転生者の違和感
「あ、そう……だよ。解るんだ、クリシュナさんは」
「異世界の話は知ってます。
物語、という形でこちら側の世界を一方的に見ることが出来るのも」
「!?……その話、アタシは知らないんだけど」
「そうですか。まぁ、そんなに有名な話ではないですからね」
「じゃあ、どうして、クリシュナさんは知ってるんですか?」
「私の姉……長姉が時空間研究の第一人者なので、その関係で学術書をよく読んでたんですよ」
「……とんでもないですね、クリシュナさんの家系って」
「うちの家族はみんな、私の誇りですから」
「クリスさん、多分、シンシアさんはクリスさんのことも含めて言ったんだと思いますよ」
「え?」
シンシアさんは大きく首を振った。
「ま、まぁ、私のことはいいじゃないですか、シンシアさんの話ですよ。
転生者として何か知ってることはありますか?」
「お兄さん……英雄アルスフォードのことですよね?
残念ながら、アタシはアンヌの物語のことしか知らないんだ」
「そうですか…………え、アンヌ王女の物語?」
「あ、うん。アタシはアンヌが主人公の物語を知っていたんだ。でも……物語にないことが起こった」
「アンヌ王女の死、そのものが想定外……だったってことですか?」
「うん。”原作”には死亡ルートなんてなかった。ましてや、アルベルトによって、なんて」
「アルベルト王子がどうしたんですか?」
「アルベルトは攻りゃ……えっと、アルベルトは互いを兄妹と知らず、
アンヌと恋に落ちる可能性があったの。
そうでなくても、他の対象……えー……別の相手と恋に落ちたとしても、
兄としてアンヌの物語に深く関わり――アンヌを殺そうとする展開なんて、アタシは知らない」
「物語にない展開……?」
「そう、逆にアタシがどうしても避けたかった、
物語に絶対ある展開――シンシアの断罪は起こってしまったんだけど」
「……アンヌ王女の物語じゃなく、シンシアさんの断罪が話の軸になった?」
「そ、そんなのって、ある?」
「いえ、その話を聞いて、思いついたことを言ってみただけです」
「あはは……でも、もしそうなら、シナリオライターは性悪ね」
「……!」
……シナリオ。
度々耳にするその言葉がそのままの意味なら、そのシナリオを描いた執筆者がいる。
そう考えると、事件の裏にまだ黒幕がいるのかも知れない。
「……あ、でも、制作段階のBADENDで死亡展開もあったのかなぁ」
「え?」
「ごめん、なんでもない」




