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人生屋  作者: 城戸 慎太郎
ヒヤシンス
12/21

エピローグ ~神は語る~

時系列的には眞壁簗が地球へと送られた直後の人生屋店内の話になります。


そして短いです……。

—————————————————————————————————て、手抜きではないですからね!?

 眞壁簗を地球へ送り返した後の人生屋はしばらくの静寂に包まれていた。

 彼女が飲み干していったカップをカウンター上に上げ、テーブルを拭いていると、不意に隣のアビスがため息ともつかない息を吐いた。


「どうかしましたか?」

「いやー、自分の格好良さに痺れてしまってね。またしても迷える子羊を導いてしまダブッ」


 イラッとしたので銀の円形トレイで頭頂部を叩く。喋っていたアビスの口は思い切り舌を噛み、椅子の上で悶絶しているが意に介さず片づけを続ける。


「導いたって言いましたけど、あなたが撒いた種でしょう?」

「ぞうだけど!だにもだたくごどだいじゃん(なにも叩くことないじゃん)だいか(ないか)!?」

「あ、いえ。叩いたのは単純に僕がイラッとしたからです」

「もっと駄目だよ!?」


 今度はこちらがため息をついて、少し血が出ているアビスの口内へカウンターに置いていた氷を放り込む。


「マルコシアスの治癒が掛かった氷です。舐めてたら治ります」

「む、この氷仄かにレモンの味がするが……なかなかに美味いな」

「それはどうも創世神ガイアス―――――いや、大主神様とお呼びしたほうが適切ですね」


 そう、彼こそが神々の集う天界の主にして天祥評議会議長、全ての天使の生みの親――――――大主神である。因みに、ベコイルがこの喫茶店から出ていくときに彼女の体をつかんだ巨拳は彼の手である。

 彼は宇宙であり空間であり時間であるため、実体を持たない。ゆえに展開に存在する巨体も今僕の目の前にいるこの老紳士も、架空の実体でしかない。

 氷を完全に溶かし飲み込んだ彼は、本当に治っているのか確認し、それが真実であることに驚いていた。


「それで、何故彼女を地球に戻したのですか?」

「何故とは?」


 手持ち鏡を直しながら問い返してくるガイアス。本当は分かっているくせに、悪戯爺め。

 心中で毒を吐きながらそれを外におくびにも出さず答える。


「神の理を逸脱しているからですよ。一度死んだ者は輪廻転生の流れの中で新たに生まれない限り、同じ世界へは戻れない。そうでなければ辻褄が合わなくなり矛盾が生まれる。矛盾が生まれると世界は膨大なエネルギーを使い修正力を発揮して、矛盾を解消しようとする。けれど、それによって諸費されるエネルギーは有限。使えば使うほどに地球の寿病は削られていく。それを防ぐために地球の神、とりわけ日本の神は輪廻の理を敷き矛盾を起こさないようにしている。だから———」

「戻すのはおかしい、と言いたいのだろう?わかっているさそんなこと」


 舌打ちでもしそうなその表情に行動の理由を何となく察する。


「図星だったんですね……」

「……ああ、そうだ。私は確かに自身の失敗を帳消しにするために彼女を戻したんだ!!悪いか!?」


 逆切れされた……。老紳士風の外見なのに子供のように泣く姿は思い切りそれを台無しにしている。


「わるかないですが、神々の間で決められたことをトップが破るのはねぇ」

「ぐぬぬ……、フン!いいもん!厳密には理を外れているわけじゃないんだからね!」


「もん!」じゃないよ「ね!」じゃないよ!!というか、理から外れていなかったとしても、禁忌は禁忌だろう。抜け穴というかこれはもはやチートだ。日のお嬢さんがまた怒りだしそうだ。その時の様子が容易に想像できる。


「それで、厳密には理を外れていないというのは?」

「私は彼女を戻したんじゃなく、新しい存在として世界に組み込んだのさ。本に挟む栞のようにね」


 そう言って、懐からカバーのかかった単行本サイズの書籍を取り出す。ちなみに、天界には下界の娯楽が存在する。主に下界から天界へ召された人間が広めているからである。なので、おそらくあの本もその一つと思われる。……ライトノベルブーム、まだ続いていたんですね。


「世界は、未来と過去どちらの記録を所有し、神がそれを管理している。世界の持つその記録を本とするとき、文の中に自ら付け足すことは許されることではない。それは製作者へ対する冒涜だからな。しかし、製作者が自ら考え元から存在していた出演者を居たという記録と共に新たに挟んでやることはできる」

「……前者と後者で、あまり違いはないと思うのですが?」

「大いにあるとも。なぜならそれは、世界にとってあり得た過去なのだから」


 ありえた過去。お客の可能性を扱う人生屋の性質上理解できるが、それは未来だ。可能性とは未来に伸びるもの。過去へも可能性が伸びていたというのは初耳だった。


「知らないのも無理はない。普通は伸びていないものだからな」

「へぇ~……」


 目を細めジトっとした視線を送ると、肩を竦めたガイアスはコーヒーのカップへ口をつけ、「うん、やはり美味い」と呟く。お世辞で誤魔化そうとしているのか、心の底からの言葉か……まあ、どちらもでしょう。

 つまり彼は、ありもしないものをあると世界に納得させた。女神の力を使い代償を支払ってやっと一日分の書き換えしかできなかったものとは桁違いの改変。普通の神でもここまでのことは出来ない。それこそ、地球の日本を司る神であろうとも不可能だ。


「ではもう、彼女の未来は約束された。そういうことでいいんですね?」

「そうとは言っていない」


 柔和な微笑を浮かべながら彼は横目に扉へ視線を送る。


「彼女の未来は、彼女のも。神のみぞ知る—————など、ありえないのだから、な」

 

 キラキラと陽光を反射し輝く水面を覗き込んでいると、透き通る水の中に二つの影が見えた瞬間、


「あ!お魚さんだ!!」

 小さな少女は嬉しそうに声を上げ、水の中へ両手を突っ込む。当然、9歳前後の少女に住処である水中を行く魚を、たとえ逆流していたとしても捕らえることはできない。

 するりするりと少女の手を抜け出した魚達は、昇っていく。


「あー!!……あー行っちゃった……」


 ショボンと肩を落としながら、しかし次の獲物を見つけそちらへキラリと猫のような俊敏さで飛びつく。

 今度はギュッと握りしめた小さな手中に柔らかい中に所々固い生々しい感覚が伝わる。


「獲ったー!!」


 ザバァと水面から頭上に掲げた両手には感覚通り、一匹の魚がピチピチ尾ひれを動かしている。


「お母さーん!お魚獲ったよー!」


 少女は笑顔で砂利の川岸に設置された椅子に座る女性の元へ駆け寄っていった。

 女性は慈しむような微笑みで少女の頬を撫で、自身のぽこりと膨らんだお腹を撫でる。



 

 そこに宿る新たな命に、目の前の第一子に。

 それら2つの奇跡を自身へ授け、そしてそうする機会を与えてくれた神へ。

 ———————あの時の老紳士へ感謝し、女性はまた微笑むのだった。


この章は正真正銘ここで終了となります。

ただこの人生屋という作品は短編の集合体なので、これからも続いていきます。

今後ともご愛読いただければ幸いです。


次章更新は少し遅くなります。


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