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004 レトルトカレー・ライスを持ち込むなっつーの!

 鈴木が異世界転生者の巻き添えを喰らい、異世界〈リィンカチートア〉へやってきてから数日が過ぎた。


(毎日毎日、杉本さんが作るトースト、ハルトなんたら自販機で販売中のコーヒーとの組み合わせ……、流石に飽きるっつーの!)


 例え、大人気ハンバーガーチェーンが近所にできたとて、ありがたく買いに行くのは、最初だけ。

 次第に行く回数が減り、いずれ行かなくなる。

 それと同じ感覚だ、と現在の鈴木は感じていた。


(何か良い物はないのかっつーの! ん?)


 鈴木が見つけたのは、フォークとスプーンがクロスした看板の食堂だった。


(そういや、佐藤さんから食い物屋なら山程ある、でも慣れてからじゃないとキツイぞって言われた気もするっつーの)


 佐藤の忠告を無視して、鈴木は食堂の扉を開けた。


 ◇リィンカチートア レストリアマッキゾォーエ◇


「いらっしゃいませー! あなた、転生者?」


(いきなり変な質問するなっつーの!)


「いえ、違いますけど……、転生者以外はお断りな感じですか?」


 女性店員は食堂内を見渡した後、軽く頷いた。


「うんうん、今は転生者はいないみたい……だから大丈夫かな」


 今は転生者はいないみたい。

 その言葉が引っかかった鈴木は、女性店員へ理由を尋ねた。


「あー、それはですね……これが原因ですかね」


 女性店員が出した物。

 それは、『食の探求神たる狩屋イチバ監修・絶品旨味狩屋カレー 中辛』と書かれた箱であった。


「あっ! それはもしかして……レトルトカレー!」


 鈴木が食堂内に響き渡る声で、地球の言葉を発すると、周りで食事をしていた客の視線が、鈴木へ一斉に向けられた。


(はっ? なんだっつーんだ?)


 鈴木が呆然と立ち尽くしていると、剣を背中に携えた冒険者らしき一人の客が、鈴木の元に向かって来た。


「おい、兄(あん)ちゃんよ。いくら巻き添えを喰らった地球人だからって、ちょいと声が大き過ぎないかい?」


「はっ? これはどう見てもレトル――」


「やめろやめろ! ていうか味原の嬢ちゃんもそんなもん出すなよ、もし検監視共や転生者がいたらどうすんだよ」


(あれ? 明らかに地球人じゃないっぽいのに、日本語を話せるのはおかしいっつーの!)


 味原と呼ばれた女性店員は窓の方へ向かい、外の様子を伺い始めた。


「兄ちゃんが巻き添えを喰らい一般モブの地球人として、この世界で生きなきゃならない事は、別の世界からリィンカチートアへ来た人間なら知ってるよ。俺も同じ……」


 冒険者の男は自らの名を、アイシュヴェルトと名乗り、アイシュヴェルトという名を聞いた鈴木は、アイシュヴェルトについての記憶が甦った。


「アイシュヴェルト……、お前は架空のキャラのはずだろっつーの!」


 鈴木の問いに対して、アイシュヴェルトは冷静に返事を返した。


「話が長くなるが……、俺が住んでいた世界が、まさかの架空の世界だったという事が信じられなかった、でもな! 俺が所属していた勇者パーティー『月光の星』のリーダーは、実は中身が日本人だったんだぜ! 勇者は栄光に飽きたからとかいう身勝手な理由で、激流の滝へ身を投げだそうとしたのを止めようとしたら、俺も一緒に激流の滝に身を投げちまった……、巻き添えだよ」


 アイシュヴェルトの長話を聞き終えた鈴木が考えていた事、それは……。


(なんで架空の作品の強キャラが、この世界で一般モブになってんだっつーの!)


「アイシュヴェルトさん、他にもあなたと同じ境遇の方はいるんですか?」


「ああ、いるさ。俺が所属している巻き添え冒険者同盟は、地球人の巻き添え同盟と永久的な同盟関係にある。だからモブコロニの街は平和なんだよ」


 鈴木とアイシュヴェルトが座る席へ味原が近づいて来た。


「あのー、地球人の方、ご注文を……」


 鈴木が注文しようとした時、タイミングが悪い事に、検監視の騎士が店に入ってきてしまった。


(こ、これはまずい……さっさと注文すれば良かったつーの!)


 目の前で表情が青ざめていく鈴木を見て、耐えかねたアイシュヴェルトが言葉を発した。


「店員さん、『食の探求神たる狩屋イチバ監修・絶品旨味狩屋銀袋の茶とろみ汁の中辛と、食農神農村コメル様がもたらした、リィンカ麦から作られた白粒の大山』を二人前ね」


「はい、ご注文繰り返します。『食の探求神たる狩屋イチバ監修・絶品旨味狩屋銀袋の茶とろみ汁中辛、と食農神農村コメル様がもたらした、リィンカ麦から作られた白粒の大山』を二人前ですね、少々お待ちくださいー!」


 ◇しばらく後◇


 隣の座席で食事をする検監視を尻目に、レトルトカレーライスを食べ終えた二人は、会計台へ向かった。


「はい、お二人合わせて1100冨です」


「はい、ちょっと待って――」


「兄ちゃんとは仲良くなれそうだからよ、今日は俺の奢りだ」


「あ、ありがとうございます……アイシュヴェルトさん」


「良いって事よ、じゃあまた来るぜ! 味原の嬢ちゃん」


「ありがとうございました!」


 アイシュヴェルトは店から出て行った。

 こうして鈴木は、異世界の食堂でレトルトカレーライスを食べる事ができたのであった。



(検監視も長い名前の料理を注文してたっつーの、流石だっつーの)



 続。

【この話の転生者】

 レトルトカレーの転生者は、狩屋一番〈カリヤ イチバン〉。

 巻き添え同盟員達が暮らしていた地球で、『毎日レトルトカレーを使ったアレンジレシピを作って食べます』というコンセプトの動画チャンネル『狩屋毎日カレー道』の投稿者。

 ある日、コラボ企画と見せかけたドッキリ企画『デスソースを使ったレシピはどちらだ!』を撮影中、誤って自分がデスソース入りカレー料理を一口喰いした結果、辛さに耐えられず悶絶する。

 その際中に突如として、リィンカチートアへの転生魔法陣が発動した結果、リィンカチートアの美食貴族のカリヤーヌ侯爵家の後継ぎの子〈イチバ〉として生を受ける。

 この際に巻き添えを喰らったコラボ相手は、禁忌に触れた為、処刑済み。


 ライスの転生者は、能村野 おこめ〈ノウムラノ オコメ〉。

 現代知識系作品にどハマりしていた能村野は、〈異世界の悪役農家に生まれ変わったなんたら〉という作品のファンイベントの帰りに、歩きスマホをしていた所、田んぼの中に頭からハマる。

 しばらくして能村野を助けに来た畑の持ち主だった味原が、能村野の頭の下に待ち構えていた転生準備状態の魔法陣の中に入ってしまい、味原は文面崩壊後のリィンカチートアへ巻き添え転移してしまう。

 しかし能村野は、凶作の呪いによって、崩壊するはずだった農村の村長の一人娘〈コメル〉として、リィンカチートアへ転生する。

 だがチートスキル〈豊作降臨〉と大好きな原作の知識を用いた結果、凶作の村を無理矢理、再興する事に成功。

 リィンカ米、リィンカ麦の名産地として、能村野が転生した村は、今も存在する。

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