20 服装
スマホのMAPアプリで新四郷駅周辺を調べていたか霞は、目的の場所を発見した。
「おっあるなのんきホーテまずはここだよなぁ」
そう呟きながら姿見の前に立つ、薄汚れて穴の開いたジャージにドロドロのスニーカー、文明の中に降りて来た今となってはさすがにはずかしく感じる。
ジャージは成瀬が持っていたもので、彼はたまに水窪の町におりて民家から古着をもらい着衣を賄っていた。
その中には高校生が使う学年ジャージも含まれていた、卒業するといらなくなるため成瀬に渡す家が多いのだ。
霞が今着ているジャージもまさにそのもので、どこぞかしれぬ高校生が着ていたものだ。
スニーカーに至っては親指がはみ出している。
(さすがになぁ、これはなぁ、でもまぁのんきホーテにならあるだろう)
そう考えて部屋を出た。
のんきホーテはそう遠くない場所にあった。
店内に入ると目的のコーナーを探すが、物が多すぎて訳が分からない、山ごもりしていた身にはこたえる。
その内「紳士服」のコーナーがあり、そこにあたりを付けて踏み入るとはたして目的のモノがあった。
「就活応援!スーツセットアップ」大きく貼り出されている。
スーツからなにから一式揃ったアイテムである、霞は店員を呼んでその一式が欲しい旨を伝え、同時にここで着替えていくことも話した。
試着室で着替え、着ていたジャージと靴を付属品の鞄に押し込んだ。
スーツに身を包むと気になってくるのがヘアスタイルである、山ごもりの時は成瀬に文房具バサミで切りそろえてもらっていたので、ボサボサのげじげじである。
霞の髪質は軽いパーマがかかったものであるため余計に目立つのである。
店員に美容院の場所を聞いた霞は、すぐその場所に向かった。
店員は三十分ほどで対応できると伝えて来たので、それなら待ちますと言う具合になった。
時間が来て、チェアに座ると明るい感じの若い男がやってきててきぱきと支度を整えて行った。
「向井といいますよろしくお願いします、本日はどうされますか」
「いや、素人に切ってもらっていたのでぐちゃぐちゃなので、俺も良くわかんないのでお兄さんにお任せします」と霞は伝えた。
「いいんですか、それなら、あーお客様は軽くパーマがかかっているので、それを生かしたヘアスタイルにしていきたいと思うんですが、どうでしょうか」
かすみはそれでいいと言う旨を伝えた。
向井はいったん離れると、三冊の雑誌をサイドテーブルに並べた。
日金プレジデント、メンズモンモ、ギアーゼの三冊である。
美容院は人を見て、好みそうな雑誌を出してくると言うがどうなのだろうか、当たり障りのないラインナップに見える。
だが、好んで読んでいたギアーゼがあったのは嬉しかった、ギアーゼを手にしてパラパラと読んでいく「特集!アウトドアギア十選」「タフボディなウオッチ」などの記事に目を通す。
そうしている間に向井は頭にタオルを巻き、それを取り、何事か聞いてきたので生返事で返した。
ギアーゼを読み終わる前にセットは完了した。
「今回、このヘアワックスを使用したんですが非常に評判の高い物なんですよ」と六角形をしたヘアワックスを見せて来た。
「よろしければお使いになられますか」そう進めてくる向かいに必要ない旨を伝えて、会計の旨を申し出る。
向井がトレイに会計シートを乗せて戻ってきたので、そこで支払いを済ませた、のんきホーテで返ってきたお釣りでちょうどピタリの支払いができた。
美容院を出てすぐに、鏡状になった柱が目についたので自分の姿を見ると案外悪くないものに思えた。
(なんだ、良い感じじゃん、異菅と言ってもまぁ仕事なんだろ、スーツで行けば一番無難だろう、どこにでも馴染むしな)
そう考えてホテルへの道を進もうとしたが、急に空腹を覚えたので、目についたハンバーガーショップに入った。
「パリーズバーガーへようこそ」と店員がカウンターへといざなう。
山ごもり生活も相まって、何が何だかよくわからない。
分からないので、チキン、ビーフ、フィッシュ、チーズと当たり障りのないメニュー四つを選択し、ドリンクにウーロン茶のLをたのんだ。
暗くなった街並みを見つめて眩しさを感じていると、店員が自分の呼び出し番号を告げたのでトレイを受け取り二階への階段を登り、適当な席に着きバーガーをガツガツとほうばりはじめる。
山ごもり生活からの変化が大きくて舌がピリピリする。
(もうあの味噌汁飲めないんだなぁ、これからはこんなジャンクフード漬けになるのかね)そう霞は思った。




