”狼”の被害
「あ、あの、”狼”の話聞きたいんですが」
「あ、ああ……そうでしたね、つい、いい飲みっぷりだったもんで」
「おかわりー!」
シンシアさんは空気を読まず、グラスを突き上げた。
「少々、お待ちを」
「いえ……」
シンシアさんに二杯目が行き渡ったところで、店主は話し始めた。
「ほんの、昨日一昨日くらいからの話なんですがね、
夜、灯りを外に漏らすと”狼”みたいなのが襲ってくるようになったんです」
「狼……って野生のですか?」
「いえ、獣っていうよりは影、といいましょうか。
形こそ、狼なんですが、実体があるかもわからない、黒い塊なんですよ」
「……!魔法―ーもしくは使い魔の類い!?」
「ああ、そうですね。そんな感じというか、自然に生まれるようなやつではないですよ、アレは」
「それが……襲ってくるんですか?」
「そうですね……厳密には襲ってくるっていうより、
光に惑わされて、突っ込んでくる、って言ったほうが正しいかな」
「光に……?」
「ええ、店の中で暴れ回る訳じゃありませんが……窓や扉にそんなもんが突っ込んできちゃあ、
商売になりませんからね。ほら、あれですよ、一昨日突っ込まれた窓」
そう言われて、店主が指差した窓を見ると、外側から板で補修しているから、分かりづらかったが、
本来あるガラスは全て取り除かれ、窓枠、フレームがぐにゃぐにゃに曲がっていた。
確かに、窓があんなになっては、落ち着いてお酒を飲むことは出来ないだろう。
「それもまぁ、後暫くの辛抱です」
「どうしてです?」
「解決の為に街の皆で傭兵を呼ぶことにしたんですが、
なんでも、たまたま凄腕の戦士が近くにいるそうで、その人が到着すれば安泰ですよ」
「……戦士、ですか?聞いたところ魔法の類いが原因みたいですが」
「その点は大丈夫だと思いますよ、色んな事件を解決された実績があるそうですから」
「……そうですか」
まぁ、それで解決するなら私がわざわざ出張る必要はないだろう。




