2-5 出撃
ちょっと遅くなりましたが更新です。
a.m.07:15 MMK第一艦内
「まだ見つからないの!?」
第一艦の通信内に艦長———マキュリー・マキ・マクベルの怒号が走る。それだけで艦内にいる全員が飛び上がった。
通信を受けていた技術員がずれた眼鏡を直しながら震える声で応答する。
「ぜ、全力で捜索しておりますがどど何処にもおらず、ててて手詰まり状態でして……」
「そんなはずが無いでしょ!!必ず艦内に居る!!探せ!!!」
「しょ承知しました!!」
通信機を切らず「急げ!鬼がこれ以上怒る前に!!」と、上官に聞かれていれば確実に懲戒処分は免れないだろう発言をして通信は切れた。
しかしそんなことを気にしていられる程の余裕は、彼女には無かった。
通信パネルを殴りつけ、荒々しく息を吐いて自身の椅子に座った。
「こんな時に一体アイツは何をしているんだ……っ」
彼女がここまで取り乱した理由を話すのには、もう少しだけ時間を遡らなければならない。
a.m.06:50
何時もの起床時間にベットから起き上がった彼女は、服を着替え色々支度をした後、研究室へと向かった。
昨日も遅くまで研究室が稼働していたことに気づいていた。
もしかしたらまだ、彼———マグリス・マキ・マライトが休息を取っていない可能性があり、それは上司として、また育ての親として見過ごすわけにはいかない。
研究室の前まで来て、照明は消えてはいた。しかし一応自分の目で確認しなければ確証は得られない為、自動扉を開け入る。
「いるか、マグリス」
予想していた通り、研究室の中には人の影も気配も無くガランとして静まり返っていた。
中を一回し見回してから、近くの床に落ちていた毛布が気になり拾い上げる。そして動きを止めた。
そこに仄かな温もりを感じたからだ。
「……三時間、というところか。まさか———」
嫌な予感がし、研究室の奥へと駆ける。
まさか、まさかまさかまさかまさか……ッ!?
研究室の最奥部。マグリスが新兵器開発の為にと開けてあった一つの機体固定装置。そこにあったはずの新兵器、そしてそれを扱う為の未完成の新機種が———完成してその場に直立されていた。
「まさかッ、完成させたのか。これを……」
流線型の量産型とは比較にならない程スリムになった二分の一サイズの機体。淡い橙色を基調とした中に量産型の基調色である黒いラインが入っており、頭頂部に通信アンテナと拡声器を複合した部分は後ろにそってオールバックになっている。
見間違うはずもない。
彼の提出した設計図通りのその機体が、今完成している筈の無いその機体が、そこにあるということが異常だった。
「……ッ」
再度駆けだす。次いで目指したのは彼の自室。研究室の隣にあるためすぐにつき、機械扉のロックを解除し開く。
部屋の左側の壁に固定されているベットの上に被さっていた掛け布団を引っぺがす。
しかし、そこにはいる筈のその人がおらず、形さえ変わっていなかった。
「こっちには一度も来ていないということかっ」
部屋の中の通信パネルを起動し、すべてのフロアに届くモードに設定し叫ぶ。
「マグリスが消えた!全員最優先で彼を探せ!!」
そして現在に至る。あれから25分も経つというのに一向に発見の一方は入ってこない。
広いと言えど惑星の四万分の一の大きさの戦艦一隻。その中から一人の人物を探し出すには時間が掛かり過ぎている。
マキュリーの不安と焦りは徐々に積もっていき、もう一度通信パネルを起動しようと手を伸ばした時、プルルルと通信パネルが鳴った。
一瞬怯んだが急いでパネルをタッチする。映し出された顔は、技術スタッフの中でも壮年の男性技師。確かマグリスの父時代から彼ら親子を補佐していた部下だった筈……。
研究室からの連絡はさっき受けたばかりだが……と思い不思議に思っていると、その男性は技師帽を脱ぎ深々と頭を下げてきた。
「申し訳ございません閣下。儂はあんさんに伝えていないことがありますんじゃ」
「伝えていないこと?それはマグリスに関することか?」
「ええ。今、彼がおらんことに関係することで間違いございませんのじゃ」
「……今すぐ艦長室へ来い」
彼は呼ばれることを予期していたのか、連絡後すぐに艦長室へやってきた。
「失礼いたす」
白い顎髭と鼻下の髭が繋がり同じ真っ白な頭髪が歳のわりにあるソフトモヒカン。額には多くの皺が刻まれている。身長はそう高くないが、それでも背筋はピン、と伸びている。
「掛けて」
「いえ、このままで結構」
デスクの前で休めの姿勢で立った状態で首を左右に振る。
自分よりも地位は低くとも先輩故に、此方の心境としては座ってほしかったが、頑として譲らない意思が垣間見えた為そのままにして話を促す。
「儂は昨日、マリナ氏を通じてじゃが彼からある依頼を受けた。その事は閣下には伝えておらんと聞いておった。明日には話すと聞いておったからじゃ」
「私はそのことを聞いていませんでした」
「じゃろうな。儂が絶対に話さんだろうと気づいたのはあの機体を作っていた時じゃ」
「まさか、彼が依頼してきた仕事というのは———」
「ええそのまさかじゃよ。あの機体と新兵器の開発。それが儂に与えられた仕事じゃった」
本当の予定では、確かに昨日から着工して三か月以内に完成させるという目標だった。しかしそれが叶わないと分かり量産型の修理と改善にあたるとマキュリーには伝えられていた。
実際に回収も修繕も終わっており、仕事は完了しているものだと思っていた。
だが、彼は少数で、自身も混じりあの機体を設計しなおし完成させるために動いていたということだろう。
「貴方以外に誰が手伝ったのでしょう?」
「儂意外ですとメルグ、ミック、ムシュナですな。やはり同じようにマリナ氏を経由して着工せよとの命令が来ていたようですぞ」
「全員二十年以上技師を務めるベテランばかり、か。そしてそこにマグリスが加わわって無理すればそりゃ完成するわけよね———それで?」
「……?」
「彼の居場所を知っているんじゃないんですか?」
「いや、それは知らん。儂が関わっておったのは昨日の夜までじゃ」
「じゃあ彼は———」
その時、三度目のコールが鳴る。
ワンコールで通信パネルを起動し応答する。
「どうした!?」
『閣下大変です!一機出撃可能状態に入っています!!』
「それの何が大変なんだ?」
既にミュトラは出撃し、その援護部隊、艦隊の守護部隊は出撃している。遅れていようとも出撃することは不思議ではない。
ただそれはその任を得た量産型の場合の話である。
『出撃可能状態に入ったのは———新型です!!』
「何っ!?」
「ほほう。この戦いで実践投入する気かのう」
「そんな悠長なこと言ってる場合じゃないでしょ!?今すぐ止めて!!」
『無理です!!ハッキングされていて完全に操作権が新機種に移っています!?』
「くそっ」
技師に頷き艦長室を飛び出しエレベータに乗り込む。
隣に並び立つ彼へ訊ねる。
「ハッキングを破ることは可能か?」
「無理でしょうな。儂程度では彼の技量を超えられませんからの」
「やはりそうか……」
「———じゃが、破ることは出来ずとも乗っ取ることは出来るじゃろう。乗っ取ればそれだけで無効化は出来る。まあ、それもどれだけ持つか分からんが」
「それでも構いません。彼を出撃させるわけにはいきませんから」
どんどん階が下がっていくその数字へ視線を向けながら呟く。
「彼を、死なせるわけにはいかない」
出撃ハッチは艦の最下層にありあの研究室から落下させられた機体がそこから飛び出すシステムになっているのだが、現在そこは慌ただしい空気に包まれていた。
「いいから一回降りてください!!」
『大丈夫!やったことないけど、シュミレーターで何回も練習しましたから』
「いや、実戦経験が無いことが問題なんですって!?」
今まさに研究室から降りてきている機体に既に搭乗しているマグリスとマリナが口論していた。梃でも彼は降りそうにない。
「マリナ君」
「あっ、閣下!?あの人全然私の話聞いてくれませんんんんん!?」
「マイクを貸せ」
彼女から引っ手繰るように奪い取り、声を張る。
「マグリス!!何をしているんだ!!」
『閣下……止めないでください!!』
彼は固定装置を切り離そうと機体を捩り動かそうとした———が、固定装置はがっちりとかの機体を固定したまま解放しようとしない。
「へっへっへ。ハックの仕方が親父に似すぎじゃよマグリス」
『叔父さん……ッ』
どうやら彼も、この仕業が誰によるものか即座に理解したようで、私の隣で地面に胡坐をかき自前のPCと固定装置操作装置をリンクさせている。
さすが……というか、電子世界においてはもしやマグリスより腕が立つのでは?と思わせるほどの素早さだった。
「見ての通りだ!この方が居る限り君はそこから動けない!観念して降りてきたまえ!!」
『嫌です!絶対におりません!!』
「おっと、カウンターアタックか。これは久しぶりにやりがいがありますな」
高速でタイピングし次々仕掛けてくるマグリスのサイバーアタックを、彼は確実に防ぎ無効化し、さらに時間が経過するごとにその精度が上がっていった。
『クソッ、邪魔しないでください!!義兄さんを助けに行かなきゃいけないんです!!』
「それは本当にお前の役目か?」
「お、一瞬弱まりましたな。彼はその言葉の示すことが分かってないようですぞ」
カウンターアタックの手が弱まり一気に主導権を取ろうとしているが、そこは流石最高の技術者。一瞬の戸惑いからすぐに立て直し、また拮抗する。
マキュリーがもう一度マイクで呼び掛ける。
「自分のやるべき事を考えろ。お前は技術者だわざわざ前線に赴く必要は無い。それに、我々はまだお前を失うわけにはいかない」
『…………』
彼から返答はない。が、アタックの精度が乱れたところを見ると、また彼は動揺しているということが見て取れる。
最後の一言。マキュリーに言える最後の言葉をかける。
「貴方は———私達の希望なのよ?もっと自分の命を大切にしなさい!」
『……だから行くんじゃないか』
「え……?」
隣の技術者全員から息を呑むような音が聞こえてきた。
目の前の機体が背中のバックパックロケット機構をフル稼働させる。
何故か床に座っていた壮年の技術者がニッと口元に笑みを刻み立ち上がった。
「調整完了じゃ!行け、マグリス!!」
「なッ!?貴様、何をッ————」
『ありがとう叔父さん!』
バックパックがフルスロットル状態になり、両足以外を固定していた機器が外される。見ればこの出撃ハッチの中にいる全員の顔には同じような笑みが浮かんでいる。
『閣下。俺は希望なんでしょ?でも僕が開発した機体を、武器を使うのはいつも他のパイロット。それじゃあそいつらの真価を発揮することなんてできない。だから、僕は———』
ハッチ入り口のところに立つ技術者が、緑色の旗を振り下ろす。それを合図に足を固定している機械がレール上を動き始め、加速する。
『———だから僕が使って、本物の希望になってやる!!』
彗星のように、今まで見てきたMMK所属の機体では見たことのない速度に、マキュリーは細い眼を大きく丸くし驚きに表情を染めていた。
ハッチの中は技術者の歓喜に包まれている。
ハッと我に返り壮年の技術者へジトっとした視線を向ける。
「説明してもらえるのだろうな?」
「はっはっは、聞くまでも無いことですぜ。それよりも、やることがあるじゃないですねかね艦長?」
「はあ……誰のせいだと……」
重い溜息をつきながら自身の片耳に常時装着している通信機を起動し、第一艦内のみならず、周辺の艦にも繋ぎスウと深く息を吸う。
「第一艦周辺艦に告ぐ。開発主任であるマグリスが前線に出た。これは彼の意思であり、我々はそれを尊重したいと考えている」
静かに、すべてのMMK組員が閣下の言葉に耳を傾ける。
「アイツのしたいことはさせる。だがあいつは初めての実戦。恐らく一対一なら勝ち目があっても横から介入されては対処できないだろう」
「だから、横から入ってくる奴らは私達で殲滅する。アイツの希望を———勝利の可能性を引き上げる」
軍服マントで隠れていた右腕を振り上げ正面を指さす。
「総員、マグリス・マキ・マライトを援護し、絶対に死なせるな!」
『「はっ!」』
次の更新は九月以降になるかもしれません。
お待ちください。




