0-1 妖精
二章最初の一話です。
今回は一章と結構趣向を変えています。
……面白ければいいのですが、私にとっても未知数なことなので、どうか暖かな目で読んでください。
空では星空を塗りつぶすような爆発と黒煙により、元来そこから見えるはずの絶景を消滅させていた。
「むう~……」
それに少々の怒りを覚えていた少女が一人。巨木の枝に座り空を見上げながら頬を膨らませながら唸っていた。
「今日はせっかくの天橋星群が見られる日だってのに……こんな時まで戦わなくたっていいのに……もう!」
枝の上に立ち地団駄を踏むが、そんなことをしても無意味と分かっている。嘆息して枝から飛び降りる。帰って寝よう。そう思い自宅へと歩を向けた————その時、
ズズゥ……ン
枝から見えた樹海の奥から轟音と爆風が轟き、熱波が襲う。次いで衝撃波が彼女と周りの樹木を襲う。
少女は両腕で衝撃波と熱波から顔を守るように覆う。
数秒の後、すべてが治まったことを確信し、天を、そこへのびる黒煙を見る。
「まさか、落ちてきたの……?」
あの戦乱の中でならありえるが、しかし珍しい。完全中立惑星であるこの地には、墜落であっても入ってくる機体は少ないのに……それだけ切羽詰まっていたのか、それとも……。腕組みをし考えこもうとした時、視界の中に更なる飛来物を捉える。
それは椅子の形をしており、背もたれの後ろからパラシュートのようなモノがついているが、そのパラシュートには穴が開いており全く機能していない。
こちらへ向かって落ちてくるそれは、かなりの速度を保っているようだった。
「まずっ……!?」
間に合うか!?でも、やらなきゃ!!
その椅子に括り付けられ意識を失っているのかぐったりしている人影があることに気づき意気込む。
大地へ両手を付け大気中の魔力を体内へ吸収し、両手から広げた魔方陣内部へ変換し注入する。その過程で余剰魔力が空気中へ戻り光を帯びる。薄緑色の光が少女の真剣な表情を照らしだす。
「————樹木たちよ!彼を受け止めて!!」
刹那、大地が胎動したかと思うと彼の落下予想地点に生える樹木が急成長をはじめ空へと昇り始める。成長していくのは幹だけでなく、枝とその節々に付く葉も同様である。
それは言わば、自然のクッション。
高速とまではいかないがかなりの速度の個体を受け止められるかは未知数であるが、土によって形成する掌よりも衝撃はある程度受け止めることが出来ることは確かだ。
「接触まで、3……2……1————」
カウントの直後バスン!という音が連続して私の耳を揺らす。
元来視力の良い彼女は、葉っぱによって徐々に減速していくその姿をしっかりと見とめていた。
「あれだと足りない———みんな、動いて!」
今度は自身の口周りに手を添え叫ぶ。するとその周りから50本以上の樹木が斜め上にスライドするように動き、クッションをさらに追加される。
そこまでしても、操縦席が止まったのは、地面から約30メートルの高さとギリギリの所であった。
ふう、と一つ息を吐き自然と滲んでいた汗を拭う。
よかった……間に合ったし、見立て通りになんとかギリギリ受け止められた……。
急いでその場に向かう。樹海の中は少女のホームベースであるため、地面から隆起した根に引っ掛かったり、湿った落ち葉に足を取られこけることはない。常人では不可能なスピードで辿り着いたその場所に落ちてきていたのは——————
「……子ども?」
椅子に固定されていたのが男性であることは遠目からでも分かっていた。しかしその外見に怪訝な声が出てしまう。
空のように透き通るマリリアンブルーの短髪が特徴的な童顔の少年。身長はおそらく少女よりも20センチも高いだろうが、それが人間の青年として見られる平均身長でないことは少女も知っていた。
「大丈夫?意識は――――――――無いみたいね」
頬を何度かペチペチと軽く叩いても全く反応を示さない。幸い脈が正常に動いているため存命であることは間違いない。どこかに怪我をしていないか確認のために体中を触っていると、後頭部に触れた瞬間、何かぬるっとした液体のような感触があり自身の掌を見る。
「なるほどね。確かにこれだけ出血していたら、意識を失っていても不思議じゃない」
手に付着した液体は真っ赤なトマトのような血であった。
操縦席に座っていたことから彼がパイロットであったことは間違いなく、戦闘中に機体が大破し、脱出機能が働いて爆発には巻き込まれなかったが大破した時にどこかの部品が当たったのかもしれない。
「……これ、私が面倒見ないとよね~」
この樹海に住むのは私以外にもいるが、彼らは滅多なことでは動かない。特別な私しか、彼を救うことは出来ないのである。
面倒ごとが大っ嫌いな少女は大きなため息をつき、樹木に片手を伸ばす。すると樹木の幹がひとりでに動き出し、一本の剣となって少女の手中に納まった。その木剣は、刀身も柄も幹と同じ茶色ではあったが、鉄と見まがうかのごとき輝きを放っていた。
剣を持った片手を振り上げ、少年と操縦席を括り付けるベルトを斬る。
少年の体が重力に従い前のめりに倒れるのを両手で受け止める。受け止める寸前に地面に突き刺した木剣は、地面へと沈み込んでいき、元の木があった場所へと帰り幹に溶け込んだが。
「うー、重いー!樹龍さーん、ヘルプミー!」
『うるさいのオ、何用じゃい』
少女は周りに木以外何もないはずの空間から響く古びた声に向けて続けて叫ぶ。
「この人怪我して動けないんだけど、私の腕力じゃ運べなくてー!だから私の家まで運んでー!」
返事はすぐに返ってきたが、その答えは彼女の望んだものとは逆の答えだった。
『嫌じゃよ面倒じゃし』
「な!?薄情なー!!」
『どうしてもと言うんじゃったら、今度酒の肴に“マクリ”を用意せい。その条件が呑めるなら運んでやらんこともない』
「くぬぬ……ッ、足元見あがって盆暗めぇ……」
だが、致し方ない。彼は根っからの人間嫌いであり、その理由を知る少女は最初から声の主が簡単にYESと答えるなど端から考えてはいなかった。何かしらの条件を出してくることは予想していたが、まさか超稀少食材を要求してくるとまでは考えが至らなかった。
「……分かったッ!今度の酒の席までには準備する」
『ならば儂も我慢し貴様の願いを叶えてやろう』
次の瞬間、少年の体に先ほどの余剰魔力の放った光のように薄緑色のベールが包み込んだ。そのまま少女の両手を離れ重力に逆らい頭上へと上昇する。少女の頭から約10センチほどの場所に上がった時点で上昇は止まり、次いで左側への水平移動を始める。その行先は、当然私の自宅。
『あの白いのに言ってあれも片づけさせろよ?儂の寝床に落ちよって……』
「はいはい。でも、この子に八つ当たりしないでよ?」
『……分かっておる。こんな子供を使ってまですることかと、少々憐れんでいるからの。人間の愚行に』
「そういうものですよ、人間って」
何度だって同じ失敗を繰り返す。
過去の歴史が雄弁に物語る未来であっても、そんなものは無いと自ら救われる道を閉ざし、自らが正義であるかのようにふるまい突き進んでいく。
その結果奪われるものが、自分の知らないものに及んでも、責任を取らず、知りもしない。
それが――――人間という生き物だ。
少女は自嘲的な笑みを小さく浮かべ、実体のない声に運ばれる少年に追随した。
夢を見ていた。
目の前で弾ける機体。飛来する弾丸。崩壊する小惑星。通信機から流れる、悲鳴。
まさに地獄絵図。
そんな渦中にありながら、胸の苦しみに耐え、自らの操る機体は、誰よりも速く駆けた。
誰よりも速く、誰よりも多く、誰よりも優しく、目の前に立ちふさがる敵を地に伏せていく。
―――あの機体が、現れるまでは……。
その機体は、彗星のごとく現れ、有利であった戦況を糸も容易く覆した。
怒号と悲鳴。歓喜の声は、既に途絶え、彼の耳を腐らせていく。
それでも彼の操る機体は倒れず、機械の屍を積み上げていった。
そうして、どれだけの時が流れたときだっただろうか。
最後に残った私たちは、戦場の真ん中で、対峙した。
その戦場で最も強く、最も速い、二対の機体。
一機は、鮮烈な青と純白の機体に、花嫁の持つブーケのような装飾の魔法剣を携え。
一機は、紅蓮の赤と漆黒の機体に、不死鳥の紋章が刻まれた巨大曲剣と盾を携える。
奇しくも互いが、自分の背に多くの命を背負い、エースとしてこの宇宙を駆けた。
ならばこの二機が、二人のパイロットが出会ったのは、必然であったのかもしれない。
二機の最高の機体は、軌跡を残し全力で駆けた。
最後の、決着の一撃まで―――――――――――――――。
「――――――――――――ッ!?」
操縦モニターから見える景色を敵の刃が染め上げた刹那、僕は夢から現実へと戻り布団から飛び起きた。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
激しく脈打つ心臓をなんとかおさめるために大きく三度深呼吸を繰り返し、自身の手へ視線を落とす。べっとりと手汗の滲むその手でギュッと握りこぶしを作る。
「クソッ、なんて夢だ……」
最悪の起こされ方だ……と心中で舌打ちをしながら、現状を確認するため辺りを見回す。
そこは、木を組み合わせた所謂ログハウス的な個室であった。
少年の寝ていたベッドは、生物の毛によって作られたものではなく、木の枠に藁が敷かれその上にシーツの乗った粗雑なベッドである。しかしその寝心地は馬鹿にできず、彼が真剣に二度寝を考えた程であった。
部屋の広さはおよそ六畳。ベッドの右側には窓があり、雄大な自然が見えている。
自分の知らない―――少なくとも自分の生まれ育った惑星には存在しなかった―――光景に一瞬思考が混乱する。
「いや、待てよ……」
確か僕が戦っていたのは戦場の中央。つまり、あの惑星の真上だったってことに―――
と、そのとき
「あ、目が覚めたんだね。よかった~」
足先の方にあった扉がガチャリと開けられ、一人の少女が入ってきたのだ。おかげで彼の思考は中断され、警戒心が彼の頭を埋め尽くした。
すぐさまベッドから抜け出し、足に装備していた拳銃を引き抜こうとして―――そこに何もなかったことに気付く。
「ぶ、武器が――――」
「ああ、もしかして、これ?」
そう言いながら少女が、自らの腰裏に身に着けたポーチの中から、僕の持っていたものと同種の拳銃を取り出して見せた。
「返せ!!」
「言われなくても返すわよ。私泥棒でも山賊でもないんだから。はい」
「え……」
予想外の反応に少年は硬直する。差し出された拳銃を受け取ってからも、彼は少女に驚きの眼差しを向けていた。
「……いいのか?」
「何が?」
「だって、これ返しちまったら僕が君を襲う可能性が高まるんだぞ?」
見たところ少女は自身の武器などは装備しておらず、抵抗するすべを持ち合わせていない。そんな状況下で敵に塩を送るようなこと、普通の人間ならばしない。
「大丈夫よ。貴方は私を襲えないし、撃てないもの」
「何故そう言い切れる」
「理由は簡単よ」
と言うや否や、少女の姿が掻き消える。
一瞬にして目の前から消えた少女を狼狽しつつ探していると、動かしていた首に小さな、しかし温かみのある感触が巻き付く。
「―――だって、あなたは人間だもの」
耳元でそう囁かれた声は、間違いなく入口から入ってきたあの小さな少女のもの。
しかしその声音には、明確な殺意を孕んでいおり、僕の喉はゴクリと生唾を呑んだ。
両手を上げ降参の意思を示す。
「わ、分かった……抵抗は無意味だと理解した」
「そ。ならよかった」
「ニヒヒ」と悪戯っ子のような可愛らしい笑い声と表情を浮かべる少女。だが僕は、既にその少女を額面通りの少女だとは思えなかった。なんとか声を震わせないようにしながら問う。
「君はいったい……何者なんだ?」
少女はニンマリと怪しく笑んだかと思うと、ミニワンピースのスカートを両手で持ちお辞儀してきた。
「私はドルング先住民族、ドルイドが一人【大地の巫女】フェイ」
彼女が名乗った刹那、その背中―――肩甲骨の辺り―――から半透明の羽が出現する。
それは少年の住む惑星にも伝わるお伽噺に出てくる妖精が持つ羽のようだった。
「まさかッ……ドルングの三大妖精……?」
「ふふ、そう言われていた時期もあったかなぁ♪」
そのお伽噺で語られていた妖精はこうだった。
海、空、大地。ドルンドにはそれぞれを司る妖精が居ると。
そして、ドルンドに侵入してきた他惑星の生命を――――何の躊躇いもなく排除する、と。
僕は顔を引き攣らせながら、心の中で叫んだ。
見た目詐欺だろ、これ!?!?!?!?
フェイの登場するお伽噺のタイトルは「緑の悪魔」という、所謂教育童話です。
悪いことをする子供はドルンドに連れていかれ、惑星を守護する三大妖精によって無残な死を迎えるという、少しヒステリックな内容です。多くの子供が震撼し恐怖を抱く物語です。これを本当に子どもに読ませていいものかは不明。
そしてこのお伽噺は過去に起きた事件が尾ひれがつきまくり改変された実話ですが、それについては追々。




