エピローグ
エピローグ
――夜を越えて
東京に朝が来た。
それは、あまりにも普通の朝だった。
東の空が白み、やがて高層ビルのガラス窓が淡い橙色を映し始める。
始発電車が走り出す。
新聞配達のバイクが住宅街を抜け、コンビニエンスストアには夜勤明けの会社員が立ち寄り、眠そうな学生が駅へ向かう。
道路では配送トラックが列を作り、信号機はいつもと変わらない順番で赤から青へ変わっていく。
東京という巨大な都市は、自分が昨夜どれほど死に近づいていたのかなど知らないかのように、いつもの一日を始めていた。
地下深く。
地図にも載っていない場所で何が起きていたのか。
そこに何が眠っていたのか。
何人の人間が、その扉を閉じるために戦ったのか。
ほとんどの人間は知らない。
そして、おそらくこれからも知らない。
それでいい。
九条ホオズキはそう思った。
*
地下施設崩落事故。
それが、政府によって発表された事件の名称だった。
長期間にわたり犯罪組織が使用していた大規模地下施設で爆発事故が発生し、一部が崩落。
警察および関係機関が施設を摘発し、多数の監禁被害者を救出した。
周辺区域への危険はない。
詳細は捜査上の理由により公表できない。
記者会見では、そんな説明が繰り返された。
記者たちは当然、食い下がった。
なぜ都心地下にこれほど巨大な施設が存在していたのか。
なぜ警察だけではなく、自衛隊に関係する車両や特殊部隊らしき人員が目撃されているのか。
SNSに投稿された奇妙な映像は何なのか。
銃声は。
爆発は。
夜空を飛んでいたという人影は。
病院へ搬送された人間の中に、説明のつかない傷を負った者がいるという話は本当なのか。
政府は答えなかった。
警察も答えなかった。
答えられるはずがなかった。
東京の地下に、人間を食料として利用する存在が社会を築いていたこと。
そして、そのさらに下に、人類の歴史よりはるか以前から生き続けていた吸血鬼たちが眠っていたこと。
十三基の休眠槽。
始祖級吸血鬼。
分類名――《ノア》。
それらが一斉に地上へ出ていれば、東京が物理的に消えてなくなるわけではなかった。
もっと現実的で。
だからこそ、もっと恐ろしいことが起きていた。
行政。
警察。
医療。
交通。
通信。
物流。
都市を都市として成立させている機能が、一つずつ破壊されていく。
数百万、数千万の人間が生きる都市に、人間を捕食する存在が解き放たれる。
それだけで十分だった。
東京は死ぬ。
建物を残したまま。
道路を残したまま。
人間社会だけが崩壊する。
その未来は阻止された。
ただし。
完全に解決したわけではない。
*
「……反応なし」
PMCヤタガラス本部。
情報システム部。
久世冬馬は三台のモニターを見ながら呟いた。
画面には、地下施設から回収された大量の記録が表示されている。
正確には、その残骸だった。
爆発。
浸水。
停電。
構造崩壊。
複数の記録媒体が失われた。
それでも久世は、生き残ったデータを執拗に拾い続けていた。
「十三基、全部か?」
背後から榊原宗一郎が尋ねた。
「現在確認できる範囲では」
久世が眼鏡を押し上げる。
「最終記録は全基《SLEEP》。循環系停止。血液供給停止。巨大搬送設備も完全に沈黙しています」
「再起動の可能性は」
「電力だけならゼロではありません。ただし根幹制御そのものを吹き飛ばしましたからね」
久世はキーボードを叩いた。
施設の概略図が表示される。
中心部分の大半は赤く塗り潰されていた。
「少なくとも、人間が知らずにスイッチ押して再起動、なんてことはありません」
「そうか」
榊原は短く答えた。
それから少し間を置く。
「母個体は?」
久世の指が止まった。
「不明です」
それだけは変わらない。
最深部。
始祖級の中でも特異な位置にいた個体。
施設崩壊直前まで活動していた存在。
崩落地点から血液反応は検出された。
組織片もあった。
だが、それが死亡を意味するのか。
誰にも判断できなかった。
「捜索隊を入れるのは?」
「当分無理でしょうね。地下構造そのものが崩れています。無理に掘れば、上まで落ちかねません」
「なら、監視だけ続けろ」
「了解」
久世が答える。
榊原は部屋を出ようとして、足を止めた。
「久世」
「はい?」
「今日は帰れ」
「……まだ解析が」
「帰れ」
「しかし」
「命令だ」
久世はしばらく黙った。
そして、ようやく椅子の背にもたれる。
「副代表」
「なんだ」
「今どき、部下に帰宅を命令する管理職って珍しいですよ」
「黙って帰れ」
久世は小さく笑った。
「了解」
部屋の隅。
機材ラックの上では、猫の少佐が丸くなって眠っていた。
世界が滅びかけたことなど知ったことではないという顔だった。
*
医務室では御影紗夜が包帯を巻き直していた。
「痛っ」
「動くからです」
医療担当者が冷たく言う。
「動いてません」
「動きました」
「呼吸しただけです」
「呼吸で傷口が開くなら重傷です」
「……理屈が強い」
隣のベッドから笑い声がした。
篠宮レイナだった。
こちらも肩と脇腹を固定されている。
「紗夜さん、完全敗北ですね」
「あなたも人のこと言えないでしょう」
「私は大人しくしてます」
「さっき廊下で歩いてましたよね?」
「あれはリハビリです」
「食堂まで?」
「栄養補給も治療の一環です」
二人が睨み合う。
そこへ神代蓮司が入ってきた。
「いやあ。元気そうで何より」
「何しに来たんです?」
レイナが尋ねる。
「お見舞い」
蓮司は果物の入った袋を持ち上げた。
「珍しいですね」
「俺を何だと思ってる?」
「女好き」
「否定はしない」
即答だった。
紗夜が呆れる。
「神代さんも肋骨やってるでしょう」
「三本な」
「寝ててください」
「暇なんだよ」
「帰ってください」
「扱いひどくない?」
三人の声が医務室に響く。
笑い声まで混ざる。
それを廊下から聞いた榊原は、中へ入らなかった。
ただ、一瞬だけ目を細めた。
生きている。
全員。
それだけで十分だった。
*
アウレリアも生きていた。
重傷。
全身に複数の損傷。
長期間の治療が必要。
そして回復した後には、彼女が人間社会で何をしてきたのかについて、法の場で問われることになる。
彼女は被害者ではない。
多くのことを知っていた。
多くのことに関わっていた。
彼女自身が犯した罪もある。
それは消えない。
一方で。
最後の瞬間。
彼女は母を拒絶した。
自分を生み、自分を支配してきた存在に背いた。
そして人間たちが十三基の休眠槽を止めるための時間を作った。
その事実もまた消えない。
善人か。
悪人か。
味方か。
敵か。
そんな単純な線では分けられない存在だった。
だから人間は裁判をする。
証拠を集め。
証言を聞き。
行為を一つずつ確かめ。
責任を決める。
地下の王が気分一つで生死を決めていた世界とは違う。
時間がかかる。
面倒だ。
間違えることもある。
それでも、人間はそのやり方を選んだ。
ホオズキはそれでいいと思った。
*
一週間後。
九条ホオズキは本部へ戻った。
「代表」
受付で呼び止められる。
「何?」
「医師から、『まだ安静』との連絡を受けています」
「歩行可能とも書いてあるでしょう」
「歩行可能と勤務可能は違います」
「デスクワークなら」
「副代表から命令があります」
嫌な予感がした。
「なんて?」
「代表を働かせるな、と」
ホオズキは黙った。
「……榊原」
「聞こえているぞ」
奥から声がした。
見ると、榊原が書類を抱えて立っていた。
「私はもう大丈夫よ」
「大丈夫な人間は脇腹に包帯を巻いて出社しない」
「軍にいた頃なら、この程度で休暇なんて」
「ここは軍ではない」
ホオズキが口を閉じる。
その言葉には弱かった。
ここは軍ではない。
だからこそ、自分で作ったのだ。
「代表」
榊原は少しだけ声を柔らかくした。
「部下に休めと言うなら、自分も休め」
「……分かったわ」
「本当か?」
「午後から休む」
「今帰れ」
「榊原」
「帰れ」
「副代表が代表に命令するの?」
「会社を潰したくないのでな」
そこへ久世が通りかかる。
「代表が過労で倒れた場合、労災ってどうなるんですかね」
「久世」
「はい」
「余計なこと言わないで」
「了解」
逃げるように去っていった。
ホオズキはため息をつく。
受付のソファでは少佐が寝ていた。
まったく緊張感がない。
「あなたまで私を馬鹿にしてるの?」
猫は片目だけ開けた。
そして、また閉じた。
「……そう」
どうやら肯定らしい。
*
本部を出ると、一台の黒い車が停まっていた。
運転席のドアにもたれ、腕を組んでいる大柄な男がいる。
黒崎剛士。
ホオズキは足を止めた。
「どうしているの」
「榊原から連絡が来た」
「裏切り者」
「お前を家まで連れて帰れと」
「子供じゃないわ」
「知ってる」
「一人で帰れる」
「それも知ってる」
「なら」
「俺が送りたいんだ」
言葉が止まる。
黒崎は助手席のドアを開けた。
「乗れ」
「……警察官が民間人を強制連行?」
「任意同行だ」
「断ったら?」
「説得する」
「どれくらい?」
「乗るまで」
「それ強制じゃない」
黒崎の口元がわずかに動いた。
笑ったらしい。
ホオズキは諦めて助手席に乗った。
*
車はゆっくりと東京を走った。
窓の外では、いつもの街が流れていく。
交差点。
歩行者。
自転車。
宅配便。
工事現場。
学校帰りの子供たち。
誰も知らない。
あの夜。
自分たちの足元で何が起きていたのか。
「静かね」
ホオズキが言った。
「ああ」
「なんだか変な感じ」
「何がだ」
「もっと何か変わると思っていた」
黒崎は前を見たまま答える。
「変わっただろ」
「どこが?」
「俺たちは知った」
ホオズキが横を見る。
「警察も政府も、自衛隊も、ヤタガラスも。少なくとも、知ってる人間はいる」
「世界は何も変わってない」
「世界なんて、そんなもんだ」
信号が赤になる。
車が止まった。
黒崎が続ける。
「一晩で全部変わるほうが珍しい」
「……そうね」
「知った奴が覚えてりゃいい」
ホオズキは窓の外を見る。
横断歩道を、小さな女の子が母親と手を繋いで渡っていた。
笑っている。
母親も笑っている。
ホオズキは、その姿を目で追った。
「剛士」
「なんだ」
「私たち、勝ったのかな」
黒崎はすぐには答えなかった。
信号が青になる。
車が走り出す。
少ししてから言った。
「東京は残った」
「うん」
「部下も帰った」
「うん」
「お前も帰ってきた」
そこで黒崎は一度だけホオズキを見る。
「俺には十分だ」
ホオズキは何も言わなかった。
ただ、ほんの少しだけ笑った。
*
夜。
二人はホオズキの家の前まで来ていた。
車を降りたところで、ホオズキが空を見る。
東京では星が少ない。
街灯。
ビル。
看板。
人間が作った光が夜を薄めている。
「吸血鬼って」
ホオズキが言った。
「昔は、この夜が自分たちのものだと思っていたのかしら」
黒崎が隣に立つ。
「かもしれんな」
「人間が火を作って、街を作って、夜まで明るくした」
「ああ」
「それが気に入らなかったのかも」
「考えすぎだ」
「そう?」
「あいつらが何を考えてようが関係ない」
黒崎らしい答えだった。
ホオズキが笑う。
「身も蓋もないわね」
「夜が誰のものかなんて、決める必要もない」
黒崎は夜空を見上げる。
「生きたい奴が生きればいい」
ホオズキはしばらく黙っていた。
そして小さく言う。
「そうね」
風が吹いた。
黒い髪が揺れる。
黒崎が手を伸ばし、ホオズキの頭に触れた。
「なに?」
「確認だ」
「何の?」
「生きてるか」
「……馬鹿」
「地下から出てきた時、ひどい顔してたからな」
「あなたもでしょう」
「俺は地上にいた」
「顔が」
「生まれつきだ」
ホオズキが吹き出した。
傷に響いた。
「痛っ」
「だから笑うな」
「あなたが笑わせたんでしょう」
「俺は真面目に話してる」
「余計おかしい」
黒崎が困った顔をする。
あの夜。
崩落した地下施設からホオズキが地上へ出た瞬間。
黒崎は彼女を抱き留めた。
血と埃にまみれ。
呼吸もまともにできない状態だった。
それでも彼女は最初に聞いた。
――全員、帰った?
自分のことではなかった。
いつもそうだ。
だから黒崎は、この女から目を離せない。
「ホオズキ」
「なに」
「次は」
言葉が止まる。
黒崎は少し考えた。
「もう少し楽な仕事にしろ」
ホオズキは笑った。
「依頼人に言って」
*
さらに数日後。
PMCヤタガラス。
朝八時三十二分。
作戦会議室。
榊原が書類を広げている。
久世はコーヒーを飲みながら端末を操作している。
紗夜はまだ肩を固定している。
レイナも完全復帰には遠い。
蓮司は椅子を後ろへ傾けていた。
「神代」
榊原が言う。
「はい」
「椅子」
「はい?」
「戻せ」
「これくらい――」
「戻せ」
椅子の脚が床につく。
少佐は会議机の中央に座っていた。
「で」
蓮司が猫を見る。
「なんでこいつが一番いい席なんだ?」
「少佐だからでしょう」
レイナが答える。
「階級、俺より上?」
「たぶん」
「納得いかねえ」
「本人に言ったら?」
蓮司が少佐を見る。
少佐も見る。
三秒。
「……やめとく」
「賢明ですね」
ドアが開いた。
九条ホオズキが入ってくる。
全員が彼女を見る。
まだ完全には治っていない。
歩き方にもわずかに硬さがある。
それでも。
九条ホオズキは、いつもの九条ホオズキだった。
「おはよう」
「代表」
榊原が眉を寄せる。
「医師の許可は?」
「取った」
「本当に?」
ホオズキは紙を出した。
「ほら」
榊原が読む。
長い沈黙。
「『短時間勤務に限り可』」
「だから来たの」
「二時間で帰れ」
「三時間」
「二時間」
「二時間半」
「……二時間半だ」
蓮司が呟く。
「交渉成立すんのかよ」
「代表と副代表ですから」
レイナが答えた。
ホオズキは自分の席に座る。
そこから全員を見た。
榊原。
久世。
紗夜。
レイナ。
蓮司。
傷だらけだ。
疲れている。
失ったものもある。
忘れられない光景もある。
地下で見たもの。
殺された人間。
監禁されていた人々。
人間ではない存在。
そして。
あまりにも長い時間を生き続けた怪物たち。
これから調べなければならないことは山ほどある。
世界のどこかには、まだ吸血鬼がいる。
人間社会に紛れた者もいる。
人間と敵対しない道を選んだ者もいる。
再び牙を剥く者もいるだろう。
始祖級についても、すべてが分かったわけではない。
だが。
今は。
それでいい。
「それでは」
ホオズキが言った。
皆が彼女を見る。
「通常業務に戻りましょう」
一瞬。
誰も反応しなかった。
そして蓮司が言う。
「……通常業務?」
「そうよ」
「世界滅亡阻止した次の日から?」
「次の日じゃないでしょう」
「比喩ですよ」
「依頼は待ってくれないわ」
久世が端末を見る。
「実際、溜まってますね」
「何件?」
「二十七件」
「増えすぎでしょう」
紗夜が顔をしかめた。
「地下施設の件で名前が出たせいですね」
「表向きは民間警備会社なのに」
「PMCです」
「日本ではだいたい同じ扱いですよ」
「夢がないなあ」
「神代さんは請求書出してください」
「なんで俺だけ?」
「装備三つ壊してます」
「命と引き換えだぞ」
「会社の備品です」
「世知辛い」
会議室に笑いが起こった。
小さな笑いだった。
でも。
確かに人間の笑い声だった。
*
その日の午後。
一本の電話が鳴った。
受付担当が受話器を取る。
「はい。PMCヤタガラスです」
しばらく話を聞く。
「少々お待ちください」
内線が鳴った。
ホオズキが取る。
「九条です」
『代表、新規依頼です』
「内容は?」
『少し変わった依頼なんですが……』
ホオズキは窓の外を見た。
昼の東京。
車が走っている。
人が歩いている。
遠くで工事の音がする。
街は生きている。
昨夜も。
今日も。
明日も。
人間は問題を起こす。
誰かが誰かを傷つける。
何かを奪う。
嘘をつく。
争う。
怪物などいなくても、人間だけで十分に恐ろしいことをする。
それでも。
助けを求める人間もいる。
誰かを守ろうとする人間もいる。
見ず知らずの誰かのために危険な場所へ向かう人間もいる。
怪物が本当に存在する世界になっても。
結局、人間のやることは変わらない。
生きる。
守る。
帰る。
そしてまた、次の日を迎える。
「分かった」
ホオズキは答えた。
「私が聞くわ」
回線が切り替わる。
受話器の向こうから、不安そうな声が聞こえた。
ホオズキは静かに背筋を伸ばした。
九条家の娘でもない。
軍人でもない。
特殊部隊の小隊長でもない。
あの地下で怪物と戦った英雄でもない。
PMCヤタガラス代表。
九条ホオズキとして。
彼女は答えた。
「お電話ありがとうございます」
窓から差し込んだ午後の光が、机の上を照らす。
その端には、古びた千円札が透明なケースに入れて置かれていた。
忘れないためのもの。
誰のために仕事をするのか。
何のために武器を持つのか。
それを忘れないために。
ホオズキは微笑んだ。
「PMCヤタガラスです」
そして。
「ご依頼を、お聞かせください」
*
人間は長いあいだ、夜を恐れてきた。
暗闇の中には怪物がいる。
そう信じて。
火を焚いた。
家を作った。
街灯を立てた。
都市を築いた。
やがて夜は、人間の光で満たされた。
けれど。
怪物はいなくなったわけではなかった。
彼らはずっとそこにいた。
暗闇の中で。
地下で。
歴史の隙間で。
人間に見つからないように息を潜めていた。
そしてついに。
人間と怪物は出会った。
どちらか一方が滅びることはなかった。
世界が終わることもなかった。
ただ。
人間は知った。
自分たちだけが、この世界の住人ではないことを。
そして怪物も知った。
人間は、かつての弱い獲物ではない。
牙もない。
爪もない。
長命でもない。
銃弾一発で死ぬ。
血を流せば弱る。
恐怖も感じる。
それでも。
仲間を守るためなら夜の底まで降りてくる。
何千年生きた怪物を前にしても武器を構える。
そして。
帰る場所がある限り。
何度でも立ち上がる。
夜は終わらない。
怪物も消えない。
人間の争いも消えない。
だから。
夜を歩く者が必要になる。
誰かが恐怖で動けなくなった時。
誰かが助けを求めた時。
誰も行きたがらない場所へ行く者たち。
三本足の烏は。
今日もまた。
夜の向こうへ飛んでいく。
---
『ヤタガラス ― 夜を喰らう者たち』
完




