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妄想英雄 ー俺の黒歴史が今では世界の希望らしいー  作者: 没太郎
第二部 断罪の獣編
20/72

第十八話 マナは逆流する

焦るな俺落ち着け俺……いや焦りはしろ俺。


ラグ姐も明らかに無理してる マリアも大人から少女姿に変わり戻る気配がない……戦況を一気に覆せる様な火力は既にないのだろう。


マクスウェルを倒す為に妄想を……いや違う。倒す為の妄想じゃダメだ。あくまでそれは純粋な対立『処刑目録』と何ら変わらない 視界を狭めているだけ


マクスウェルを知る。マクスウェル立場に立つ。マクスウェルの目で見る。


俺はマクスウェル目線でラグ姐とマリィを倒す為に妄想しなければいけない……一旦切り替えろ彼女達を救う為に彼女達の敵になるんだ……自分の中にマクスウェルを落とし込め。


俺は目を瞑り、得ている数少ない情報とかつて描いた『祈りの物語(せかおう)』そして、その他諸々を掛け合わせてマクスウェルという人間を自分の中に構成する。


「貴方、実に”怠惰”デスねぇ……」


あぁ……絶対違う……コレ


アイツはもっと取り繕う……目に見えて狂人じゃないんだ……表面は真っ白に見えてその中はどす黒く我が強い。何より自分の信じるているものこそ正義だと思っている だから否定されたり、都合が悪くなると逆上する


ラグ姐と初めて出会った時もそうだ……否定出来ず、取り繕いはしたが態度は明らかに表面に出ていた。


そして、絶対的に言える事が一つある……アイツはイレギュラーに弱い。


俺がここに降り立った時、そして俺が姿を変えた時、鉛筆を具現化した時も、アイツは目の色を変えた…予測が出来なかった事が起こると彼は必ず真っ白が剥がれる。


俺はマクスウェルの意識でラグ姐とマリィ見る。アイツがどう見てどう判断するのかを感じ取る為に。


自分の視点、戦闘の全体図と妄想で作り出したマクスウェル視点を自分の中で複合するイメージだ……。


(………来い来い来い来い)



「……見えた()()()



ラグ姐の方向が響く。


彼女は回避など眼中にないとばかりに、地を蹴り、剣を振るいながら真正面からこっちに突っ込んでくる


 「ッらああああッ!!」


それに応じる様に()は自然と口にする。


 「――爆贖・イグナ」


その瞬間、マリアがラグ姐を後ろへ弾き、代わりに前へ飛び出した。


吹き上がる爆炎。彼女は煤だらけになりながら、俺を押し留める。


(頑丈すぎる)


詠唱後の硬直を狙い、ラグ姐が横薙ぎの斬撃を入れようと距離を詰めてくるが私は咄嗟に無詠唱で魔弾を撃ち、間合いを取り直す。


(ッ!?)


しかしその背後――


既にマリィが滑り込んでいた。


連撃、蹴り、掌底――全て迷いなく急所を狙った洗練された近接武術を私の懐に入れ込んだ………がボウッと白いオーラが瞬時に展開され、全ての衝撃が霧散する。



ーーポタッ。手の甲に、熱を帯びた一滴が落ちる。その時、視界がぶれて、マクスウェルの妄想視点がぶつりと途切れた。


「ガハァッ!! はぁ……はぁ……」


(鼻血……コレ思ってたより負荷がヤバいみたいだぜ……)


けど――見た甲斐は確かにあった。

今のマリアの踏み込みに対するマクスウェルの反応、それはあまりにも不自然だった。


あれは完全に、予測不能なタイミング。

イレギュラーな状況に対して、アイツは常に脆さを見せてきたはずなのに……今回は違った。

寸分の狂いもなく、白いオーラを展開していた。


未来が見えていた? それは違う。

見えているなら、もっと最適な行動があったはずだ――例えば、そもそもマリアを近づけさせないとか。


そうなると……やはり魔法なのか?

けど、見えてもいない相手に対して防御魔法を瞬時に打てるか?


……じゃあ、常時展開している?

だが、あれだけの攻撃魔法を連発しておきながら、防御魔法を常時張るなんて非効率すぎる。

ゲーム知識で言えば、あんなのMPの無駄遣いだ。リソース管理がガバガバになる。


なのに――アイツはまるで、それが「当然そこにあるもの」であるかのように振る舞っていた。

咄嗟に構えた様子もなく、防御姿勢を取るでもなく。


その時、ふと脳裏に浮かんだ。

『魔王 やたら高度な爆破呪文ばかり使う 頭チリチリ』

アフロマリアの、あのどうでもいいような言葉が、唐突に意味を持ち始める。


いや……あるのが当然なんだ。

爆破呪文を至近距離で直撃させたのに、あいつは無傷だった。

それがすべてを物語っていた――

あの白いオーラは、「使う魔法」ではなく、「常に在る魔法」だったんだ。


じゃあどこからそのリソースを確保してる まさかチート持ちってオチじゃないだろうな……だとすればすごく困る


どうしよう全く浮かばない どこを捻じ曲げればいいのか


俺の視線が、無意識に戦場の外れへ向かう 地に伏しているのは、マクスウェルに付き従っていた者達。その装備が、頭に浮かぶ。 剣、短刀、ナックル、あっても弓。ほとんど体術に特化した構え。


……魔法職がいない


猪突猛進なラグ姐を消したかった彼が近距離を警戒するのは理に叶ってる。叶ってるけど白オーラという物理も魔法も防げる絶対的な防御があるのに、あえて近接特化で固めた理由は引っ掛かる。魔法職を入れなかった理由が何か………いや……あるぞ


一つだけ妄想で浮かび上がる。



……まさか。



吸っているのか。周囲全てのマナを。


……いや、流石にそれは憶測が過ぎる。


そもそもマナなり魔素なりがまず存在するのかがわからないし……


「あぁーごちゃごちゃうるせぇぜ!! 魔法が存在するんだしてもいいだろうが!!」


思考の泥に沈む自分を振り払うように、叫び声が喉を突いて出た。


これが当たりならーー

規格外のマリアが、今は素手で戦っている理由も、魔法職を編成に入れていなかった理由も、白い結界を常に展開しながら、魔法を撃ち続けていられる理由も――


全部説明がつく


「ハハッ……そんなのズル過ぎる………けど」


お前の敗因は、その狡猾さそのものになるだろうぜ。


俺は筆を走らせる。簡潔にして中立であるマナのルールを少しだけ捻じ曲げる為に


『マナは逆流する』


その時、ノートの表紙が、かすかに脈打った。


ページの地が白く淡く光り、書き込んだ7文字が、金のインクのように浮かび上がる。


焼き付くように、静かに、しかし確かに。


“真・せかおう”がそれを――認証したのだと理解した。


この言葉は、この世界の“理”を更新するに足る、と。


「……通った……!」


俺の指先に、ひりつくような感触が残った。まるで、ほんの少しだけ、世界の根幹に触れてしまったような――そんな感覚。


空気がざわつく、熱でも冷気でもない。音とも光とも違う、名状しがたい“ずれ”のような振動。

軋むような耳鳴りと、肌をなぞるような違和感。世界の基盤がゆっくりと歪んでいく。


俺は直ぐに対立する三人の様子を確認する。


するとーーあのマクスウェルの詠唱。あれが、妙に遅く感じた。


「……爆贖・イグナ」


言葉のキレが鈍い。魔法陣の展開も、どこかもたついてる様に思えた。


さっきまでの切れ味がない。それだけじゃない。


「……っ!?」


明らかに白オーラが、ラグ姐の剣の斬撃に対して、ワンテンポ……遅れた。


ギリギリで間に合ったが、刃が掠め、火花が散る。


マクスウェルが、わずかに眉をひそめながら次の爆破魔法――発動はしたが、爆風が浅い。音も熱も、どこか貧弱……威力が落ちている!!


そこをマリアの拳が、その爆風の隙間を縫うように突き込む。


「ぐぅ……!」


白オーラが展開される。遅いし薄い。さっきの密度じゃない。まるで、“詰まってる”みたいに。


「なぜだ……突然……そんな……はず……」


マクスウェルの口元がひくつき、俺の口元は自ずと笑みがこぼれる


――気づいたか? マクスウェル


そうだ、今、この世界のマナの流れは、逆流している。


スキルにしろ魔道具にしろ魔法にしろ、ずっと吸い込みっぱなしのマクスウェルは、いわば掃除機……そして俺はその掃除機無理やり濡れた紙くずを吸わせた……逆流するマナをな。


吸ったはいいが、排出できない。供給は止まらず、内部は膨れ、流れに対し逆流というルールが加わったマナは吸い込み続ける限り逆向きに圧が跳ね上がるだろうと踏んだ。


今の彼の魔法陣はノイズまみれ。白いオーラも魔弾も、起動すら危うい状態。


吸引力の変わらないただ一つの掃除機なら分離機構で多少は耐えられたかもしれないけど――

そうじゃなかった。アイツは紙パック式掃除機だったって訳だ


「俺の妄想勝ちだぜ……物語の一部になれ マクスウェル」


“真・せかおう”のページが、金色に脈打つたびに、マクスウェルの周囲の魔法陣が更に不安定なノイズを帯びる


ラグ姐が斬りかかる。マクスウェルは魔導弾を撃つ――が、軌道がぶれた。狙いが甘い。


マリアの蹴りが潜り込むと白いオーラが……出遅れた。


ラグ姐の剣がマクスウェルの肩を斬り裂き、赤い筋が舞う。


「……っが……!」


マクスウェルの息が乱れる。焦りからか、詠唱に入る。


「爆贖・イグナ——ッ!!」


だが、魔法陣はもう持たない、線がブレ、光が揺らぎ、構文の最後の一語が霧散する。


「なっ……!? なぜだ……構文は正しい……なのに……!」


それでも彼はなお、魔導弾を放とうとした。だが――


砲口の先から出たのは、火花だけだった。


そこに――ラグ姐の膝蹴りが叩き込まれる。


「ぬらぁッ!!」


胴体がくの字に折れる。


追撃。マリアの拳が胸元を打ち抜く。


光の奔流……白い防御結界がかすかに点滅するが、それももはや限界だった。


マクスウェルの身体が、もんどり打って地に崩れる。


膝をつく。その場に、立ち上がれず、踏みとどまるのがやっとだった。


世界が静まる。


魔法は収まり、空気に満ちていた焦げ臭い圧力が薄れていく。


俺は、筆を持ったまま、ゆっくりとその場から立ち上がる……俺の姿は理想の英雄姿からぽっちゃり再び戻り、歩いていく先には、すでに二人の姿があった。


ラグ姐が左側から剣を肩に担ぎ、血と煤にまみれた姿で睨みを利かせて、マリアは右、無表情に冷たくマクスウェルを見下ろし逃げ道を塞いでいた。


三方向を囲んだ静かな包囲。その中心で、マクスウェルはなおも膝をついたまま、ふらつく手で法衣の裾を握りしめていた。白い法衣の肩は裂け、血も滲んでいる。何発も喰らった蹴りで肋骨も何本か折れてるはずだ。


それでも、あいつは口を開いた。


「……なにを、した……お前は……何を、した……ッ!」


その目は怒りよりも、焦りと困惑で濁っている。だって俺が戦っていたわけじゃない。あいつからすれば、“後ろで傍観していた奴”が、何かを仕込んだとしか思わないだろう。


だから、彼はこう続ける。


「コソコソと……隠れて……陰から……お前は……なにをした……! これは、これは……私の……神からの授かり物……!」


と言いかけた、その瞬間。俺は指をさしながら決めポーズを取る。


「次にお前は、『神からの加護を返せ』と言うッ!」


「神からの加護を返せえ”え”ぇ”ッ!! ッはッ!?」


マクスウェルの喉が引きつったように鳴る。


「台本通りにありがとう 一生に一度は言ってみたかったんだコレ。脚本:俺 演出:俺 主演:お前」


「ふざけるな”あ”あ”あ”あ”あ”ぁ”ぁ”!!」


地を叩き、呻き、灰をまき散らしながら、マクスウェルは這うように俺を睨んだ。

その眼は血走り、すがるように、しかし確かに問いかける。


「ま、まさか……未来視……!? 貴様、未来を見通すのか……さっきのもあらかじめ知っていたというのか?」


息を荒げながら、なおも何か”神の軌跡”に頼ろうとする狂信の残滓に俺は、肩をすくめて言う。


「……は? なに言ってんのお前」


真顔で真剣に即答する。


「未来視なんか出来てたらラグ姐もマルコも引き留めてた。こんな面倒な泥仕合もしてないんだよ」


俺のあまりに身も蓋も無い現実的返答に、マクスウェルはその場でぐらりと揺れ、呆然と顔を下げる。

 

「じゃあさっきの台詞と体勢は」


「ただのノリ」


「……ッッ……」



完全に意気消沈した彼にラグ姐は俺を下がらせて言う


「もういいだろ 誠一郎、どけ」


短く、冷えた声だった。


「コイツは生かしておけない。あたしが殺ってやる」


ラグ姐は剣を引き抜き前に出る。その目に迷いはなかった。どこまでも本気だ。


「コイツはまた来る。時間をかけて、牙を磨いて、あたし達の背を狙う。そういう奴だ」


剣がわずかに持ち上がる。マクスウェルは顔を上げ、ギリ、と歯を食いしばった。


「……ッ!」


俺が何かを言う前に、ラグ姐の足が踏み出す。


――だが。


「はいはいはぁい、ストーップ」


それは妙に軽やかで、けれど奇妙な緊張を孕んだ声。

風が切れる音と共に、紫の布地のような何かが、スッとラグ姐の剣の前に割って舞い降りる。



「喧嘩はそこまで。それに勝ちを確信した後の無粋な追い打ちはダサいわよ?」


ぬっと現れたのは、くねくねとした長身の人物。女のように艶やかだが、どこか男の骨格が残っている。


紫のローブを翻しながら、ラグ姐の前に立ちはだかる。


「あんた……!」


ラグ姐が一瞬だけ剣を止める。目を細め、わずかに警戒を混ぜた声で呟いた。


「さっき……あたしの毒を抜いてくれた………」


「えぇお元気そうでなによりよ。英雄ちゃんは初めまして 私、クロエ・ヴェルミチェッリ。ヴェル美ちゃんって呼んで?」


「あぁ……どうもヴェル美さん……誠一郎です。」


「彼……はイエナの毒と応急処置してくれた人 この村に隠れてた」


「んもう()()でしょ 真面目なんだからマリィちゃん」


ひらひらと手を振って、謎のオネエはマクスウェルとラグ姐の間にスッと立つ。


「それでこの子の身柄だけど私が預かるわね。悪いようにはしない……とは言えないけど、まぁ、好きにやらせてもらえる?」


「ふざけんな、そいつは――!」


ラグ姐が声を上げた瞬間ーーヴェル美はマクスウェルの顎に流れる様に蹴りを入れて彼の意識を奪う。


そしてヴェル美の目に、鋭く凍てついた殺意が走った。強烈な“意思”だけが俺の脳裏に突き刺さる。


「イエナちゃん……ここはお姉さんに任せなさいって言ってるの? わかるわよね?」


ラグ姐の身体がピクリと硬直したのが見え、そして本能的に、俺の目に飛び込んできたのは――わずかに巻かれた彼女の尻尾。


あれは、確実に“尻尾を巻いた”状態だ。

普段の彼女なら絶対に見せない、本能的な警戒の証。


「やべえ……」


その光景を見た途端、俺の背筋に冷たい震えが走る

言葉にできない焦りが、全身を覆う。


ラグ姐の強さは知っている。けど、今の彼女は違った。まるで牙を引っ込めた獣のように、俺の中で何かが音を立てて崩れた。


「――ヤバい……この人……」


震えながらも、俺はそう呟いた。


ヴェル美は俺の反応を見て、にやりと笑う

その笑みは、狙い通りの効果を楽しんでいる様だった


「文句ないようね お利口さん♪」


その場の空気が一気に締まり、俺は思わず、その場から動けなくなった。



July 2, 2025


じかいは7がつ4かまでにはこうしんします ねむいです


ひきつづきおうえんよろしくおねがいいたします うまいです


そうさくたのし  ねむ  うま

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