言葉遣いに戻ったソラくん。そっちの方がいいよ。
「本当? でも、それだと、吹雪やむまで動けないよね」
帰って来れないし、お夕飯、食べれないのでは?!
そうだ、そうだよ。時刻はもう、夕方に差し掛かる。万物の神からもらったギフト、【万物説明文】で見たから間違いない。適当にその辺を見て『説明文オン』にすると、現在の時刻の吹き出しが視界の片隅に表示されるのだ。これデフォルト機能らしい。便利だね。ちなみにデジタル表示。
更に、もっと見ようとすると、『天候:北寄りの風。寒冷前線が張り出し、銃士隊駐屯地のあるヒストラル山脈一帯は猛吹雪に見舞われている。今夜はあったかくして寝ること』なんて、出てくる。
……うん、知ってた。万物の神ってこういう人。いや、神様。