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これがうちの子供達です  作者: ヴァイス
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これが俺の始まりです

何も考えずに好きな事を好きなように、適当に書きたい事を書きたいように書けるっていいよね。




「さて、先ずは現在の状況と情報整理をしようか。」


俺の名前は美倉みくら大稀だいき。親父が美倉大将だいすけ。母親が美倉美稀みき。両親の一文字ずつをとって大稀だ。


で、その両親は海外旅行が趣味で、とにかく金が貯まり、尚且つ暇が出来ると直ぐに旅行に行く。

それも幼い頃から一人息子を近所の人達に預けてだ。所謂、ダメ親という奴だな。

まあ、御近所とは今でも仲が良いので不便も虐めも一切無かったのは救いだったが。


尤も、そんなダメ親でもネグレクトも虐待なんてものも一切なく、

溢れる程の愛情で育てて貰った事は間違いないと、子供ながらに感じていた。

だからこそ、偶の……基、しょっちゅうだった夫婦水入らずの海外旅行も喜んで見送っていた。

子供ながらに、賢しらにませてたんだろうな。お土産も楽しみだったし。……まあ、それはいい。


で、だ。その両親が、今回の海外旅行中、乗ってた飛行機が墜落して、二人共即死したらしい。

そして、朝海莉斗あさみりとと名乗る弁護士がそれを態々伝えに来やがった。

だが勿論、ベンゴシサマがそんな事だけの為に来る訳がない。奴が来た本当の理由は別にあった。




何と、俺の両親は自分達に何かあった時の為に、俺に一億円づつ。

計、二億円程を保険金として俺に残していたのだ。




只でさえ、普段常日頃常時しょっちゅう年柄年中四六時中世界旅行している様な人達だ。

恐らくは、いつ自分達の身に危険が迫ってもいい様に、俺が子供の頃からそうしていたのだろう。

死んだ両親には申し訳ないが、全く以て余計な事をしてくれたものだと愚痴を零したくなる。

そんな事をするぐらいなら、もっと長生きして欲しかったのが正直な所の本音である。


「……ったく、御蔭で碌に親孝行も出来なかったじゃねえか。バカ親父にバカお袋が……。」




只でさえ、それなりに無気力に日々を生きていた俺にとって、家族の死は数少ない……いや。

唯一の生き甲斐とすら言ってもいいものを失った様なものだった。


だが、だからと言って仕事を放棄はしなかった。

『自分の仕事を途中で放り出す奴は、男では無い。況してや、人間などとは俺は認めん。』

生前からの親父の口癖でありポリシーであり座右の銘であり生きる指針でもあった。

そして当然の如く、幼い頃から繰り返し聞き続け刷り込まれ続けた俺も御多分に漏れず、

非常に悔しい事ながら、親父同様にそういう感性の基に生きているのであった。


だがそんな俺でも猶、それからの俺は、今まで以上に無気力で無機質で無貌の儘に生きていた。

¥200,000,000と書かれた預金通帳を見る度に、

両親が死んだと聞いた瞬間浮かんだ昏い妄想に、益々苛まれていく気がしていた。


と、そんな或る日の事だった。何気無くテレビを見ていた時に思い至ったのだ。



「そうだ、宝籤を買おう」と。



勿論、大金を当てる為ではない。そういう無駄遣いをして少しでも金を減らす為だ。

まあ、株に投資するとか他にも使い道は大量にあったんだろうが、

何故かこの時の俺は素晴らしい妙案だと思い込んでいた。どうにも俺はそういう傾向にあるらしい。

てな訳で大量に宝籤を買い、買った後で諸々を盛大に後悔し、

無駄に余った大量の紙切れを、バカにされつつも友人達にくれてやった。

そして、大バカやらかした記念にと自分にも十枚ぐらい残して置いた。


んで、当選番号発表当日。俺の運命の日。




おお、なんということでしょう。

まさか、とうせんばんごうがおおあたりし、

ごおくえんもてにはいってしまうとは(ぼうよみ)




そして、新たな預金通帳に記された¥500,000,000という、

文字の様な記号の様な非現実的な、しかし紛れも無く現実であるこの数字。


それを目の前にして途方にくれてる、通帳を手渡された翌日の夕方。

それが、この長いモノローグ風に始まった今現在の時間帯であった。









「さて。思い出したくない事も含めて、改めて現状を目の当たりにし、

 こうして突き付けられた訳だが。……これ、どうすっぺかな?」

因みに、俺はどこかの地方出身者という訳ではない。残念(?)ながら都会生まれの都会育ちだ。

ただ単にテンパって、何か口走っていないと落ち着かないだけだ。というかそれなりに察して欲しい。


そんな事をつらつらと考えながら夕刊をそれとなく眺めていた所だった。とある記事が目に入った。

「ん? 足長おじさん、未だ判明せず……か。」

その記事は、とある孤児院に毎月必ず何十万も寄付してくれる人の話が記事になっていた。


それによると、既に二十年以上もなるのに、毎月一度も欠かさず必ず寄付してくれるのに、

未だにその正体が判らず、お礼を言いたくても言えない為、

こうして新聞を通して感謝の気持ちを伝えたいとの事だった。

ふ~ん、奇特な人もいるもんだ。ぐらいにしか最初は思っていなかった。

だが、丁度そんな時、所謂天啓という奴が俺に舞い降りて来た気がした。




「そうだ、孤児院から子供を引き取ろう。」




そうと決めた時の俺の行動は、我ながら素早く的確なものだと多少自負している。

まあつまりは、その言葉を口に出した時には既に、俺はPCに向かって調べ物をしていたと言う訳さ。









後日、会社にて。


「なあ、美倉。」


「ん~? どうした、また何かトラブルか?」


同僚の高那たかな蒼空そら。つい一月前に、上司の旧姓・嘉内かない飛鳥あすか部長と結婚した奴だ。

何でも、実は元恋人だったとかで、嘉内……じゃねえや、高那部長に一方的にフラれたとか。

でも実はずっと同棲してたとか、口さがない連中がある事無い事を噂してたが。まあ大概嘘だろう。


で、だ。そんな奴が変な顰めっ面で俺の名前を呼びやがる。

もう終業間近のこの時間帯に、また嫁さんの事考えて呆けてやがって、

失敗でもやらかしたのかと思った。……が、どうも違う様だ。


「いや、そうじゃなくてな。……まあいいや。どうせこの後、みんなで飲みに行くんだろ?」


「ああ、いつものメンバーでな。お前も奥さん連れて来るか?

 田淵辺りは歓喜しそうだが。歯軋り鳴らしながらな。」


こいつには通じてるとは思うがな、この皮肉。

だがこいつは、何か少し考える姿勢を見せながら、珍しい事を口走った。


「……そうだな、ちょっと聞いてみるか。偶には藍澤さんの御小言も聞かないとな。」


「……珍しいな、何かよっぽどの話か。分かった、藍澤には一字一句違えずに伝えて置いてやる。」


「……そいつは勘弁してくれ。じゃあ先に行っててくれ。俺達も後で行くから。」


本当に珍しい事もあるものだ。と思いながら軽口を叩きつつ、互いに帰り支度を済ます。

と、ここでちょっと忠告と揶揄いを入れてみた。


「ああ。あ、それとな。社内でスル場合はもうちょっとうまくやれ。この前も拭き忘れてたぞ。」


「……げ。済まない、恩に着る。」


「全くだ。抱けもしない女や他人の体液を拭き取る身にもなってくれよ。じゃあ、また後でな。」


「ああ、また後で。……次からはもっと気を付けないとな。(ボソッ)」


(おい、聞こえてるぞ。というか、抑々、会社の中でヤらないでくれ。)

というツッコミは呑み込んで、後ろ手に手を振って皆が待ってる居酒屋へと向かった。









「――で。飛鳥はともかく、何でアンタまでここにいる訳?」


「あ、あすk……イエ、高那部長! ささ、御一つどうぞ……。」


「あら、有難う田淵君。…………ふぅ。はい、蒼空も。」


「ああ。……いや、ちょっとな。」


「? 珍しく歯切れが悪いね、蒼空。」


居酒屋に入った時からずっと高那を睨み続けている藍澤。……あんた、どんだけ高那が嫌いなんだよ。

こっそり下の名前で呼ぼうとして、高那に目で脅される田淵。……まだ諦めて無いのか、お前。

田淵に薦められた酒を一息で呑み干し、すぐ旦那に注ぐ高那部長。……どんだけ飲むんだ、この蟒蛇うわばみ

まだ睨み付けてる藍澤にちょっと言葉に詰まりながら答える高那。……お前、まだ藍澤が苦手なのか。

そんな高那に違和感と疑問を持つ佐藤。……流石は我が部の良心だ。


「……っておい、美倉。お前、さっきからツッコミうるさいよ。ボケキャラの癖して。」


「……お前にだけは言われたくなかったぞ、田淵。」


ダメだ、もう立ち直れない。存在自体がボケの塊の奴に突っ込まれるなんて。

因みに、俺を含めたこの六人が基本的に、俺の仲間内に当たる訳だが。……残念ながら極一部除いて。


「だから、一々口に出すなっつーの、そのモノローグ口調っぽいので。」


「癖だからな、仕方ない。」


「しょっちゅう旅行してた両親へのせめてもの皮肉にする為だっけ? アンタも結構歪んでるわねえ。」


「お前の愛情程じゃないぞ、藍澤。……好い加減、諦めるか素直になればいいものを。」


「いいでしょう、アンタ表に出なさい。今直ぐ殺戮クリークしてあげるわ。」


「もう、成美なるみも美倉も止めなさいよ。お店の人に迷惑掛かるでしょう?」


と、いつもの俺達の口喧嘩(半ば本気)を止める高那部長。

そして、この後に必ず飛んで来る、この店の大将の言葉。


「なあに、いいって事よ飛鳥ちゃん! 若いモンは元気じゃなくっちゃいけねぇや!

 大体、ウチの名物がなくなっちゃあ寂しくて仕方ねえってモンよ!!」


そうだそうだー、という声が野次の様に飛んで来る。どいつもこいつもこの暇人どもめ。

高那部長は何度も頭を下げ、その度に長い髪が右に左に揺れる。

それを見てうっとりしてる藍澤。……ほんと、屈折してるわお前。

そんな俺の心の声を機敏に察したのか、藍澤が睨んで来た。が、俺は無視して唐揚げを頬張った。






そんないつもの一幕が終わり、改めて唐揚げを注文し皆で乾杯し直してから、徐に高那が口を開いた。


「で、だ。俺が今日来た本題なんだが……美倉。」


「ん。何の用だ、高那?」


まあ、流石にあの流れで俺に用事がないと思える程、俺は鈍感では無い。……と思いたい。

そして案の定、俺に何か用がある様だった。

……しかし、態々酒の席で言う様な話か。一体何なのだろうか?


「お前、最近何かあったか?」


「は?」


その高那の台詞には俺ならずとも、皆面食らった様子だった。余りにもアバウト過ぎるだろ。


「いやそりゃ毎日何かはあるが……というか、お前等知ってるだろ、俺に起こった事は。」


「そりゃあね。親の保険金を宝籤に使い込んだ上に、大当たりして五億円貰った男。

 古今東西稀にすら見ない程の愚劣で阿呆な男としてね。」


「会社中騒然としてたねえ。特に田淵辺りが騒いでた気がしたけど。」


「うっせーよ! しょうがねえだろ!? だって二億が五億だぜ、ご・お・くっ!!」


「……俗物め。」


「……うぐっ……ゴメンナサイ。」


本当に酷い騒動だった。その事については今は割愛する。そして後でも割愛させて貰う。

ぶっちゃけ話したくない。というか思い出したくない。それはもう色んな意味で。


「それで蒼空、一体彼に何を聞きたいの?」


「……いやどうもな、最近のこいつは両親を亡くした頃に比べると、

 大分、生気を取り戻してる気がしてな。だから何かいい事でもあったのかと思ってな。」


「ああ、そういう事か。そういえば、蒼空ずっと大稀の事気に掛けてたもんね。」


「……煩いぞ、佐藤。」


そういう事か……どうやら大分心配させてしまったみたいだな。そいつは悪い事をした。

……だが、その感謝の前に、どうしても言っておかなければいけない事がある。



「……高那。頼むから、金輪際俺の後ろに立つ事だけはやめてくれ。

 俺のしょj……基、貞操がマッハでピンチだ。」


「……殺すぞ、てめえ。」



まあ冗談はさておきだ。何れこいつらには話しておこうと思っていたからな。

丁度良い機会だ、序でにその訳を話しておこう。


「まあ、確かに高那の言う事は当たっている。実は最近……というかこれからか。

 一応、良い事が待っていてな。」


「へえ……良い事、ねえ。アンタの口から出る言葉にしては最高に珍しい言葉じゃない。」


「うん、一体何があるのかすっごい気になるな。」


「そうだぜ、教えろよ! その良い事ってのは俺達にも関係あったりするのか?」


……そんなに珍しい事を口走っただろうか? こんなに皆がソワソワするのも珍しい。

だがまあいいか。俺は焦らすのはあんまり好きじゃないしな。






「いや実はな。今度、孤児院から子供を五人引き取る事になってるんだ。

 で、明日の土曜日、そいつらがウチにやってくる。全員、俺の子供としてな。」






“………………はあああああああああああああああああああ!?!?!?”









この日。居酒屋『飲吐羅いんどら』開業史上、最大の絶叫が店内に響き渡った。

唐揚げ美味しいよね。鶏肉は私にとっては至高にして究極の肉。

次は子供達視点の予定。というか書いてる最中。


因みに。弁護士の朝海あさみ莉斗りとは、

恋愛小説ネタの『迷い猫、拾いました』のヒロイン、朝海あさみ瀬莉菜せりなの実兄だったりします。

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